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はままつフラワーパーク花粉図鑑【浜松ミクロ散歩「花」後編】

はじめに

「浜松のことをもっとよく知りたい!」
好奇心旺盛なスタッフが浜松科学館を飛び出して、浜松各地を訪問。
訪問先で出会った方々とふれあい、こだわりの商品などを科学館にある電子顕微鏡で観察して、ミクロから浜松を探っていく企画です。

今回は、はままつフラワーパークさんで取材させていただきました。
前編の取材記事はこちらから。

この記事では、はままつフラワーパークさんから提供いただいた「花粉」を浜松科学館の電子顕微鏡で観察していきます。

花の写真とともに、ミクロな世界の「はままつフラワーパーク」をお楽しみください。


はままつフラワーパーク花粉図鑑

スイフヨウ(アオイ科/フヨウ属)

咲きはじめの白からピンク、赤と変色します。酔った美人という意味から酔芙蓉(スイフヨウ)と名付けられました。

ハイビスカス(アオイ科/フヨウ属)

ハワイアン!なイメージですが、原産地は東アフリカ。現地では、主に鳥に花粉を運んでもらうそうです。

アヤメ(アヤメ科/アヤメ属)

美しい花もさることながら茎を中心にピタッと重なる葉も好きです。
花粉はソーセージをはさむとホットドッグになりそうな形。

ブラックアイリス(アヤメ科/アヤメ属)

ヨルダンの固有種&国花。日本で咲く姿が見られる場所は、おそらく「はままつフラワーパーク」だけ。2014年にヨルダン大使夫人から寄贈されました。

ウツボカズラ(ウツボカズラ科/ウツボカズラ属)

独特な形の捕虫袋へ目がいきがちですが、ちゃんと花も咲きます。雄花だけが咲く雄株、雌花だけが咲く雌株がある雌雄異株です。

ブーゲンビリア(オシロイバナ科/イカダカズラ属)

キレイなピンク色な部分は花びらではなく、葉が変化したもの。花粉の形も独特ですね。

コエビソウ(キツネノマゴ科/キツネノマゴ属)

花はまるでエビのような形。花粉はタワラ型でイボが並びます。

アネモネ(キンポウゲ科/イチリンソウ属)

園芸種として馴染みのある花です。花粉はイボイボ。より発達すると凹の部分に溝ができます。

オダマキ(キンポウゲ科/オダマキ属)

白色の筒状の花びらがあり、外側では紫色の星型の構造があります。これは花びらではなく萼(がく)と呼ばれる花を支える器官です。

デルフィニウム(キンポウゲ科/デルフィニウム属)

美しい青色の花。「美しい花にはトゲがある」はバラですが、上記のアネモネ、オダマキ、デルフィニウムが属するキンポウゲ科には、毒をもつ種が多くいます。

ユッカ(キジカクシ科/イトラン属)

中米・北米を中心に自生するノコギリのような葉をもつ植物。同じ科でよく似たリュウゼツランはテキーラの原料になります。

シロトゲキンシャチ(サボテン科/エキノカクタス属)

サボテンの仲間も美しい花を咲かせます。鋭いトゲに気をつけながら、花粉を採取しました。

サラセニア(サラセニア科/サラセニア属)

北アメリカに自生する食虫植物。葉がウツボカズラと同じように筒状になっていて、昆虫を捕えます。

ゲットウ(ショウガ科/ハナミョウガ属)

東南アジアや沖縄に自生するショウガの仲間。葉には防腐効果があり、沖縄では葉で餅を包んだ菓子があるそうです。食べてみたいですね。

オオオニバス(スイレン科/オニバス属)

子どもが葉に乗った写真をたびたび見かけますね。ブラジル原産の水連の仲間です。魚に食べられないように、花や葉の裏には針が生えています。

パンジー(スミレ科/スミレ属)

とても身近なスミレの仲間。本種の葉はツマグロヒョウモンという蝶の幼虫の大好物。花壇で本種を見かけたら、ツマグロヒョウモンが産卵していないか探してみてください。

サタツツジ(ツツジ科/ツツジ属)

鹿児島県に自生するツツジの一種。これ以降のツツジ科の花粉は、4粒がくっついた状態なのが特徴です。テトラポットのような形ですね。

浜松茜(ツツジ科/ツツジ属)

はままつフラワーパークで、オンツツジとサクラツツジを掛けあわせて作られた品種です。

モチツツジ(ツツジ科/ツツジ属)

ツツジの中でも葉や花の柄の部分がベタベタした種です。この特徴が和名:"餅"躑躅("もち"つつじ)の由来となっています。

シャクナゲ(ツツジ科/ツツジ属)

葉が大きいので少し意外ではありますが、ツツジ科に属します。言われてみると、花の形や花粉の形状(4粒がくっついた状態)がツツジと似ていますね。

カンザンジツバキ(ツバキ科/ツバキ属)

浜松の地名:舘山寺の名前を冠したツバキの品種。花粉はコーヒー豆のような形ですね。

ハナキリン(トウダイグサ科/トウダイグサ属)

マダガスカル原産の花。花の付け根にはモチツツジのようなベタベタした粘着質な部分がありました。生態的にどんな意味があるのか気になりますね。

ハナタバコ(ナス科/タバコ属)

ブラジル原産の花。タバコ(Nicotiana tabacum)に近い種ですが、鑑賞用の品種として栽培しても法的に問題なく、楽しまれています。

キバナイペー(ノウゼンカズラ科/タベブイア属)

ブラジル原産&国花。英名はゴールデントランペットツリー。まさに花の形はトランペットのようですね。

チユウキンレン(バショウ科/ムセラ属)

ハスのような金色の花。花びらのような苞と呼ばれる器官の間から、小さな花が咲いています。蜜を舐めさせていただいたところ、驚くほどの甘さでした。

バラ(バラ科/バラ属)

はままつフラワーパークにはローズガーデンがあり、200品種以上のバラを楽しむことができます。見ごろは5月中旬。ぜひ訪れてみてください。

エケベリア(ベンケイソウ科/エケベリア属)

北・中央・南アメリカが原産の多肉性の植物。葉の並びが花のようで、可愛らしいですね。

ベンケイソウ(ベンケイソウ科/ムラサキベンケイソウ属)

小さな花が半球状に集まっています。生命力が強いことから武蔵坊弁慶が和名の由来になったのだとか。

ボタン(ボタン科/ボタン属)

大きな一つの枝に一輪ずつ咲き、見栄えがあります。似た種にシャクヤクがありますが、花が散る際にボタンは花びらが1枚ずつ落ちるのに対して、シャクヤクは花全体がぼとっと落ちます。

コバノセンナ(マメ科/カワラケツメイ属)

アメリカ原産のマメ科植物。センナ類の中で、葉の大きさが小さいことからコバノセンナの和名が付きました。ここからヒスイカズラまでマメ科植物が続きます。

ジャケツイバラ(マメ科/ジャケツイバラ属)

日本、中国の山野や河原に生える落葉樹で、つる性で鋭いトゲがあります。花粉にはストライプ模様があり、オシャレな飴玉のようですね。

ナンバンサイカチ(マメ科/ナンバンサイカチ属)

インド・ミャンマー原産の落葉樹で、英名は「ゴールデンシャワーツリー」。房状の黄色の花が、シャワーで水を降りそそいだように見えます。

ホンベニフジ(マメ科/フジ属)

フジは日本固有種で、馴染み深い紫色の花を咲かせます。はままつフラワーパークでは4月中旬からGWにかけて楽しむことができます。

ヤエコクリュウフジ(マメ科/フジ属)

八重咲でホンベニフジよりも花びらが多く、豪華にみえます。花粉もホンベニフジよりも丸っこくて存在感がありますね。

ヒスイカズラ(マメ科/ヒスイカズラ属)

東南アジアに分布し、ヒスイ色の花を咲かせるつる性植物。花粉をコウモリに運んでもらう変わり者。花粉の形は一つ目小僧のようで面白いです。

トキワマンサク(マンサク科/トキワマンサク属)

国内で知られる自生地は、静岡県湖西市を含む3箇所に限られる珍しい種です。黄色な一般的なマンサクよりも色が薄く、おしとやかな印象です。

ネモフィラ(ムラサキ科/ネモフィラ属)

馴染み深い青色の花。はままつフラワーパークでは、春になると青色のジュータンのように咲きほこる様子が見られます。

バンクシア(ヤマモガシ科/バンクシア属)

オーストラリア原産のブラシのような花を咲かせる常緑樹。バンクシア属の中では、山火事の刺激によって果実が裂けて種子があらわれ、発芽に繋がる種がいます。

チューリップ(ユリ科/チューリップ属)

とても馴染みのある花、チューリップ。花粉はアサガオの種子のような形なのですね。知らないことばかりです。

カリカンサス(ロウバイ科/クロバナロウバイ属)

別名:アメリカロウバイの名のとおり、北アメリカ原産で、日本のロウバイと同じ科に属します。花粉の形にロウバイと共通性があるのか気になりますね。

動物媒花な植物たち

美しい花たち、そして奇抜な花粉たちでしたね。

そもそも花粉は子孫を残すための情報がつまったカプセルです。
雄しべで作られた花粉は、雌しべに付着することで受粉し、子孫である種子が作られます。つまり他の株と受粉するためには、自身の花粉を他の株の花へ届ける必要があります。

花粉を媒介する方法によって昆虫や哺乳類を利用する「動物媒花」、風を利用する「風媒花」、水で花粉を流す「水媒花」などが知られています。

動物媒花
風媒花

はままつフラワーパーク花粉図鑑で紹介した花たちは、すべて動物媒花です。動物媒花は、動物たちに花の存在を気づいてもらうために、花弁の色や形が派手なものが多いです。

私たち人間もやはり動物。彼らの花に魅了され、鑑賞用の花のほとんどは動物媒花、もしくはそれをもとに人工的に改良された品種です。

パートナーシップで確実に受粉

商品を開発・販売する際に、企画段階で必ずターゲット層が話題になります。誰にでも売れる商品であることも大切ですが、時には特定の年代や性別に的を絞ることで、一定数の売り上げを確保することも戦略の一つに成り得ます。

動物媒花たちも、花粉媒介者を特定の分類群や種に絞り、動物と親密なパートナーシップを築いているケースがあります。強固な関係性があれば、他の花に浮気されることなく、確実に花粉を運んでもらい、子孫を残すことができます。

クマバチ専門 フジの花

例えば、フジ類の花。
フジはクマバチと親密な関係があります。
藤棚にいると、しばしば見かける丸い体型で大きなハチがクマバチです。
キンムネクマバチと呼ばれたり、地域によってはクマンバチと呼ぶこともあります。

ミツバチやチョウ類など多くの訪花性昆虫がいる中で、どのようにしてフジはクマバチを優先する方法をとっているのでしょうか?

まずは、ホンベニフジの花をあらためて観察してみましょう。

上半分は、薄紫色でキャッチャーミットを構えたよう形。
下半分は、濃い紫色で垂れ下がった形をしています。
一見すると、どこに雄花や雌花があるのか分かりません。

花を摘まんでみると…

下半分が、ぱかっと割れて、奥に雄しべや雌しべがありました。
濃い紫色の部分は、翼弁(よくべん)と呼ばれる2枚の花弁でできています。通常は左右の花弁が二枚貝のように強く合わさり閉じていますが、強い力を加えると隙間が生まれます。

フジは翼弁を閉じることによって、クマバチ以外の力の弱い昆虫たちの訪問を拒んでいます。一方のクマバチは、他の競争者が少ないために大量の蜜を得ることが期待できます。そして結果的にフジとクマバチ間で強い関係性が生まれます。

コウモリ専門 ヒスイカズラ

フジと同じくマメ科に属するヒスイカズラ。

許可をいただき、手にとって観察するとやはり翼弁(二枚貝のような部分)が発達していました。

翼弁と竜骨弁と呼ばれる2枚一組の花弁を、それぞれ1枚ずつ剥がしたのが下の写真です。
雄しべと雌しべは竜骨弁の内側に収納されていました(写真左)。

ヒスイカズラの内部構造(左:外見、右:内部)

蜜は、翼弁、竜骨弁のもとの部分に貯蔵されていました。
許可をいただいて味見すると、あっさりした甘さ。
そして、人間の私でも驚くほどの量がたっぷりとありました。

ヒスイカズラのパートナーとなる動物はいったい何者でしょうか?


答えは「コウモリ」です。

日本、特に浜松が位置する本州では、コウモリと言うと昆虫を食べる種がほとんどですし、肉食性のイメージが強いと思います。しかし、小笠原諸島のオガサワラオオコウモリや、琉球列島のクビワオオコウモリなどのオオコウモリの仲間は、植物の果実や葉、そして花の蜜を舐める植食性です。
ヒスイカズラが自生する東南アジアでは、果実や花をつける植物が多く、植食性のオオコウモリの仲間も広く分布します。

フジとクマバチの関係と同じように、ヒスイカズラも翼弁、竜骨弁によって他の昆虫の訪花を拒んでいます。また花が大きく、花粉をつける雄しべの位置が蜜の位置と離れていることから、昆虫よりも大型のコウモリの訪花を想定しているのかもしれません。

また、ヒスイカズラの色は花の仲間では珍しいヒスイ色。この色は、薄暗い夕方にコウモリに対して映えやすい色と考えられています。

鳥類・蝶類専門 な花たち

フジやヒスイカズラの翼弁のような物理的な訪花性動物の選択以外にも、色によって特定の分類群を誘っている植物がいます。

それは、赤色の花を咲かせる植物たち。
今回、紹介した植物では、ツツジ科やハイビスカスが該当します。

ツツジ科 品種:浜松茜
ハイビスカス

赤色は私たちヒトにとってはとても鮮やかに見えますが、多くの昆虫たちにとっては上手く認識できず暗い色合いに感じるそうです。
私が学生時代に、農業害虫である蛾に寄生するコバチの飼育アルバイトをしたことがあります。夜間に飼育室内で作業する際は、室内を赤色の光で照らしていました。昆虫たちの昼夜のライフサイクルに影響を与えないように、昆虫が認識しづらい赤色のライトを用いていたのです。

昆虫の中でも、蝶の仲間は比較的赤色を認識することができることが知られています。ツツジやヒガンバナに、アゲハチョウの仲間が吸蜜している様子を見たことがある人も多いかもしれません。

また、鳥類も私たちヒトと同様に、赤色を認識することができます。赤色のツバキの花にヒヨドリやメジロが訪れて、顔を花粉の黄色に染めながら蜜を吸う様子を観察できます。
ハイビスカスは、自生地である東アフリカでは鳥媒花であることが知られています。花を観察してみると、とても立派です。小型な野鳥の訪問にも物理的に耐えられそうです。

特にコウモリや鳥類では、昆虫と比較して身体が大きいため、報酬である花の蜜をより多く用意しなければなりません。コストのかかる訪問者とパートナーシップを築くことのメリットの一つに、訪問者の移動性の高さが挙げられます。
コウモリや鳥類は、昆虫と比較してより長距離を移動することができます。そのため、近くに同種の花が咲いていなくても遠方まで花粉を運び、受粉してもらうことが期待できます。野生のハイビスカスが現地でどんな密度で自生しているのか、気になりますね。

進化の道筋が垣間見える 花粉の形

花粉の形は、ハイビスカスのトゲトゲ、ブーゲンビリアの凸凹のように、訪れる虫や鳥たちにくっつきやすい形をしています。また、表面には粘着物質がついていていることも多くあります。

このように花粉の形は進化する上で、訪花性動物のような外的要因を受けつつも、「科・属」などで同じような形になる傾向も知られています。

例えば、ハイビスカスとスイフヨウ。

ハイビスカス
スイフヨウ

花の大きさは似ているものの、色や外見が異なる2種ではありますが、花粉を比較してみると…

ハイビスカスの花粉
スイフヨウの花粉

長い突起が生え、とても似た様子です。
ハイビスカスとスイフヨウの2種は同じアオイ科に属します。

また、サタツツジ、浜松茜、モチツツジ、シャクナゲの花粉は、他の植物とは異なり4粒の花粉がひとまとまりになったテトラポットのような形をしています。例として、浜松茜の花と花粉を見てみましょう。

浜松茜
浜松茜の花粉

サタツツジ、浜松茜、モチツツジ、シャクナゲの4種はすべてツツジ科に属します。ツツジ科は、4粒1セットの花粉を粘着物質とともに訪れた昆虫たちに貼りつけます。

すべての分類群で当てはまるわけではありませんが、「科・属」などの分類レベルで花粉の形が似る傾向があります。
下に今回の花と花粉をまとめた画像、その下に科レベルでまとめた画像を掲載しましたので、見比べてみてください。

花と花粉 まとめ
科レベル まとめ

現在の植物の分類体系では、種間で「科・属」が同じということは、植物種全体を想定した時に、進化的に比較的近しい種であると言うことができます。部分的にではありますが、花粉の形から進化的な道筋を垣間見ることができるのですね。

おわりに

この記事では計40種の植物の花粉をご紹介しました。

花たちは一斉に咲くわけではなく、季節をずらしながら少しずつ咲いていきます。2023年は1年をかけて計4回、はままつフラワーパークへ訪問させていただき、パーク管理課長の和久田さん、常務理事・事務局長の新村さんに丁寧にご対応いただきました。この場を借りて、お礼申し上げます。

左から小粥、和久田さん、新村さん

この記事をまとめている2024年4月現在、はままつフラワーパークでは浜名湖花博2024を開催しています(はままつフラワーパーク会場会期:3月23日~6月16日、浜名湖ガーデンパーク会場会期:4月6日~6月2日)。詳細はこちらから。

フラワーパークへ訪れた際は、
「この花の花粉はどんな形かな?」
「どこから蜜を吸えるんだろう?」
「どんな動物が花粉を運ぶんだろう?」
とミクロな花の世界にも思いを馳せていただければ幸いです。

◆ 参考資料

藤木利之, 三好教夫 & 木村裕子. 日本産花粉図鑑 増補・第2版. (北海道大学出版会, 2016).
石井博. 花と昆虫のしたたかで素敵な関係 受粉にまつわる生態学. (ベレ出版, 2020).
Östman, Ö. et al. Habitat area affects arthropod communities directly and indirectly through top predators. Ecography (Cop.). 30, 359–366 (2007).

◆ 取材協力&試料提供

はままつフラワーパーク

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