深蒸し茶ってどんなお茶?【浜松ミクロ散歩「お茶」前編】
「浜松のことをもっとよく知りたい!」
好奇心旺盛なスタッフが浜松科学館を飛び出して、浜松各地を訪問。
訪問先で出会った方々とふれあい、こだわりの商品などを科学館にある電子顕微鏡で観察して、ミクロから浜松を探っていく企画です。
今回研究するのは、お茶。
静岡県は言わずと知れたお茶の名産地。もちろん、浜松市でも栽培が盛んです。
浜松市の中では、三方原台地で主に栽培される「浜松茶」、天竜区で栽培される「天竜茶」「春野の茶」の3つが代表的と言われています。
浜松市民にとってお茶は馴染み深く、「地元で採れたお茶を毎日飲んでるよ」「地元に行きつけのお茶屋さんがあるよ」という方も多いのではないでしょうか。
私たちの食卓に欠かせないお茶ですが、どのように作られているのかをご存知ですか。
植物のチャノキが食品のお茶になるまでを学ぶため、製茶工場に見学に行ってきました!
ご協力いただいたのは、浜松市西区に店舗を構える「村松商店」。
当店の3代目店長を勤める、村松正浩さんにお話を伺いました。
今回、見学させていただくのは、荒茶(あらちゃ)の製造工場。
荒茶とは、茶畑で採れた茶葉を一次加工した状態のものを言います。
村松商店では生産から販売までを全て自営で行っていますが、通常の茶農家さんたちによって製造された荒茶は、茶問屋さんと取引されます。その後、茶問屋さんや仕上げ工場にて、火入れやブレンドなどの「仕上げ」という工程を経て商品として店頭に並びます。店頭にはあまり並ばないという荒茶はどのようにして作られるのでしょうか。
お茶っぱは生きている 鮮度を保つ工夫
村松さん
うちは、地元の茶葉だけを収穫して、製茶して製品にしています。
その畑がこの辺に約30箇所ぐらい。昔から、それぞれ地主さんがいらっしゃる畑をうちで管理させてもらっています。
村松さん
この辺の台地っていうのは三方原台地の一番南のとこら辺で、非常に日当たりがいいです。太陽をたくさん浴びてるので、非常に新芽もよく育つ、大きく育つような畑になります。大きく育った新芽は、味が濃いしっかりした芽になります。
村松さん
この木製のコンテナは収穫したものを運ぶためのコンテナ。
ダンプにこのコンテナを載せて茶畑まで行って、収穫した茶葉をコンテナに積み込んで工場へ運びます。
工場へ運んだ生葉は「生葉コンテナ」という大きなコンテナに移します。
生葉コンテナに入れられた生葉はベルトコンベアで次の工程へと運ばれていきます。
1日に3,000kgから4,000kgぐらい、多い時には4,500kgの茶葉を収穫します。
1時間あたり約380kgか多くて400kgぐらいをベルトコンベアで流していきます。
村松さん
ですので、午前中いっぱいで、この中に3,000kgぐらいの葉っぱが積まれていくんですね。
生葉は植物なので、どうしても収穫した後には熱を持ちますよね。
なので、コンテナの下から風を当ててやって鮮度を保ってあげる必要があります。
小粥
熱を持つっていうのは、外気温の熱?
村松さん
いえ、葉っぱが熱を持ってるんですよ。葉が呼吸して放熱しているんですね。
熱を持ったまま放っておくと、しおれてきてしまいますので。
うちは、木製のコンテナの下にも送風機をつけて風を送ってあげるくらい鮮度を大事にしてますね。
生葉コンテナの中だけじゃなくて、工場へ運搬中の収穫したての葉っぱにも風を送ってる。なかなかここまでやってる人はいないんじゃないかな。
小粥
なるほど。生きてるんですもんね。
村松さん
今は、昔より全然鮮度が良いですよ。
昔は、手摘みで袋に入れたり、袋に入ったものを買って、トラック山積みにして工場に持ってくるというのをやってた。
そうすると、収穫してから1〜2時間経ってしまって、貨物の下の方は特に熱くなっちゃう。
でも、現代ではこういう機械を導入しているので、鮮度が良くなっていると思います。
村松さん
問屋さんの工場長とかは、うちのお茶は「鮮度がいい、嫌味臭がしない」って言ってくれますね。
見る人が見れば、うちの鮮度に関してのこだわりはわかってもらえると思います。
小粥
いつぐらいからこの設備を導入したんですか。
村松さん
8年ぐらい前ですかね。お茶刈り機を変えてコンテナ型にしてね。
それまでは僕らも袋どりだったんですよ。袋どりと言っても、手摘みではなく機械で刈ってはいましたが。
村松さん
葉の水分も、ここの場で風をあてたりすると、5%ぐらいは蒸発しますね。
仮に4,000kgを収穫しても3,800kgぐらいになってますので、そのぐらい落ちてると思います。
味や香り品質を決める 蒸しの工程
村松さん
まずは蒸しの工程なんですが、生葉コンテナからベルトコンベアで蒸機に運ばれていきます。蒸すことで、酸化を防いだり、きれいな緑色を保ったり、青臭みを和らげたりする効果があります。
浜松茶は深蒸しが主流です。深く蒸すってことで長い時間をあてて蒸すんですが、
長いと言ってもそんなに何分も蒸すわけじゃなくて、90秒から120秒ぐらい。
小粥
長時間と言っても数秒の話なんですね。
村松さん
そうなんです。
蒸機には回転する筒がついていて、さらにその筒の中に羽のついた撹拌棒があります。
回転する筒の中で茶葉が蒸されていきます。
村松さん
蒸し加減は収穫したものを見て触って柔らかさを確かめて決めます。
小粥
収穫された葉を見て、蒸し時間はこれくらいでしょう、と。
村松さん
胴(筒)の回転と攪拌棒の回転で蒸した茶葉を筒の外へ押し出していくんですが、
筒の中を通過する時間が蒸し時間なので、葉っぱが筒の中に長く留まると蒸し時間が長く、短いと蒸し時間が短い。
そういうふうに時間の調整をしています。
村松さん
収穫の時期が早ければ、葉っぱがみるく(※)て柔らかい。後に行けば行くほど少し繊維の度合いが上がって硬くなってくるんですよね。
なので、昨日よりちょっと硬くなったなと思ったら、筒の傾斜角度や回転などを調整していきます。
(※みるい … 若い、柔らかいという意味の静岡弁。元々は、茶の新芽の状態を指す、茶栽培の専門用語。)
村松さん
僕らはここの場所で茶葉の香りを常に嗅いであげて蒸し具合を見るんですよ。
大きな工場だとここに必ず人が立ってます。蒸機の番人がいる。
品種によっても蒸し具合は変わります。
村松さん
この蒸機は7尺ってサイズ。工場によっては8尺のところもありますよ。
工場によって設備やお茶作りは全然変わりますね。
同じ深蒸しでも味や香りを比べれば工場によって全く違います。
村松さん
葉の色もギリギリのところを攻めてあげないと緑に保てないし、かといって蒸し過ぎちゃうと煮えちゃう。
逆に浅蒸しだと渋みが残っちゃう。
そんな感じで、蒸しの工程はとても繊細で、僕もまだまだ勉強中です。
親父の方が経験豊富で、経験と勘に従ってやっているなという感じです。
小粥
熱を加えるということだけを考えると、蒸し時間が浅いとさっぱりしてそうだなって。
深く蒸した方が成分が滲み出てきて、苦味が出てきそうなイメージがあるんですが。
村松さん
深く蒸した方が細かくなるので成分が出やすくなって味も濃くて渋いんだけど、僕らは嫌な苦味じゃないところを狙っているというか、苦味が風味に変わる加減を狙ってる。
茶葉の香りの変化と葉っぱがくたんとなるところを見ながら。
小粥
職人技ですね。
村松さん
僕らは収穫日初日から最後まで同じ品質のお茶を作ろうとしています。
初日のみるい芽から少し硬くなってきた最後の頃までの差をできるだけ感じさせないように加工する。
感覚の部分もありますが、毎年記録を取っているので大体同じように仕上がりますよ。
小粥
朝に採るのか、日中に採るのかで芽の硬さが変わってきちゃうんですか。
村松さん
いや、そこまでは変わらないです。その日一日は同じ状態かな。
今年は4月16日から始まったんですけど、そこから終わりが5月1日ごろまでです。
なので、約16日ぐらい。
小粥
一番茶に使う新芽でも16日経てば状態も変わってしまうんですね。
村松さん
一番茶や二番茶などのグレードはありますが、収穫量が増えてくるから値段がだんだん落ちてくるっていうイメージ。
一番上のお茶は、市場価格で言ったら大体キロ6,500円。一番下は、正直に言ってキロ1,200円までになってくる。
ご予算に合わせて買っていただくのが一番なんですけど、今年は上から下までいいものができてるなという印象はありますね。
いかにして水分を飛ばすか。工程の8割は“揉んで乾かす”こと
蒸した後は、「粗揉(そじゅう)」、「揉捻(じゅうねん)」、「中揉み(なかもみ)」、「中揉(ちゅうじゅう)」、「精揉(せいじゅう)」という順に工程を進めていきます。
村松さん
毎日、大体3,000kgから4,000kgぐらいの収穫量と言いましたが、そのうちの5分の4が水分なんですよ。
収穫量の5分の1が製品になるので、生葉は400%の含水率を持っていると言えます。
ですので、ここからは含水率を4%まで落としていく工程になります。
小粥
ということは、工場内はすごい水蒸気が…?
村松さん
水蒸気が出るほどじゃないですけどね。蒸してからは風を当てて乾かしていくので、熱気というか…、本当にもう暑いです(笑)
小粥
先ほど葉を蒸してましたけど、乾かす工程ではもう温度は冷えていますか。
村松さん
まだ熱々です。最初のうちは、風と言っても熱風を送っています。
まずは、粗揉(そじゅう)。一番最初に葉打(はうち)機という、葉を乾燥させる機械にかけていきます。
村松さん
この機械の中には大体110キロぐらいの葉っぱが入って、それを18分くらいかな。工場稼働時には、単純計算で1時間で3回半、回していくイメージ。
中には、回転軸にクワのような形の葉ざらいと、葉を揉むための揉り手がついています。
蒸したばかりの葉には水分が葉の表面に付いていますので、90〜95度の熱風を送りながら、葉ざらいと揉り手で葉を持ち上げては落とすことで表面の水を飛ばします。
ここで大体、含水率230%くらいまで水分を除くことができます。
村松さん
次は粗揉(そじゅう)機にかけます。お茶を粗く揉む機械ですね。熱風を当て乾かしながら揉んでいきます。一度に葉打機と同じくらいの量を捌くことができて、この機械に大体35〜6分かける。
うちは2台持ってます。18分と葉打機にかかる時間が短いので、粗揉機は2台でまわしてます。
風を送りながらというのは、洗濯物と同じで風がないと乾かないのでね。
ここでは大体含水率100%。モノに対して半分くらいの水分量。
小粥
まだ半分水分がある状態なんですね。
村松さん
操作パネルで、風と揉り手と茶温(茶葉の温度)を調整します。
茶温は大体35度くらい。
茶温を上げ過ぎちゃうと葉っぱが黄色くなっちゃたりするので、人間の体温よりちょっと低いくらいに保ちながら。
村松さん
機械の中にお茶のカスが溜まるから、夕方から来てくれるアルバイトの方が毎夜ガリガリと落として。これが大変(笑)
でも、これをやらないと途中で葉っぱが擦れちゃうので。
村松さん
次は揉捻(じゅうねん)の工程ですね。これが揉捻(じゅうねん)機。これも二台持っていて、36分くらいかかります。
村松さん
茶葉の上から重しで圧力をかけて、ぐるぐる回転させて下の盤にこすりながら揉んでいきます。
葉っぱの方は水分が出やすいんですが、茎の方は出にくいんですよね。
茎の方の水分を出すために、圧力をかけてぐりぐりと揉み込んでいくんですね。
村松さん
ここの工程の時点で水分が多いと、どうしても盤の外側に葉っぱが出てこないんですよ。
出てこないということは葉っぱの水分が多くてぐにゃぐにゃってこと。
だから、盤の外側に葉っぱが出てないといけない。
揉捻(じゅうねん)の工程では、送風などで水分を乾かさないので含水率はほぼ変わりません。
小粥
捻り揉むことで、葉と茎で片寄ってしまった水分を均一にする働きもあるんですね。
村松さん
どのくらい水分が含まれているかが大事だからね。水分を見ながら均一にしていきますね。
一気に乾かしていっちゃうと葉っぱが最終的にパサパサしちゃう。
村松さん
茶葉を急須に入れてお湯を挿すことによって葉っぱがだんだん開いていくじゃないですか。
下揉みの工程が短いと1回お湯を挿すだけでパッと葉っぱが開いちゃう。
しっかり揉んだ茶葉は、急須に入れた時に葉っぱの開き方がゆっくりになるんですよ。
村松さん
親父によると下揉みをしっかりしてるから2回、3回と味が続くんだと。
2回、3回とお茶を楽しんでもらうには、下揉みを丁寧に時間かけてやったほうが良いということだそうです。
僕も確かにそうなのかもなって思います。
他所はどういう考え方かは分かりませんが、うちではそういう風に考えて作ってます。
小粥
1回飲んだ程度じゃ出がらし茶にならないと。これは飲む方にとってはすごく嬉しい。
村松さん
次は中揉み(なかもみ)の工程です。中揉み(なかもみ)機という機械で、揉捻の工程でできた茶葉のねじれをとりながら温風をかけて揉んで乾燥させていきます。
この工程で、含水率60%くらいまで落ちます。
村松さん
中揉み(なかもみ)では、機械が数字で水分を教えてくれるので、状況を見て調整するのが僕らの仕事ですね。
晴れなのか雨なのか、晴れの日でも、日中はカラッとしてるけど、夕方はもう湿気が出てくるから1時間ごとで調整しないといけません。
村松さん
次は中揉(ちゅうじゅう)。さらに、中揉(ちゅうじゅう)機という機械にかけます。
村松さん
この機械でも温風をかけて揉んでさらに乾燥させます。
ここまでで含水率は26%くらいかな。
一番初めに蒸しから中揉までの機械の調整を考える職人は本当にすごいと思います。
勘というか、長年培ったノウハウですかね。正解はない世界ですから。
小粥
一回一回、機械にかけるたびに緊張しますよね。3kg分くらいの茶葉の品質がかかってる。試行錯誤の賜物ですね。
村松さん
1日で1,000kgぐらいのお茶ができるので、100gのお茶を1万パック作るってことですよね。
それを一年分だから、本当にすごいことですよ。
昨年の最初の方は雨に泣かされたんですよ。収穫日開始の3日間位は雨が降って、もうお茶がこわくなっちゃって、こわくなっちゃって(※)。
今年はそんなこともなかったので、みるくていいのが採れました。
強いて言えば、もう少し収量が欲しかったかな(笑)
(※こわい … 硬いという意味の静岡弁。)
小粥
揉みの加減はどうやって調節しているんですか。回転速度とか?
村松さん
速度もそうですし、バネ圧が違うんですよ。
最初の葉打(はうち)機の段階ではまだ水分がありますので、揉り手の裏についてるバネの圧が軽いんです。粗揉(そじゅう)機や中揉み(なかもみ)機は、それに比べてバネの圧が重くなっています。
触ってみるとよく分かります。触ってみますか。
小粥
是非是非!
小粥
なるほど、なるほど。粗揉機は葉打機の1.5倍くらいの重さ。
中揉み(なかもみ)機は筋トレマシンみたい。
村松さん
最後に精揉(せいじゅう)。精揉機にかけて、形を整えながら乾燥させます。
3〜40分くらいかな。
緑茶お馴染みの針状の形に整えます。
小粥
蒸してからは、最初から最後までずっと揉みと乾燥の工程でしたね。
村松さん
まだ、精揉機を出た時点では13%ぐらい水分がありますので、ここからさらに乾燥室で乾燥させます。
この乾燥機の中には5段の棚があってそこにお茶っぱを広げて乾かしていきます。
80度くらいで35分くらいかな。
村松さん
乾燥させた後は、ちょっとした粉とか棒をとるんですけど、その過程がお茶農家さんによって変わってきます。
うちは一番茶は6割がた自分達で使うので、そこまで気にせずにやってますが、
問屋さんに売る方達は茶葉を綺麗に見せないと単価が変わってきてしまうんですよね。
小粥
茶葉を綺麗に見せるっていうのはどうやるんですか。
村松さん
色彩選別を細かくやってますね。
棒取り機や風選(風力選別機)っていう機械で、風を送って粉をきれいにとってあげたりすると、かなり綺麗な見た目になりますよ。全然違う。
村松さん
うちも最後にこの機械で綺麗にします。上に網がついているので、それでふるいをかけて棒や茎をおろしてあげる。
小粥
茶柱はもうここでふるいにかけられちゃう?
村松さん
全く除去されちゃうっていうこともないですよ。残るときは残ります。
ですが、この工程があるかないかで茶葉の見た目がだいぶ変わりますね。
このふるいをかける機械は結構古い機械ですよ。僕が生まれてないぐらいの時から活躍してる(笑)
村松さん
製品は冷凍庫、冷蔵庫に入れます。
荒茶は冷凍庫、仕上げ茶は冷蔵庫。
茶葉の水分量が違いますので、そういった保管温度の違いがありますね。
村松さん
仕上げ茶っていうのは、荒茶にこの後「仕上げ」っていう葉っぱの香りを引き立てるために火入れっていう工程を行うんですね。
それが、いわゆる茶問屋さんの仕事ですね。もっと細かく粉とか棒をとってあげて、芽の部分を火入れしてあげるとさらに香ばしくなる。
そうやって加工したお茶が売り場に並びます。
村松さん
荒茶仕立てっていうのもあるんですが、荒茶はさっぱりしてるというか生茶っぽい感じかな。
製茶工場自らが届ける、地元産の自家製「浜松深蒸し茶」
村松さん
うちの村松商店っていうのは、元々、僕の祖父、祖母、父、母が自分達の工場で作ったものを近所のお客さんに分けてて、そこから全国発送までやるようになったっていう経緯があります。
村松さん
それまでは、材木がメインだったんですよね。それで名前が村松 “商店”なんですよ。お茶だけだったら、村松 “製茶”とかですよね。
小粥
なるほど。そういう経緯があったんですか。
村松さん
お茶も、以前は島田のお茶を仕入れてたんですよ。でも、親父が「お茶をやりたいんだ」って、自営の部分を増やして仕入れをゼロにしたいと。ということで、この辺の畑を管理させてもらっています。
うちは地元産だけで作ってるので、「浜松深蒸し茶」って看板を出してます。
だから、僕らは大衆向けかな。家庭の食卓で飲んでもらえるようなお茶を作ってます。
小粥
村松さんは、「茶歌舞伎」とかのお茶をたのしむイベントの開催とか、茶文化の発信もされてますよね。
村松さん
そんな大層なことじゃないですけど(笑)
鎌倉時代、蒸したお茶が世に出始めた頃に、位の高い武士なんかがお寺に集まって、京都のお茶を本茶、その他のお茶を非茶っていうので飲み当てが始まったそうなんです。
そこに博打の要素が加わって「闘茶」というものになっていったんですよね。
自分の財産や屋敷を賭けたり…。足利政権の時には「茶寄合(闘茶)禁止令」が出たくらい流行った遊びなんですよ。
村松さん
うちでやっている「茶歌舞伎」は、花・鳥・風・月・客 の5つに割り振ったお茶を飲み当てて点数をつけて競い合うってゲーム。
最初に香りを嗅いで、それを頼りに当てていく。難しいのは飲み比べではないというところですね。一杯飲んだら何のお茶かをその場で予想するんですけど、その予想は後で変えちゃいけない。それを5杯分繰り返していく。採点も自己採点じゃなくあくまで競技なので、最後にみんなで答え合わせしていくんです。
正解発表の時には結構みなさん盛り上がりますよ。4杯目、5杯目と飲み進めていくと、最初に自分の出した予想が間違ってたかもって気付く方もいて、その表情がまた楽しそうなのがすごくいい(笑)
小粥
面白そうですね。科学館でもイベントとして是非やってみたいなあ。
村松さん
浅蒸し、深蒸しの違いだったり、かぶせ茶(※)の香りがわかるか、玄米茶などの穀物の香り、風味がわかるかとか。
海外の方がいれば、日本茶でないものを、例えば、烏龍茶とかを混ぜてます。烏龍茶だけだと色でわかっちゃうから、ほうじ茶を混ぜたりなんかして。
(※かぶせ茶…収穫前に布をかぶせて栽培された旨味成分の強い玉露と煎茶の中間くらいのお茶のこと。)
小粥
風流ですね。
視覚、味覚、嗅覚を駆使して勝負するんですね。
村松さん
うちの店舗や舘山寺のお寺とかでも開催しています。
お茶のことをもっとみなさんに知ってもらえたら嬉しいですね。
お茶畑に行ってみた
取材に伺ったのは新茶作りのシーズンを終えた6月ごろでしたが、なんと特別に科学館のために一部の新芽を残してくださいました。
小粥
三方原台地の赤土ですね!
あと、チャノキは木の肌が白いんですね。
さすが、椿の仲間って感じ。
村松さん
うちは点滴配管と言って、根の下に水を通す管を通してます。
これによって夏でも干ばつを防ぎます。
この辺は残しておいた部分ですので、どうぞ収穫してみてください。
ここはべにふうきが植わってます。
小粥
お茶を摘むのは初めてです。お、新芽が柔らかい。
葉にツヤがありますね。
小粥
…お茶の葉っぱを食べてみてもいいですか。
村松さん
あ、どうぞ。でも、生だと苦いんだよね。大丈夫かな?(笑)
小粥
(モグモグ…)うん、葉っぱですね…わっ、苦ッ。
やっぱり生だと苦味が強いなあ。
村松さん
でしょう(笑)
この苦みが花粉症にいいというメチル化カテキンになりますからね。
村松さん
次は、さえみどりの畑です。さえみどりはすごく柔らかいですよ。
親の葉っぱも柔らかい。
小粥
(使命感を持って)これも比べないと。食べていいですか。
村松さん
おお、すごい。無理はしないくださいね。
小粥
(モグモグ…)苦味は少ない気がします。
こっちだったらまだいけるな。
村松さん
これが、やぶきたの畑。
小粥
やぶきたの葉っぱも…。
村松さん
研究熱心ですね。どうですか。
小粥
(モグモグ…)あ、さえみどりに近いかな。一番最初のべにふうきが一番苦いです。
取材を終えて
今回の取材も、普段見られない工場に入る貴重な体験ができ、とても勉強になりました。
お茶は揉んで揉んで揉んで作られるんですね。ほぼ全ての工程で揉まれてましたね。
お茶畑で生の葉を見たら納得。
チャノキは椿の仲間ということで、結構葉の繊維がしっかりしてるように感じました。
お茶の成分を美味しくいただけるのは、この揉みの工程があるからこそなんですね。
また、工程ごとに、今の含水率はこのくらいと数字が決まっていて、水分量の管理がかなりデリケートなんだなと感じました。
職人さんの経験からくるノウハウと見極めの観察眼がかっこよかったです。
毎年、美味しいお茶を届けてくださり、ありがとうございます!
小粥
市販されてるお茶っ葉を試しに電子顕微鏡で見てみました。
これが深蒸し茶の葉っぱの300倍の様子です。
小粥
これとか、葉の裏の気孔ですよね。
改めて、お茶って植物なんだなって。深蒸し茶と煎茶でも比べてみました。
村松さん
あ、細かい部分の粉っぽさの違いがわかりますね。
ふむふむ、面白いですね。また浅蒸しだと断面の感じが変わってきそうですね。
ほうじ茶だとどうなるんだろう。
煎茶、浅蒸し、深蒸し、玉露、ほうじ茶、紅茶、烏龍茶…などの多様な種類のお茶がありますが、元をたどると、同じ植物であるチャノキの葉っぱからできているんですよね。
また、花粉症に効果的だと言われる「べにふうき」、バランス良い味と香りのスタンダードな品種「やぶきた」、やぶきた種とあさつゆ種から生まれた新品種「さえみどり」など
チャノキには品種も様々。
後編では、電子顕微鏡を使って小粥がお茶をわかりやすく解説します(後日更新予定)。
もっとお茶のことを学んでみたら、毎日飲んでいるお茶への見る目が変わるかも知れませんね。ぜひ、続編も読んでみてくださいね!
◆ 取材協力
有限会社村松商店
◆ 記事執筆
黒川夏希(ウィスカーデザイン)