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アリストテレスに教えてあげたいヤモリの秘密

“run up and down a tree in any way, even with the head downwards”
“どんな体勢でも、たとえ頭を下に向けていても、木を登ったり下りたりできる”

これは古代ギリシャの哲学者アリストテレスが、キツツキの様子を説明する際に「ヤモリ」の能力を例に挙げた時の言葉です。

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今回は、夜行性の動物ニホンヤモリ(以下、ヤモリ)を観察してみましょう。

日中ヤモリは、樹木の皮や樹木のネームプレートの間でじっとしています。
試しにネームプレートをそっとめくってみると...
いました!いました!

うす暗い隙間の奥で眼がキラリと光っています。
もう少しプレートをめっくってみると…
あぁ!逃げてしまいました。
4本の脚を素早く動かして、目にも留まらぬ速さで樹の幹を駆け登っていきました。

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ヤモリは、全身が灰色や褐色の鱗でおおわれた爬虫類の仲間です。

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アパートの窓に張り付いて、部屋の灯りに集まった昆虫を食べる様子を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
ヤモリは、垂直な樹の幹や表面がツルツルとしたガラス面も易々と移動します。

紀元前4世紀、アリストテレスがヤモリの垂直移動に注目したように、人々はヤモリの離れ業がどのように行われているのか疑問に思ってきました。
垂直面と接する脚の裏にその秘密が隠されていると推測されますが、一体どのような構造をしているのでしょうか?

ちなみにアリストテレスは、樹の幹を自由に移動するキツツキについて、爪を樹皮に喰いこませることによって垂直移動を可能にしていると説明しました。
しかし、ヤモリの場合は、爪だけでガラスの表面を行き来できるとはちょっと信じられません。

足の裏は、トゲトゲ? ベタベタ? それとも吸盤?
その疑問が2000年代に入って解明されはじめました。

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ヤモリの脚の裏の秘密、それは毛でした。

一本の太さが1マイクロメートル以下の箒(ほうき)が高密度で生えているのです。
ちなみに人間の髪の毛は直径約50~100マイクロメートル、ヤモリの毛の束の50~100倍の太さです。
この想像を絶する高密度な細毛がガラスに触れることで、ファンデルワールス力という力が働きます。
ファンデルワールス力とは、分子間における電子密度の偏りで、水の表面張力もその一つです。

私の足にもたくさんの毛が生えていますが、この脛毛ではファンデルワールス力は生まれません。
人間の毛は太すぎるし、長すぎるし、密度が低すぎるのです。
ただ、毛によるファンデルワールス力は吸着することの説明であり、脚の裏を俊敏に面に着けたり離したりできること等については、まだまだ研究が続けられています。

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爬虫類は約3億1000万~3億2000万年前、地球に誕生しました。
その後おそらく一部の種が樹に登る生活の中で足の裏の毛を手に入れ、少なくとも2億年前にヤモリの祖先がヘビやイグアナのグループから分化したことがDNAの解析で分かっています。

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「なぜヤモリは垂直移動できるのか?」
人間が数千年かけて解きかけている謎を、ヤモリは太古の昔から易々とやってのけています。

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参考資料
Aristotle Translated by D’Arcy Wentworth Thompson. Historia Animalium, trans. Thompson, D. A. W. 1981
Autumn, K. et al. Adhesive force of a single gecko foot-hair. Nature 405, 681–685 (2000).
Autumn, K. et al. Evidence for van der Waals adhesion in gecko setae. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 99, 12252–12256 (2002).
http://classics.mit.edu/Aristotle/history_anim.html.
Liu, Y. et al. Gekko japonicus genome reveals evolution of adhesive toe pads and tail regeneration. Nat. Commun. 6, 1–11 (2015).

105歩で生き物観察ヘッダー


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浜松科学館自然観察園は地域の方々のお散歩ルート。歩道は端から端まで105歩。普通に歩けば1分足らずで通過してしまいます。 その1歩1歩にもたくさんの生き物がいて、関わり合い、科学的な事象が起こっています。「小さな森での小さな出会い」を少しずつお届けします。