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105歩で生き物観察

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浜松科学館自然観察園は地域の方々のお散歩ルート。歩道は端から端まで105歩。普通に歩けば1分足らずで通過してしまいます。 その1歩1歩にもたくさんの生き物がいて、関わり合い、科学… もっと読む
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端から端まで「105歩」の自然観察園で、生き物観察をしてみます。

前回は筆者の自己紹介をさせていただきました。 今回はnoteの舞台となる浜松科学館自然観察園をご紹介します。 西には高さ213 mのアクトタワーがそびえ立ち、北の東海道本線では絶えず新幹線が行き来しています。そんな政令指定都市のど真ん中。浜松科学館の南にある小さな森、そこが自然観察園です。 園内には、約30年前から浜松周辺に自生する樹が植栽され、面積は小さいながらも遠州地域の植生が再現されています。 自然観察園をメインフィールドとした理由として、下の3点があります。

この枝を切り落とした犯人は誰?

前回の記事で、「小さな森での小さな出会い」という言葉を挙げました。 しかし、いきなり生き物と出会えと言われても、どこをどう探せばいいのか困ってしまうと思います。 今回は「小さな出会い」に出会うコツをご紹介します。 今の時期、自然観察園の歩道にはたくさんの枝が落ちています。 拾い上げて見てみると、どの枝も青々とした葉と、ドングリが付いていました。 葉やドングリの形から、コナラの枝と分かりました。 つまり、①新鮮で、②ドングリの付いた、③コナラの枝だけがたくさん落ちているので

「ギザギザ」と「ツルン」、葉っぱの形を観察してみた

今年の夏は特に暑かったですね! 浜松市は日本の歴代最高気温に並ぶ「41.1℃」を記録し、話題になりました。 さて、太陽光が降り注ぐ中、植物たちはその光を葉で受け止めて、「光合成」しています。 光合成とは光エネルギーを利用して、水と葉から取り込む空気中の二酸化炭素を材料に炭水化物(食べ物)を作ること。 この強い日差しも、植物にとっては無くてはならない資源なのですね。 さて、今回は光合成のメイン工場である葉の形に注目してみましょう。 下に自然観察園に生える「コナラ」と「ク

複数枚に見えるけれど、実は1枚な葉っぱの話

前回は葉の鋸歯の有無に着目して、クスノキとコナラの光合成の戦略を見てきました。 今回は、秋に美しく紅葉するイロハカエデ、ナンテンの葉も並べて一緒に比較してみましょう。 それぞれの葉を「1枚ずつ」並べましたのでご覧ください。 ん?何かおかしいですか? おそらくナンテンの葉に違和感があると思います。 葉を1枚ずつ並べたはずですが、たくさんの葉が付いているように見えます。 実は間違いではなく、これで「1枚の葉」なのです。 葉の1枚は、落葉するときに茎や枝などからはがれる部分

アリストテレスに教えてあげたいヤモリの秘密

“run up and down a tree in any way, even with the head downwards” “どんな体勢でも、たとえ頭を下に向けていても、木を登ったり下りたりできる” これは古代ギリシャの哲学者アリストテレスが、キツツキの様子を説明する際に「ヤモリ」の能力を例に挙げた時の言葉です。 今回は、夜行性の動物ニホンヤモリ(以下、ヤモリ)を観察してみましょう。 日中ヤモリは、樹木の皮や樹木のネームプレートの間でじっとしています。 試しにネ

優雅に舞う毒蝶ジャコウアゲハの影響力

10月のある日、秋の空気を感じながら自然観察園を歩いていると、目の前を黒色の蝶ジャコウアゲハがふわりふわりと横切りました。 葉にとまった個体を観察すると、翅や胴体に赤い斑点があり、とても鮮やかな外見です。 それにしても、間近で注視しても全く逃げる素振りがありません。 自然観察園には、ヒヨドリやシジュウカラなど蝶を食べる捕食者がいるにもかかわらず、飛び方然り、ずいぶんと気の抜けた様子です。 実は、ジャコウアゲハは体内にアリストロキア酸という猛毒をもつ毒蝶なのです。 ジャコ

アリの巣に居候するアリヅカコオロギの話

先月と比べて、電気代・水道代がちょっと高い。 冷蔵庫の食料の減りもはやい。 そして他人のいる気配がする! 家には家族しかいないはずなのに…。 ホラー小説のような話ですが、これは実際に筆者が自然観察園で目撃した事件なのです。 観察園を散策中、足元のコンクリートブロックを裏返すとトビイロシワアリの巣がありました。 アリ達は大騒ぎ。何十匹ものアリが縦横無尽に動き回っています(アリさん、ゴメンナサイ!)。 その数十匹はいるトビイロシワアリの中で、1匹だけ変な昆虫を発見しました。

冬に全滅してしまうけれど、毎年日本へやってくる開拓者:ウスバキトンボの話

近頃すっかり肌寒くなってきましたね。 空も高く、秋真っ盛りといったところです。 自然観察園の様子も季節とともに変わってきました。 落葉樹の葉の色は濃い緑色から赤色や黄色がかり、紅葉の兆しがあります。 サクラは、いち早く落葉がはじまっています。 昆虫に注目してみると、9月まで自然観察園の周りやサイエンスパークでたくさん飛んでいたオレンジ色のトンボは姿を消してしまいました。 このトンボこそ今回の主役、「ウスバキトンボ」です。 ウスバキトンボは、市街地でも見られるとても身近な

ネコとヒトの「見え方」の違いから「生き方」の違いが見えてくる話。

仕事がいつもよりも早く終わり、「ちょっと時間が空いたなぁ」というある日の夜、懐中電灯を持って自然観察園を歩いてみることにしました。 もしかしたら昼とは違った夜の世界が広がっているかもしれません。 クロちゃんとの出会い少し恐々自然観察園に入ると、ジッとこちらを睨む黒猫に出会いました。 猫の顔に懐中電灯の光が当たると、眼がランランと輝きます。 これまで一度も見かけたことがない黒猫との出会い。 ※ここでは、クロちゃんと呼びましょう。 やはり私の知らない自然観察園がそこにありま

冬が旬!擬態昆虫を探してみよう。

12月が近くなって、そろそろ冬といった感じですね。 自然観察園は、活動する生き物が減って少し静になってきました。 私たち哺乳類は体温調節が可能ですので、体温を一定に保ち、体を動かすことができます。 しかし他の動物たち、特に昆虫は、体温調節が出来ず寒い冬は身動きがとれません。 動けないことのデメリットの一つとして、捕食者から逃げられないことが挙げられます。 捕食者に食べられないように、昆虫たちはどの様な対策をしているのでしょうか? 昆虫たちの秘策、それは「擬態」です。

「おしっこ」から脊椎動物の進化をみてみよう。

皆さん、今回のテーマは「排泄物」です。 「糞」「おしっこ」が連発しますので覚悟してください(笑) 自然観察園を歩いていると、遊歩道のコンクリートの上にたくさんの鳥の糞が落ちていました。 白黒のいびつな円形。 朝、これが車のフロントガラスに付いていると、とても残念な気持ちになりますね。 糞の中にはボコボコとした植物の種子も含まれていました。 この白色の星型のように美しい造形物はセンダンという樹木の種子です。 秋から冬にかけて、センダンの樹には白色のチョコボールサイズの果実が

葉の裏で裏取引 ~クスノキの害虫を防除する意外な方法~

明けましておめでとうございます。 本年もよろしくお願いいたします。 大晦日から元旦にかけて寒波が到来し、本格的な冬がやってきましたね。 お身体には気を付けてお過ごしください。 自然観察園もすっかり冬で、生き物たちの気配も少なくなりました。 木々の葉は落ち、一年中葉をつける常緑広葉樹が目立つようになりました。 植物たちは寒空の下、温かい春を静かに待っています。 しかし、春が来たら来たらで展開したばかりの柔らかい葉を大量のイモムシたちにむしゃむしゃと食べられてしまうこともし

鼻がムズムズ…。けれど花粉は面白い!

そろそろスギ花粉の舞う季節がやってきますね。 今回は、花粉症の方には憎き存在、「花粉」に注目したいと思います。 そもそも花粉はどんな形? 植物の種によって花粉の形は違うの? そんな素朴な疑問を明らかにしていきたいと思います。 タンポポの花粉をみてみよう浜松科学館自然観察園を歩いているとセイヨウタンポポが咲いていました。 冬の茶色な景色の中で、鮮やかな黄色がとても映えます。 タンポポの仲間のほとんどは、春~夏に開花しますが、本種は一年中花を咲かせます。 通常、花には「

タンポポとナメクジの知られざる物語。

浜松市の中心地にある自然観察園は、ヒトと自然が関わり合い、その関係性を学び・考えることができる大切な場所です。 外来生物はどうして悪者?2020年の夏から毎月1回、自然観察園の整備をしています。メンバーは浜松科学館職員とボランティアの皆さん。活動内容はゴミ拾い、枝打ち、立ち枯れ・小木の伐採等など多岐にわたります。中学生からシニアの方まで幅広い年齢層が有志で集まり、無理のない範囲で和気あいあいと実施しています。 「自然観察園を利用する人々が気持ちよく訪れられるように」「浜松