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いろんな品種を楽しんじゃおう【浜松ミクロ散歩「フルーツ」前編】

「浜松のことをもっとよく知りたい!」
好奇心旺盛なスタッフが浜松科学館を飛び出して、浜松各地を訪問。
訪問先で出会った方々とふれあい、こだわりの商品などを科学館にある電子顕微鏡で観察して、ミクロから浜松を探っていく企画です。

今回の研究テーマは「フルーツ」。
静岡県では、イチゴや温州ミカンをはじめとする柑橘類、メロン、柿、キウイなどが有名ですね。ご協力いただいたのは、年間を通して約16種類の果物の収穫体験ができる「はままつフルーツパーク」。

はままつフルーツパークは1996年(平成8年)に、フルーツをテーマにした農業公園としてオープンしました。東京ドーム約9個分の広さという広大な園内では、フルーツ狩りの他にフルーツをモチーフにしたアスレチックやグランピング、ワイナリーなども楽しむことができ、大人も子供も楽しめるイベントが盛りだくさん。冬には園内でイルミネーションショーも開催され、浜松市民のみならず観光客の方たちにも大人気の施設となっています。

我々がはままつフルーツパークを訪れたのは1月中旬。
職員の久米さんと小幡さんに、冬に収穫を迎えるフルーツである温州ミカンとイチゴの圃場をご案内いただきました。

左手から小粥、小幡さん、久米さん

浜松市民に馴染み深いフルーツ、温州ミカン果樹園

浜松市の特産フルーツといえば、やっぱり「ミカン」。
特に、三ヶ日みかんは全国に誇る有名ブランドですよね。
こちらでは、10月中旬〜12月中旬まで収穫体験を楽しむことができますよ。

久米さん
今はもう収穫時期を終えてしまって果物はなっていませんが、こちらがミカン畑になります。

小粥
こちらのミカン畑はどのくらいの広さがありますか。

久米さん
4,000平米ほどの広さがあります。
育てているミカンの品種は4品種ありまして、全品種合わせておよそ300本ほどのミカンの木が植えられています。

小粥
たくさん植わっていますね。4品種はどんなものがあるんですか。

久米さん
早生(わせ)の品種である、「高林早生」「宮川早生」「興津(おきつ)早生」の3つと、晩生(ばんせい)の品種である「青島温州」の4つになります。

久米さん
左手前にある木の伸びが旺盛なのが「青島温州」になります。
木の勢いと言いますか、枝ぶりが強く伸びてますね。

青島温州

小粥
確かに空に向かって力強い枝ぶりですね。これが「青島温州」か。

久米さん
この「青島温州」に比べて枝ぶりが比較的小さめなのが、青島より早い時期に収穫を迎える早生の品種です。
早生の中でも、一番木が小さい傾向にあるのが極早生(ごくわせ)である「高林早生」です。

早生品種の木は小ぶり

久米さん
「高林早生」の向かいにあるのが「宮川早生」になります。

小粥
ふむふむ。こちらは「青島」ですか。

久米さん
いえ、こちらは「興津早生」という品種ですね。
「興津」は静岡清水の興津です。

小粥
へえ〜!あの興津か。
なるほど。えっと…、これが青島、隣が宮川、その隣が興津、もうひとつがなんでしたっけ。

久米さん
もうひとつが向かいにある高林ですね。
この高林の隣がまた宮川、興津、青島という並びで植栽しています。

小粥
ああ、どうしよう!覚えられない(笑)
実がなってないと品種を見分けるのが難しいですね。
久米さん、よく見分けがつきますね。すごいな。

久米さん
実は、4品種を決まった並びで植えているのですが、品種ごとに揃えて植えていないので、並びを承知していないと、それぞれ見分けるのが大変かもしれないですね。

小粥
先ほどの「興津」のように、品種の名前は地名や人名のことが多いんですか。

久米さん
そうですね。例えば、「高林早生」は浜松の高林さんという方の畑で育てられていたものが広まった品種です。「宮川早生」を育てていく中で出てきた品種だそうです。

小粥
ミカンは挿木(さしき)(※)で育てていくんですか。
(※挿木…苗を作りたい植物の枝や芽などの一部を切りとり根を生やしてから植える繁殖法。)

久米さん
接木(つぎき)(※)が多いですね。
(※接木…苗を作りたい植物の枝や芽を切り取り、他の植物にくっつけ接ぎ合わせることで新しい個体にする繁殖法。)

小粥
枝によって性質が違うでしょうから、そこから新しい品種が生まれていくようなイメージですか。

久米さん
ええ、そのような形だと思います。

小粥
なるほど。僕らの想像する品種改良とは少しイメージが違いますね。
枝ごとに性質が変わるんですね。
これも接木で育てたんですか。接木の跡は見て分かりますか。

久米さん
これも接木の苗木を植えていますね。
根本を見ていただくと接いだ部分がわかると思いますよ。

根本に段差がある

小粥
あ、なんか根本がポコっとしてますね。
(周りの木を見渡して)みんなそうなっていますね。

久米さん
ポコっと膨らんでいるところから下は台木(※)になりますね。
(※台木…接木の土台となる植物のこと。)

小粥
台木は病気に強い他の品種を元にしているんですか。

久米さん
野生のものは根っこが強いので、原種といいますか、それに近いものが台木に使われています。例えば、カラタチ(※)などですね。
(※カラタチ…中国が原産のミカンの仲間。軟毛に覆われた果実は苦味酸味があり食べられないが漢方などに使われる。)

小粥
あ〜、カラタチですか。鋭いトゲが生えているミカン科の植物ですね。

小粥
早生は収穫が早いと聞きますが、どのくらいで収穫を迎えるんでしょうか。

久米さん
10月上旬くらいから「高林早生」が収穫を迎えます。

小粥
「高林早生」が一番早いんですね。

久米さん
そうですね、極早生という早生の中でも一番手に収穫を迎える品種ですね。
後は、同じ極早生でいうと「ゆら早生」なんかもかなり早く取れます。
これから園内にも導入していきたいと考えている品種ですね。

小粥
お、新しく導入を検討している品種があるんですね。
「ゆら早生」は新しい品種なんですか。

久米さん
いえ、新しくはないですね。
園内のミカンに関しては品種の更新は進んでいないのが現状なんです。高林、宮川、興津も昔からある品種ですね。

小粥
そうなんですか。
僕ら浜松市民に馴染み深い「青島ミカン」はいつ頃から収穫を始めるんですか。

久米さん
収穫は12月に入ってからですね。収穫してから少し置いていただくと味がのってきますよ。保存性が良く、今の時期に食べても美味しいです。

小粥
採ってすぐ食べるのと置いておくのとで味に違いが出てくるんですか。
僕たちが普段食べているミカンも収穫してから一旦置いて出荷されるものですか。

久米さん
少し置くと酸味が抜けてまろやかになります。
青島などのちょっと遅い時期に取れるミカンは少し置いてますね。
温州ミカンだけでなく、ネーブルとかポンカンなどの類も収穫してすぐ出荷するのではなくて少し貯蔵してから出荷します。

小粥
柑橘類では一旦貯蔵するのが一般的なんですね。

久米さん
そうですね。ただ、温州ミカンは収穫してすぐ出荷することもありますので絶対とは言えませんが。

小粥
早生は、採ってすぐ食べても美味しい?

久米さん
そうですね。晩生のものに比べると極早生や早生は日持ちしにくいのでフレッシュなうちに食べていただくのがおすすめです。

温度は高すぎず低すぎず。果物をより良い状態で保存をする低温庫

低温庫

小幡さん
はままつフルーツパークには、低温庫という施設があります。
果物を保存したり、果物をパックに詰めたりなどの作業を行う場所になっています。
イチゴはまたちょっと別なんですが、他の果物は大抵、低温庫で保管しています。

小粥
今の時期もいろんな果物があるんですか。

小幡さん
今はちょうどミカンしか保存されていないですかね。隣の建物に行けばシイタケがありますけど。

小粥
シイタケも栽培しているんですか。幅広いですねえ。では、低温庫にお邪魔します。
おお!温州ミカンだ!おや、他の柑橘もあるんですね。

久米さん
じゃばらミカンといって花粉症対策に効果があるとされるものです。
当園にも、一本だけじゃばらミカンの木があるものですから。

小粥
それは貴重ですね。それ以外は全部青島ミカンですか。

小幡さん
一部、早生もありますね。早生は最後の最後に採ったものがあります。
早生ミカンは日持ちがしないので、ちょっと悪くなってしまっているものもありますね。

小粥
青島の方が日持ちがいいのは何故なんでしょう。

小幡さん
果皮が固ければ固いほど日持ちがするのかなと。

久米さん
もう数は少ないですが、これが青島ですね。
ちょっと見た目綺麗じゃないのもあるので恐縮なのですが。
これらは最後にジュースにしたりなどの加工をするためにここに貯蔵しています。

小粥
なるほど。
今、ここにあるのは来場者さんが収穫しなかったものを職員さんが収穫したものなんですね。

久米さん
ええ、そうです。
青島ミカン、少し皮が硬いかもしれませんが、よかったら召し上がります?

小粥
え!よろしいですか。嬉しいです!

青島ミカンをいただきます

小粥
うん!美味い!
甘くてジューシーですね。

小幡さん
果皮にツブツブがたくさんある方が美味しいよとか言いますよね。
後は、まんまる型よりおまんじゅう型の方が美味しいよとか。

小粥
ツブツブはリモネンという香り成分の油が関係しているんですよね。
このツブツブを顕微鏡で見てみたら面白いかも。

小粥
先ほどここは低温庫とおっしゃっていましたが、現在はこの室内の温度は何度なんですか。

久米さん
この中は今は6度に設定しています。
本来はもう少し高めの温度で保存するのがいいのですが、ジュースの加工が2月末から3月になっているのでこのくらいの低温で保管してます。

小粥
熟成させる意味もあって温度は高めの方がいいんですか。

小幡さん
熟成させるところは、低温庫よりもっと高めの温度ですね。

小粥
なるほど。では、ここはあくまで保管用の場所ってことですね。

小幡さん
冷蔵庫の野菜室に野菜を入れるようなもので、やはり適温というのはありますね。
果物も冷やしすぎるとそれはそれで傷んでしまったりとか、水分が抜けてしおしおになっちゃたりしますね。

小粥
生きてますもんね、野菜や果物も。

冬から春にかけてイチゴ狩りが楽しめるイチゴハウス


フルーツ狩りで定番のフルーツとして欠かせないのがイチゴ。
簡単に収穫できて、もぎたてをすぐに食べることができるため小さなお子さんでも楽しむことができます。

小粥
現在(2024年1月)、フルーツパークではイチゴだけでいうと何品種育てているんですか。

小幡さん
「章姫」「紅ほっぺ」「かおり野」「よつぼし」「恋みのり」「スターナイト」「ベリーポップのすず」「ベリーポップのはるひ」の8品種を育てています。

小粥
8品種も!そのうち、来場者が収穫体験できるのはどの辺ですか。

小幡さん
時期にもよりまして、今の時期だと「章姫」「紅ほっぺ」「かおり野」「よつぼし」の4品種ですね。
一応、「すず」「はるひ」もあるにはあるんですけど、収穫体験していただくハウスの指定をこちらでさせていただいてますので、このふたつに関しては絶対にあるとはお約束できない形ではありますね。

小幡さん
イチゴ狩りシーズンの一番最初の始めたての時は、ハウスを開けられるところから開けちゃってどこでも入っていいですよという形で運営しています。
それ以降の時期ですと、実の減り方や虫が出たら消毒したりなどのハウス毎の状況もありますので、こちらで指定したハウスの中だけで収穫をお願いしますとアナウンスする形が多くなりますね。

小幡さん
それと、「恋みのり」「スターナイト」に関しては土産用になってますね。

お土産用に販売

小粥
ふむふむ。6品種のイチゴを楽しむことができるんですね。
「恋みのり」「スターナイト」はイチゴ狩りはできないけど、お土産としてご家庭で食べていただくことができると。
たくさんの品種を食べ比べられるのは楽しいですね。
各品種それぞれに一番美味しい旬のピークというのはあるんですか。シーズン始めたての時にイチゴ狩りに来るとたくさんの品種が食べれていいなと思ったんですが、フルーツには旬がありますよね。

小幡さん
そうなんです。どうしても品種によって旬の時期がずれ込むことはあります。
最初に「章姫」や「かおり野」といった酸味の少ない品種にピークが来て、もう少しすると「よつぼし」や「紅ほっぺ」といった酸味のある品種にコクが出てきて味がのってくるので美味しくなっていきます。
ですので、一概にいつ頃来るといいよというのは言えないんですが、個人的におすすめなのは2月3月くらいですかね。

小粥
品種によって味に違いがあると思うのですが、個人的におすすめの品種などはございますか。

小幡さん
自分は「よつぼし」が好きですね。
あとは、「かおり野」も風味があって好きですね。
早速、試食タイムにしましょうか。一度、ご自身で収穫してみますか。

小粥
わあ!ありがとうございます。

小幡さん
イチゴを収穫するときなんですが、イチゴを引っ張ってもぐのではなくて、イチゴを下から包み込むように持ってもらって、手首を内側に返すように横にくるっと回すと綺麗に取れます。引っ張ると他の部分が折れちゃったりするので注意が必要です。
では、お好きなのを採ってみてください。

小粥
(レクチャー通りに採ってみると)お、簡単に採れた。
なるほど、株へのダメージが少ない採り方なんですね。

小幡さん
良いイチゴの選び方をレクチャーいたしますと、まずは赤くなっているイチゴ。これは前提条件ですね。そして、ヘタがペチャっとなっているものよりも、しっかり反っているものがいいですね。

ヘタが反っている美味しいイチゴ

小幡さん
ついでに、パックのイチゴは、傷んだものがないかを横方向からもしっかり確認してください。後は、ヘタの萎れているものは鮮度が落ちているので、しっかりとした緑のヘタを選んでいただくと鮮度の良いイチゴを食べられますよ。

小粥
ヘタに注目すべきなんですね。これは耳寄りな情報だ。

小幡さん
これは「かおり野」です。実がちょっと浮き出てくるような感じの見た目をしています。

かおり野

小粥
実は、一般的には種と思われがちな、このツブツブとしたものが実なんですよね。この辺のミニ知識も僕が書く解説記事の方で解説できたらと思っています。
確か、ヘタ側からかぶりつくのが通な食べ方なんでしたっけ。

小幡さん
イチゴの先の方が甘くなりやすいのと、人間の舌で甘さを感じる部分が先にあるという理由からそう言うらしいですね。

小粥
なるほど。
ということは、口に入った時にイチゴの先が舌先にあるといいんだ。

小幡さん
そうですね。
そうすると甘さを一番強く感じることができると言われています。

いただきます!

小粥
あ~!美味しい!

小幡さん
次は「よつぼし」です。果肉の中のほうまでしっかり赤いのが特徴です。

小粥
うん、これも美味しいですね。
本当だ。「かおり野」と「よつぼし」を比べると果肉の色が違いますね。

小幡さん
色味を比べてみるとけっこう違いますよね。
外見で言うと「かおり野」の方がオレンジっぽい。

手前から「かおり野」と「よつぼし」

小粥
どちらかというと「よつぼし」の方が馴染みのある味に感じました。

小幡さん
「よつぼし」は、ほどよい酸味がありますよね。
甘味、酸味、風味、美味(うまみ)が揃って「よつぼし」級においしいと言うので「よつぼし」と名付けられたそうですよ。

小幡さん
次は「紅ほっぺ」と「章姫」です。

小粥
「紅ほっぺ」は一番お馴染みではありますよね。
うん、美味しい。程よい酸味がある。果肉も中までしっかり赤い。
「章姫」は大きいですね。うんうん、柔らかくてみずみずしい。ジューシーです。

左から「章姫」、「紅ほっぺ」

小幡さん
静岡市久能のあたりはイチゴ狩りで有名ですが、あの石垣イチゴは「章姫」ですね。
「紅ほっぺ」は、収穫時期が遅くなってくると酸味が抜けてきて甘いイチゴになっていきます。練乳と合わせて食べたい方は「紅ほっぺ」がおすすめですね。「章姫」とかだと酸味がなく練乳に味が負けちゃうので。

小幡さん
では、次はベリーポップの「すず」と「はるひ」。

小粥
うんうん、このふたつは結構味が近い気がします。

小幡さん
「はるひ」の方が酸味があるんですが、今の時期だと微妙かも。

小粥
ああ、確かに酸味がありますね。

小幡さん
「すず」の方が味が濃くなりやすくて、「はるひ」の方が酸味と甘さのバランスが取れた品種ですよという案内をしています。
食感も固くはないですけど、サクサクっとした食感になっていて食感で楽しめる品種ですね。

小幡さん
これは「恋みのり」と「スターナイト」。
「恋みのり」は農研機構というところで作られた品種で、イチゴ狩りよりかはパック売りの方が向いているとされる品種です。
イチゴ狩り農家さんが毎回パック詰めが大変なので、ある程度大きめで詰めやすいイチゴを作ろうというので開発されたという話を聞いたことがあります。

小粥
そんな経緯があったんですか。「恋みのり」の形は正三角形に近いですね。

恋みのり

小幡さん
なんだかハートみたいですよね。ころんとして可愛い見た目をしています。
酸味は全然なくて甘さがある品種ですね。好き嫌いが分かれるという話も聞きますが、自分は好きです。

小粥
グッド!美味しいですよ。固さがあって食べ応えがある。

小幡さん
「スターナイト」は、三好アグリテックという会社で作られた品種です。
夜空に輝く星のように輝いて欲しいという願いと、これからのイチゴ戦国時代を騎士(ナイト)のように力強く切り開いていってほしいという意味があるそうですよ。ちなみに、ベリーポップの「すず」と「はるひ」も三好アグリテックで開発された品種です。

小粥
「スターナイト」は、色鮮やかですね。これも実がしっかりしてますね。うん、歯応えがあって美味しいです。

スターナイトを片手に

小幡さん
「スターナイト」は、これからの時期のイチゴなのでさらに甘くなっていくと思いますよ。

小粥
やっぱりイチゴ狩りはもぎたてだからか、すごく美味しく感じますね。

小幡さん
イチゴ狩りは、その場で熟したものを自分の手でもいで食べていただけますから美味しいと思いますよ。
出荷されるものは、どうしても熟す一歩手前のものですからね。甘さは全然違うと思います。

小粥
こうやって食べ比べしてみるとすごく面白いですね。思ってた以上に個性があってちゃんと違いがわかる。

小幡さん
イチゴそれぞれで、外見の色味や果肉の色味、食感、風味も違いますよね。
加工した時にどういった風になるのかも変わってくるんですよ。

小粥
加工というのはジャムとか?

小幡さん
ジャムにする時で言うと、「よつぼし」や「紅ほっぺ」はすごく赤くなって色合いが綺麗です。「かおり野」なんかは、茶色くなってしまったりしまうので加工には向いてないんですよ。
ショートケーキにしてもケーキに乗った時の形の良さや酸味の有無があったりして、それぞれの特性によって向き不向きがあるんですよ。

小粥
ショートケーキのイチゴは主役って感じですよね。
僕らが普段食べてるショートケーキのイチゴはまた違う品種なんでしょうか。

小幡さん
多いのは「章姫」や「紅ほっぺ」だったりすると思うんですが、「ベリーポップ」や「よつぼし」もケーキ屋さんには人気がありますね。

小粥
イチゴの品種って全国で言うとものすごい数ありますよね。

小幡さん
ものすごいですよね。イチゴ王国と呼ばれる栃木県はイチゴが有名ですけど、そこだけで何種類あるのというくらい数は多いです。
品種同士を掛け合わせて品種改良していくんですが、番号だけついて却下になっちゃうものもあります。

小粥
それだけ品種改良が盛んに行われているんですね。

一方向を目掛けて真っ直ぐに伸びていくイチゴの生態

小粥
イチゴの苗はどのようにして作るんですか。

小幡さん
一般的には「ランナー」という蔓のような地面を這うようにして伸びる茎によって繁殖します。
ランナーが這っていった先の土に根付くとそこに子株ができ、新芽を出します。新芽が出たら親株に繋がっているランナーを切って株分けして新しい苗を作ります。ハーブとかではよくある繁殖方法ですね。

小幡さん
例外もあって、先ほどご紹介した「ベリーポップ」という品種は、種子栽培が可能な品種です。
最近、品種改良された品種です。

小粥
「すず」と「はるひ」は種から苗ができちゃうんですね。
ということは、このイチゴの株たちは毎年同じ個体ではなくて、毎年新しい株に変わっていますか。

小幡さん
うちは、新しく購入しております。

小粥
今ある株たちから2年目3年目でもイチゴを採ろうと思えば採れるんですかね。

小幡さん
一応、多年草という部類にはなるので、採ろうと思えば採れるんだとは思うんですけど、だんだん少なくなっていきますね。
実をつけてしまえば、それだけ株に残された栄養がなくなっていきますので木が疲れちゃうんですよね。病気のリスクも高くなります。ずっと置いておくと虫が入っちゃったり、ハウス内で病気が蔓延する可能性もありますので、夏ごろに一度全て消毒をして、冬のイチゴに合わせて定植(※)をしています。
(※定植…苗を収穫を終えるまで育てる場所へ植え替える作業のこと。)

小粥
イチゴ農家さんって大変ですね。
毎年、一年近くかけて苗を準備して実をつけて、収穫が終わったら次の苗の世話が始まっているって感じなんですね。

小幡さん
そうですね。大変だと思います。
うちでは苗を購入するという形をとっているんですが、他の農家さんだと自分たちでランナー取って育てて育苗専用の場所で苗を育てるというやり方が多いと思います。

小粥
ランナー農家さんはランナー農家さんで存在するという感じですか。

小幡さん
専業でやられている方がいるのかは分かりませんが、おそらく、収穫シーズンの最初の方に実を採ってしまって、後は苗を育てるのに注力するという形ですかね。

小粥
この苗からランナーが出始めてますね。

小幡さん
ええ。もう結構出てきてるんですが、自分たちは実を育てる方に注力してますので、うちではランナーは取っちゃいます。
ランナーから繁殖するのが栄養繁殖(※)、小さなつぶつぶの実の中にある胚から繁殖するのが種子繁殖だとすると、収穫するイチゴをたくさん、大きく育てるのは種子繁殖を優先させているということになりますよね。
要は繁殖方法の違いと言いますか、ランナーを伸ばすのもイチゴの実をつけるのも、どちらも栄養が必要ですので、どちらかを優先させた方がいいわけです。まあ、ここのイチゴたちは収穫しちゃうので種子繁殖はできないんですけどね。
(※栄養繁殖…胚・種子を経由せずに、根・茎・葉等の栄養器官から繁殖する方法。)

小粥
僕らが食べてるイチゴにそんな裏の育成努力があるわけですね。

小幡さん
フルーツパークでは、今年は6月初めまでイチゴ狩りをする予定ではあるんですが、イチゴ農家さんでハウス栽培しているところは長くて3月くらいまでイチゴ狩りを行います。それ以上経つと虫が増えちゃったりするので、おそらくそのくらいの期間までかなと。
ですので、3月くらいまでで実の栽培はやめて、ランナーの方に注力するんですよね。栽培をやめるタイミングでできちゃった実は廃棄するか、そのまま育ててジャムの原料として出したりとかそういうところが多い印象です。

小粥
フルーツパークでは実を育てるのに専念してるから収穫できる時期が長いんですね。
来場者としては長くイチゴ狩りが楽しめて嬉しいですね。
それに、ここまでいろんな品種が一度に見れる場所ってあまりないような気がします。

小幡さん
品種によって栄養の入れ方が違ったりするんですよね。
例えば、静岡県の品種である「章姫」と「紅ほっぺ」なんですが、「紅ほっぺ」の方が栄養をたくさん摂らないといけないので多めに肥料を与えてます。肥料というか液肥を流しているんですけどね。
品種によって必要とする栄養の量が違うので、農家さんでも多くても2品種3品種のところが多かったりするのではないかなと思います。

小粥
品種が多いとそれだけお世話が大変なんですね。

小幡さん
時期によって手入れ方法も変わったりします。冬場は寒いので木を頑張って育てようとして肥料をたくさん入れても吸わないので、暖かくなってきたらだんだん量を増やしたりなどの調整も行なったりします。

小幡さん
タンクに数種類の液肥の原液を作って、こちらのポンプで吸ってきたものを水で希釈して流しています。
地面の下にパイプを通して、プランターの上下に流しています。
一般の農家さんは、下段は生育が悪くなったり虫が入りやすいので絶対やらないんですが、うちは小さなお子さんでも簡単に取れるように下段もやってます。

小粥
そういえば、イチゴ狩りの時ってイチゴがなっている方向が揃っていたり、収穫しやすいように植えられていますよね。細やかな気配りを感じます。

小幡さん
花が出る方向が決まっているので、そういったことができるんですよね。
親株からランナーが出てきて子株に繋がるんですけど、親株からランナーが来た逆の方向に子株の花が全て出てくるんです。実は一方通行なんですよ。

小粥
親株からより遠くへと花が伸びていくんだ。

小幡さん
なので、石垣イチゴとかも斜めにして向きを揃えて植えているんです。

小粥
ランナーも四方八方へ出るわけではないんですね。

小幡さん
脇芽があるので脇芽からはいろんな方向へ伸びますが、株自体からは絶対に一方向にしか伸びない。

小粥
なんだかイチゴのイメージが変わりますね。
直線的な生き物なんですね。

小幡さん
俺は真っ直ぐにしか伸びないぞという、そういう生き方をしています(笑)

小粥
イチゴの実をつけるために受粉が必要ですよね。どのように行なっているんですか。

小幡さん
ハウス内に巣箱を設置してミツバチに受粉してもらっています。
ただし、うちでは採蜜はできませんけどね。受粉用ですね。

ミツバチの巣箱

小幡さん
株から花芽(※)が出てきますが、株に近いところでなったものは大きく育ちます。
これを頂果(※)と言います。頂果を育てていくと大きくなるんですが、栄養もここに偏ってしまうので、たくさんイチゴを育ててパックに詰めて売るよっていうところだと、頂果を取ってしまったりします。これを取らないと他の実が大きくならないんです。
(※花芽…花に成長する芽。)
(※頂果…苗の中央に最初に出来る実。)

小粥
栄養を分散させるんですね。
そういえば、今年の正月に家族でイチゴ狩りにいったんですが、すごく大きなイチゴでびっくりしました。
ちょっとしたトマトくらい大きくてすぐお腹いっぱいになっちゃった(笑)

小幡さん
大きい実にしたいときは、頂果以外の小さい実を全部取っちゃうんです。
おそらく、花の数を7、8個に絞って他の花は取っちゃって育てたんじゃないかな。

小粥
なるほど。そこも戦略ですね。
どういったイチゴを出荷するのかによって育て方が違うんだ。
イチゴ狩りにも赤字にならないための戦略や満足度を上げるための戦略があるんでしょうか。

小幡さん
色々と考えていると思いますよ。
「紅ほっぺ」とかだと重さがあるのでガッツリ食べてくとすごくお腹いっぱいになりますね。「章姫」だと重さ的には軽くてさっぱりしていますが、水分が多いのでたくさん食べているとお手洗いに行きたくなる(笑)

小粥
あはは(笑)それも立派な戦略ですね。

環境にも経済的にも優しい、新しい栽培方法を研究

小幡さん
こちらでは、有機栽培を試したり、暖房も別のものに変えて栽培できないかなどの栽培方法を試験的に行なっているハウスになります。
他の業者さんと共同で研究栽培したりしていますよ。

小粥
業者さんというのは企業や大学などですか。

小幡さん
現在、共同研究をしているのは日本菌根菌財団さんです。

小粥
菌根菌(きんこんきん)(※)!教育の場でも注目が高まってきていますよね。
(※菌根菌…植物の根に共生し、植物と助け合って生きる菌類。 )

小幡さん
こちらは「かおり野」と「よつぼし」を育てているハウスになるんですが、ここでは「脱炭素」の栽培方法を試しています。
暖房などを重油などのエネルギーを使わないで、電気で補えないかを模索しています。現在、ガソリンなども高騰しておりまして、あわよくば栽培コストを抑えたいという狙いもあります。

小粥
環境や経済的にも良さそうな栽培方法を試しているんですね。

小幡さん
今年から始めたのでまだ結果は分かりませんが、プランターの真ん中にパネルヒーターのような熱線を入れて暖をとっています。

小粥
あ、本当だ。茶色い板がありますね。

小幡さん
温度の管理もできるようになっていまして、土に刺さっているコードの先で地温の計測を行なっています。
土の表面部、地中、プランター底、実の周辺部分、株の成長点周辺の温度を測っています。
天井にはカメラも設置しておりまして、ハウス内の様子を撮影できます。

カメラ

小粥
僕のイメージだと土の中の温度って下の方はほぼ一定だと思うんですが、熱線を差し込むことによって温度に変化が生まれそうですね。

小幡さん
暖房でハウス全体を暖めるよりも、暖めたいところを重点的に暖めた方が早いですからね。

小粥
効率が良さそうですね。

コードを刺して地温の計測

小幡さん
温度の管理と調節はあちらの加温制御盤で行うことができます。
設定温度より下がってきたらヒーターで暖めるという仕組みになってます。

小粥
外気温よりも土の中のほうが暖かいですね。
僕、土の中の生き物を調べていたことがあるんですが、冬だと土の中の温度はほぼ0度かプラス数度という印象でした。
ここの地中はすごく暖かいですね。9度もある。

加温制御盤

小幡さん
温室で暖かい上にさらにマルチ(※)で被覆してもっと暖かくなってます。
今日は曇っているのであまり温度が高くないですが、日中に晴れていればもう少し暖かくなります。
このマルチは黒いマルチなので日差しを受けて暖かくなりやすいんですよ。
(※マルチング…土の表面を資材でおおう栽培方法。ここでのマルチはマルチシートのことを指す。)

小粥
ここの栽培データは外に発表したりしているんですか。

小幡さん
こちらはデータの発表などは特にしていないですね。出すことがあるとしても浜松市に提出するくらいかな。
向かいのハウスは先ほどの日本菌根菌財団さんとの共同研究を行なっているんですが、そちらの方はデータを取っていますよ。
そちらもご案内しますね。

共同研究を行うハウスにて


小粥
こちらでは菌根菌を使った栽培を試している?

小幡さん
そうです。菌根菌を使って農薬を使う量を減らそうと試みています。
ハウス内は農薬は使っていません。ここの暖房も先ほどの電気を使って温める方法で育てています。
水耕栽培や「礫」という土よりも荒い土壌の礫耕栽培なども試していますよ。

小粥
より良い栽培方法を見つけるためにいろんな方が携わっているんですね。

年間を通して楽しめる収穫体験と季節折々のイベント

小粥
はままつフルーツパークでは、フルーツ全て合わせて何種類くらい育てているんですか。

小幡さん
種類ですと160種類なんですが、収穫体験できるのは16種類ですね。

小粥
収穫体験可能として表に出ている数の10倍くらいの種類が園内にはあるんですね。

久米さん
野生のものもありますね。当初は植物園的な目的もあったものですから。

小粥
なるほど。観賞用も含めて160種なんですね。
収穫体験ができる16種類というのは品種も含めてですか。

久米さん
いえ、16種類の中にまたそれぞれ品種があります。
ミカン園でいうと温州ミカンという1種類の果樹に、「高林早生」「宮川早生」「興津早生」「青島温州」という品種がありますよ、といった形ですね。

小粥
同じ種類の果物で違う品種を食べ比べしてみるのも面白いかもしれませんね。

小幡さん
品種によって収穫時期に、早生(わせ)、中手(なかて)、晩生(おくて)とあるので、全ての品種で時期を合わせるのは少し難しいかもしれませんね。

小粥
そうか。ミカンやイチゴも品種ごとに収穫時期のずれがありましたね。
となると、収穫に合わせて何度も来るのが良いですね。

小幡さん
ええ、何度も来ていただけたら嬉しいです(笑)
というのは半ば冗談で、ご無理のないようにお好きな時にご来園いただいて、いろんな果物を味わっていただければ、私どももとても嬉しいですね。収穫可能な品種はホームページで公表していますので、そちらを確認してきていただければと思います。

小粥
はままつフルーツパークでは季節に合わせたイベントもたくさん開催されていますよね。

小幡さん
今度、2月の三連休(2/23〜25)に「いちごサミット」っていうイチゴのイベントを開催しますよ。その時に “利きイチゴ” 大会が開催されますよ。6〜8種類のイチゴの品種を当ててもらうんです。

小粥
利きイチゴ大会、面白そうですね!

久米さん
事前予約をすれば「イチゴパフェづくり体験」や「愛犬とイチゴ狩り」などの特別な体験も楽しめます。
3月には「アーモンドフェスタ2024」というイベントも開催されます。

小幡さん
アーモンドを使ったイベント限定メニューやワンちゃんといっしょにアーモンドの花のお花見ができたりします。
簡易的なドッグランを用意するんですけど、ドッグランの敷地内にもアーモンドの木がありますよ。

小粥
アーモンドの花と愛犬が遊ぶ姿を一緒に写真に撮ったりなんかして、すごく良い思い出になりそうですね。

小幡さん
普段はワンちゃんが立ち入り禁止のエリアですので、特別感があると思います。

小粥
イチゴ狩りにアーモンドの花見ですか。
確か、フルーツパークには梅園もあって梅のお花見もできますよね。
はままつフルーツパークで春の訪れを楽しむのも素敵ですね!

取材を終えて

ミカンは残念ながら収穫のシーズンには間に合わなかったのですが、ご厚意で収穫されたミカンをいただくことができました。
冬の冷たい空気で乾燥していた口内がミカンのジューシーな果肉に潤されて本当に至福のお味でした。

そして、イチゴの食べ比べ、これもとっても美味しかったです。どれも甲乙つけがたく、それぞれの個性が輝いていました。
どんな状態でも美味しいイチゴですが、ハウスの中でもぎたてを食べるとさらに甘く美味しく感じるんですよね。
美味しいイチゴはヘタを見るといいとのことでしたので、イチゴ狩りの際にはどうぞお役立てくださいね!

はままつフルーツパークではイチゴ狩りを、2023年12月16日〜2024年6月2日まで開催予定。採り頃のイチゴが無くなり次第、早期終了する場合がありますので、事前予約がおすすめです。
今が旬のフルーツは公式サイトのフルーツ狩りのページからご確認いただけますよ。

さて、今回の小粥の解説記事ではミクロの世界からフルーツに迫ります(後日更新予定)。
「イチゴの種は種じゃない」「オレンジの爽やかな香りの秘密」など、フルーツの知られざるミニ知識を学ぶことができますよ。是非、読んでみてくださいね!

◆ 取材協力

はままつフルーツパーク時之栖

◆ 記事執筆

黒川夏希(ウィスカーデザイン)

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浜松科学館 みらいーら
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