映画「かぐや姫の物語」で生き物観察。
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映画「かぐや姫の物語」で生き物観察。

今年からスタートした浜松科学館の生き物 note 、ご覧いただいた皆さまには感謝申し上げます。
来年もポツポツと更新してまいりますので、お付き合いのほどよろしくお願いします。

さて、お正月休みに映画やドラマを観る方もいらっしゃると思います。映像の中で行ったことのある場所や見覚えがある物を発見して興奮することはありませんか?通っていた学校、行ったことがある観光地、道路、飲食店、etc.・・・。

最近、私はスタジオジブリ作品の「かぐや姫の物語」を観て物凄く興奮しました!

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平安時代初期に書かれた「竹取物語」を原作に、高畑勲監督によって映像化された本作。

生き物好きの筆者としては、映画に動植物が登場すると興奮します。その生き物の生息環境や生活史から舞台設定が推測されると作品への想い入れが強まって、より深い感動が得られることがあります。

この記事ではスタジオジブリから公開・提供されている「かぐや姫の物語」の静止画を、生き物好きな筆者の視点で鑑賞していきます。じっくりと観察することで、スタッフの方々の細部まで丁寧に作りこむ情熱、こだわりを改めて感じました。

それでは一緒に「かぐや姫の物語」の世界へ迷い込んでみましょう!

シーン① コブシ

姫が初めて立ち上がり、歩く場面。姫は近所の男の子から「ターケノコ!ターケノコ!」とからかわれ、そちらへよちよちと歩いてしまいます。そこへ後ろから翁が「ひーめ!ひーめ!」と呼び、姫を振り返らせます。

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正確に、美しく、生き生きと描かれたコブシの花
背景にコブシの花が咲いています。コブシには、花弁が6枚で、花の下に小さな葉が1枚付くという特徴があります。似た花にハクモクレンがありますが、本種の花弁は9枚で、花の下に葉は付きません。コブシの花弁は大きく開き、ハクモクレンはそこまで開かないという咲き方の違いもあります。改めて画像を見てみると、花は大きく開き、花弁6枚、その下に小さな葉1枚。コブシの特徴が正確に描かれています。映画ではコブシの蕾がほころび、柔らかく開花する様子が美しく描かれています。

コブシが満開ということから、時期はおそらく3月下旬。早春で草花の芽吹きはまだまだこれからです。茶色の世界の中で、コブシの花と姫の桃色の肌が映えて、生命力に満ちた春の到来を予感させます。


シーン② イノシシ、ハハコグサ、ツユクサ、オニタビラコ

姫が翁と竹林に訪れ、イノシシの子供と戯れる場面。この後、姫を警戒した親イノシシが怒って突進してきますが、危ういところを少年捨丸に助けられます。

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縞模様が可愛いウリボウ
イノシシの子供には、成獣には無い白色の縞模様があり、これには新緑の林の中で捕食者に対する保護色の役割があると考えられています。縞模様がシマウリに似ていることから「ウリボウ」とも呼ばれます。6頭のウリボウに縞模様がくっきりと描かれ、とても可愛らしいですね。

初夏の里山に咲く草花
手前には開花した草本3種が描かれています。

左下の白色の花はハハコグサ。茎や葉が白色の毛で覆われ、葉の形状は丸く、黄色の花が咲きます。似た花にチチコグサがあります。チチコグサの葉は細長く、花の色は白色です。映画の花も、花の色からチチコグサかなと思いましたが、葉の形状が丸いことや、全体的な雰囲気からハハコグサと同定してみました。ハハコグサは春の七草として親しまれています。

中央に咲く青色の花はツユクサ。中学校、高校の授業で本種の気孔を観察して憶えのある方も多いかもしれません。青色の花弁に黄色の雄しべが良く目立ちます。

ツユクサの右隣に咲く黄色の花はオニタビラコ。草丈が0.2~1 mと高く、ハハコグサやツユクサを覆っています。

花期は、ハハコグサ:4~6月、ツユクサ:6~9月、オニタビラコ:5~10月です。3種が同時に咲いていることから季節はおそらく6月。この後に梅雨のシーンがありますので、梅雨入り前の6月上旬と予想されます。風景全体が新緑で満たされ、姫の爆発的な成長、生命力と相まっています。


シーン③ アブラナ、モンシロチョウ、ゲンゲ

5人の公達(車持皇子・石作皇子・阿部右大臣・大伴大納言・石上中納言)の求婚を巧みに退け、かねてから行きたかった花見にようやく出発することが出来たかぐや姫。農村の春の風景が描かれています。

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中国大陸から伝搬したアブラナ
手前に黄色の花が咲いています。葉が茎を抱いている(包んでいる)様子から、アブラナと分かります。似た種にセイヨウカラシナがありますが、こちらの葉は茎の側面に付き、アブラナとは異なり茎を抱きません。アブラナは弥生時代に中国大陸から伝えられ、平安時代には菜の花油の原料として日本各地で栽培されていたと考えられています。

アブラナ科植物とともに日本に定着したモンシロチョウ
アブラナのまわりを白色の蝶、モンシロチョウが舞っています。今では馴染みのあるモンシロチョウですが、意外にもアブラナ科植物とともに中国大陸から持ち込まれた外来生物と考えられています。ヒトの移動とともに生き物が地域間を移動し、移動した先の生態系へ影響を与えてしまう外来生物の問題は、現代だけでなく古来から起こっていたのですね。ただ現代では、車、鉄道、飛行機など移動手段が発展したことによってヒトや物の移動が国内外問わず盛んになり、外来生物問題は当時と比較すると爆発的に大きくなっています。この問題については、また別の記事で詳しくご紹介したいと思います。

農地の肥料になるゲンゲ畑
アブラナの奥にはピンク色のゲンゲの花が咲き誇っています(本種をよく「レンゲ」と呼ぶことがありますがこれは俗称です。ここでは標準和名の「ゲンゲ」で統一します)。ゲンゲも古来、中国大陸から人為的に伝搬された植物で、弥生時代の佐賀県久留間遺跡からその種が出土しています。
ゲンゲは根に窒素固定菌をもち、菌には空気中の窒素を取り込む性質があります。窒素は農家さんにとって貴重な肥料。静止画のゲンゲ畑も、土壌中の窒素濃度を上げ、農産物の収穫量を増やすために栽培されているものでしょう。現代では、肥料としてゲンゲの代わりに化学肥料が使われています。化学肥料は一度施肥するだけで土壌に窒素成分を与えることができます。より便利で効率的になった反面、美しいゲンゲ畑が見られなくなるのは少し寂しい気がしますね。

高畑監督は平安時代には定着していたであろうアブラナ、ゲンゲ、モンシロチョウなどの動植物を当時の農村の春の風景として美しく描いています。また、ゲンゲ畑という今では見られなくなった景観から、現代の科学技術の発達と農耕様式の変化を垣間見ることが出来ました。


シーン④ ヤマザクラ

花見への道中、かぐや姫はサクラの巨木を見つけて牛車から飛び降り、駆け寄ります。花弁が舞い散る中で楽しそうに舞う本作品の代表的な場面の一つです。

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自生種:ヤマザクラと、新しく作られた品種:ソメイヨシノ
静止画をよく見るとピンク色の花に混ざって赤色の点々が描かれています。動画で観ると、この赤色が葉であることが分かります。

赤色の葉が分かりやすい別のシーンの静止画↓

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このサクラは、花と葉が同じタイミングで出ているのですね。

サクラは「花が散ってから葉が出る」というイメージがある方には、少し不自然に感じるかもしれません。私たちが日頃から慣れ親しんでいるサクラは、ソメイヨシノという品種です。ソメイヨシノは、自生種のエドヒガンとオオシマザクラを掛け合わせてつくられた品種です。花が散った後に展葉するのは、エドヒガンの性質を受け継いでいるからです。江戸時代後期に誕生した比較的新しい園芸品種ですので、平安時代以前の竹取物語の世界には存在しません。

それでは、このサクラは何という種(品種)なのでしょうか?

日本に自生するサクラには、ミヤマザクラ、チョウジザクラ、ヤマザクラ、オオシマザクラ、マメザクラ、タカネザクラ、カスミザクラ、エドヒガン、オオヤマザクラ、カンヒガンザクラ、そして2018年に新種記載されたクマノザクラの計11種があります。

このうち、3つの条件

①本州に広く分布
②花弁がピンク色
③花と同時に赤褐色の葉が展開する

を充たすのは「ヤマザクラ」です。本種は、江戸時代以前に主流のサクラとして親しまれていました。仮にこのシーンのサクラがソメイヨシノでピンク一色だったならば、ここまで美しいシーンにはならなかったと思います。ヤマザクラだったからこそ、ピンク色の中にの濃い赤色の葉が映え、かぐや姫の着物の柄と相まって一度見たら忘れられない情景になったのではないでしょうか。

おわりに

筆者は2013年公開時に本作品と出会いました。当時学生だった筆者は登場人物の心情や、言動ばかりに注目していたと思います。今回7年ぶりに本作品を観返したとき、正確で、生き生きとした自然の描写に目が釘付けになりました。自然の描写は、その時のかぐや姫の身体性、精神性と見事にリンクしており、物語に奥行きを持たせていました。自然をはじめ、歴史、民俗、科学など様々な側面を丁寧に作りこむ職人技が、ジブリ作品を観た時に味わう深い感動を生む原動力の一つになっているのかもしれません。

この記事を執筆するにあたり、静岡県立森林公園スタッフの方々から植物の同定、生態、歴史的背景についてたくさんのコメントをいただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。生き物の特徴や歴史的情報を手掛かりに考察を深めていく作業は、とても楽しいものでした。ただ一つ心残りは、宮中の場面に登場するサクラの種を同定できなかったことです。

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「花とともに展開する葉が緑色なことから、自生種のカスミザクラか?」それとも「園芸品種のヤエザクラの仲間か?園芸品種を描くことで、宮中の庭園という人工的な場を強調して表現しているのでは?」という2つの意見が出ました。種を特定するには至りませんでしたが、私たちの想像力を掻き立たさせてくださったスタジオジブリスタッフの皆さまに改めて感謝申し上げます。

今回ご紹介した動植物は物語の中だけで生きているわけではなく、私たちの身近でも観察できるものばかりです。特にハハコグサ、ツユクサ、モンシロチョウなどは浜松科学館の自然観察園でも見ることが出来ますよ。

作品からリアルへ、リアルから作品へ、知識や経験が行き来すると一度見た映画や日常生活がさらに奥深く、面白く、楽しくなります。

皆さんも登場する自然環境に注目しながら、映画鑑賞を楽しんでみてください (^^♪


参考資料
ゲンゲ / 国立環境研究所 侵入生物DB. https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/80930.html.
かぐや姫の物語 - スタジオジブリ|STUDIO GHIBLI. https://www.ghibli.jp/works/kaguyahime/#frame.
勝木俊雄. 日本の桜. (学研プラス, 2009).
野に咲く花 増補改定新版. (山と溪谷社, 2013).
佐賀市webページ. https://www.city.saga.lg.jp/site_files/file/usefiles/downloads/s34621_20121227051227.pdf.


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浜松科学館自然観察園は地域の方々のお散歩ルート。歩道は端から端まで105歩。普通に歩けば1分足らずで通過してしまいます。 その1歩1歩にもたくさんの生き物がいて、関わり合い、科学的な事象が起こっています。「小さな森での小さな出会い」を少しずつお届けします。