「色」と「食」で、春を楽しむ。
見出し画像

「色」と「食」で、春を楽しむ。

少しずつ暖かくなってきましたね。3月5日は啓蟄(けいちつ)。生き物たちが蠢(うごめ)きはじめる季節です。モノクロな冬から、色とりどりな春へ向けて、生き物たちは変化しはじめています。

今回は、植物たちの「色」に注目してみましょう。

「色」と「食」で、春を楽しむ

自然観察園を歩くと、地面に「緑色」が目立つようになりました。
地に張り付くように葉を広げるセイヨウタンポポ。
若い黄緑色のヨモギ。
そして、ストロー状の葉を直立させるノビル。

これらは食べることができる野草です。中でもノビルは筆者の大好物。空き地や土手などに生える身近な多年性草本(同じ株から複数年葉が出る草)です。春先は他の草本がまだ少ないので、ノビルを見たことがない方も観察するのにオススメな季節です。

自然観察園の片隅に生えるノビル。
一見すると細めのネギのようです。
葉をちぎると断面は三日月のような楕円型。
おぉ!強烈な臭い!ネギそっくりな香りがします!

観察のために1本だけ掘り出してみると…

アセット 3xxxhdpi


地下から真珠のように美しい「白色」の鱗茎(りんけい;球根)が出てきました。
この球根に味噌をつけて食べると、ネギとラッキョウの中間のような辛み、クセがあって最高に美味です。葉は炒め物や茹でて酢味噌とあえて食べると美味しいですね。

調べてみると、ノビルはヒガンバナ科ネギ属に分類されるネギの仲間。ネギ属には、私たちの身近な野菜にタマネギ、ネギ、ラッキョウなどがあります。

先にも挙げましたが、自然観察園にはノビルの他にも美味しい野草がたくさん生えています。

セイヨウタンポポは、葉を天ぷらやおひたしに、根をキンピラ炒めにするのもおススメです。ヒメオドリコソウの天ぷら、アケビの新芽の胡麻和え、ヨモギのお団子等々、「食」で春を楽しむのも良いですね♪
※自然観察園内の動植物の採集は禁止されております。許可された場所で春の野草採集をお楽しみください (^^♪

アセット 4xxxhdpi

葉は「緑色」、球根は「白色」

さて、先ほど採取したノビルの葉は「緑色」、球根は「白色」でした。
お家で食べるネギ野菜(タマネギ、ネギ、ラッキョウ)も、葉は「緑色」、球根や地下茎など土に隠れた部分は「白色」です。

アセット 5xxxhdpi

筆者の家では、この冬によくダイコンを食べました。休日に1本の大根を買ってきて、輪切りにして1週間分のおでんを作り、余った部分と葉は味噌汁にします(ダイコンの味噌汁、美味しいですよね!)。

アセット 11xxxhdpi

ダイコンはアブラナ科ダイコン属に属しますが、ネギ属野菜と同様に葉は「緑色」で、根は「白色」です。

他の野菜に注目してみると、キク科ゴボウ属のゴボウも、削ぎ切りすると綺麗な「白色」です。
※以前キク科タンポポ属のセイヨウタンポポの根を調理した時、やはり断面は白色でした。同じキク科なだけあって、ゴボウと似た味がしました。

地下部が「白色」というのは植物共通の特徴のようです。

「色」に注目しながら自然観察園での植物観察を続けましょう。
地下から少しずつ目線を上の方に向けてみると…

地面にドングリ(種子)を発見。
おそらく昨年の秋にコナラの樹から落ちたものでしょう。
殻を割ると中身は「白色」でした。

今の時期に咲いているスイセンの花。
中央は鮮やかな「黄色」です。

そういえば、昨年の秋に実ったカキの果実は美しい「橙色」でした。
そしてカキの種子の中身も、ドングリと同様に「白色」でした。

アセット 7xxxhdpi

葉は「緑色」、根・種子は「白色」、果物や花弁は「鮮やかな色」が多そうです。

なぜ植物は部位によって色が異なるのでしょうか?

葉の「緑色」は、葉緑体の「緑色」

葉が「緑色」なのは、葉の中の葉緑体が「緑色」だからです。
葉緑体は植物や藻類の細胞の中に含まれる器官の一つ。
主な機能は光合成です。

アセット 8xxxhdpi

葉緑体の前に、簡単に光合成についてご説明します。
光合成とは、光を利用して水と空気中の二酸化炭素を材料に炭水化物(栄養)を作ることです。植物は専門用語で「一次生産者」と呼ばれ、その理由がここにあります。

アセット 1xxxhdpi

光、大気、水という材料から栄養を作り出す― これは動物には不可能な芸当です。私たちヒトを含む動物は、植物や動物など栄養で形作られたものを消化する過程で生きるためのエネルギーを得ることしかできないのです(従属栄養生物)。
※植物は光、大気、水だけで生きていけるかというとそうではなく、生命活動を行う上で無機栄養分(ミネラル)が必要です。それらは主に根をとおして土壌から得ます。

ここまで読むと、光合成は空気と光、水さえあればエネルギーを作り出せる万能な能力に感じます。しかし、生き物の世界に完璧はありません。光合成にもやはり負の側面があるのです。
例えば、光合成する際の光はどんな強さでも良いわけではありません。仮に光の量が少ない場合、光合成の化学反応が不十分になって「活性酸素」という自身の細胞へダメージを与える物質を発生させてしまうのです。

さて、話を「葉緑体」に戻しましょう。
繰り返しになりますが、葉緑体は光合成で生きるために必要な栄養を作る生産工場です。太陽光を受ける葉には葉緑体をたくさん配置し、効率的に光合成を行います。葉には「緑色」の葉緑体が多いので「緑色」に見えるのです。

どこにでも葉緑体を配置すれば良い訳ではなく、光合成の負の側面が出ないように注意しなければなりません。太陽光が届かない部分、例えば地下部に葉緑体を配置してしまうと光合成が上手くいかず、毒性の活性酸素が発生してしまいます。ノビルの球根は光の届かない地下にあるので、葉緑体を持たず、「緑色」ではありません。

中学校の理科で習う細胞の断面図を覚えている方もいると思います。植物細胞と動物細胞の断面図が並び、植物にあって動物にない構造として「細胞壁」「液胞」そして「葉緑体」の3つを習ったことでしょう。しかし、ここでご紹介したとおり、地下部の植物細胞は葉緑体を持ちません。おそらく理科の先生も「根は葉緑体を持たない」と教えてくれたと思います。

ここでふと疑問が浮かびました。

葉緑体を持たない「白色」な根(地下部)。思い出してみると、先にご紹介したコナラのドングリやカキの種子の中身も、根と同じ「白色」でした。葉緑体は植物細胞の器官の一つです。葉緑体を外部から取り込まないと仮定すると、葉緑体は親から子へ種子を介して受け継がれる必要があります。しかし、ドングリ・カキの種子の中身は「白色」、明らかに種子の中に葉緑体はありません。

葉緑体はどこからきて、どこへ行ってしまったのでしょうか?

アセット 9xxxhdpi

植物の「色」は、種子の「白色」が出発点

種子の細胞の中に葉緑体はありませんが、「原色素体」と呼ばれる「白色」の物質があります。

原色素体は、様々な色に変化する可能性を秘めた細胞小器官です。例えば、光が届く光合成が可能な環境下にさらされると、原色素体は「緑色」の葉緑体に変化します。

光が届かない地下では、原色素体は「白色」「白色体」になります。白色体は光合成を行わないため、不完全な光合成による活性酸素が発生することはありません。ノビルや他の野菜の「白色」は、葉緑体が無いだけでなく白色体が由来だったのですね。

花弁や果実では、原色素体は「黄色」「橙色」などの「有色体」になります。有色体も白色体と同様に、光合成を行いません。代わりに鮮やかな色をすることで、他の動物へアピールします。花弁は色で昆虫や鳥類へ花に蜜があることをアピールし、訪れた動物に花粉を運ばせて効率的な受粉を行います。果実も色で鳥類や哺乳類へ果実が熟れていることをアピールし、動物に果実を食べさせて種子(子孫)を遠くまで運んでもらいます。
※植物の鮮やかな色の全てが有色体由来という訳ではなく、液胞内に化学物質を蓄えて着色するなど、様々な着色方法があります。

アセット 10xxxhdpi

葉緑体、白色体、有色体をまとめて「色素体」と呼びます。私たちが中学校の理科で習った葉緑体は、色素体の1つの側面でしかなかったのですね。学校の授業、教科書は時間やページ数が限られているため、一般的な科学的事象を伝えます。しかし、学校で教わったことを頭に入れて自然観察をしていると、今回のように分からないことや矛盾点が生まれてきます。それらの疑問を自分なりに考えたり、調べたりすることが科学者の第一歩です、なんて科学館スタッフらしいことを書いてみたりします (;^_^A

おわりに

今回は植物を色の視点で観察してみました。

クレヨンを前にして、
「植物の絵を描いてください」
と言われたら、皆さんは何色を手にとりますか?
きっと緑色を使う人がほとんどだと思います。
実際は、植物の緑色は葉に限られ、白色な地下部や、カラフルな花弁・果実など、植物の体は様々な色で成り立っています。

植物の細胞内の葉緑体(色素体)の起源は、シアノバクテリアという藻類の仲間と言われています。10~20億年前、ある真核生物(DNAを保存する核が膜に覆われた細胞を持つ生物)がシアノバクテリアを取り込み、それが葉緑体となって現在の植物細胞の中に存在しているのです。

シアノバクテリアは葉緑体を葉緑体として細胞内に保持しています。
一方で、私たちが普段目にする陸上植物は、原色素体という形で保持し、部位によって葉緑体、白色体、有色体へと分化させます。

植物はより多くの子孫を残すために、体を固定する根、体を支える茎、光合成や蒸散(水蒸気を排出する)する葉、生殖器官の花、動物に食べてもらうための果実など、構造を複雑化して、それぞれの部位の専門性を高めました。それに伴って、シアノバクテリア由来の葉緑体を変化させ、原色素体として保持する道を選んだのでしょう。

どの部位のどの細胞の原色素体を、何色の色素体にするのか。
まさに適材適所。植物の名采配ですね。
植物が原色素体の分化をどのようにコントロールしているかは、まだまだ謎が多く、現在も研究が進められています。

この春はノビルを観察しつつ、「緑色」の葉と「白色」の球根、そして太古のシアノバクテリアに想いを馳せてみてください。

アセット 2xxxhdpi

参考資料
B J Glover, M Perez-Rodriguez & C Martin. Development of several epidermal cell types can be specified by the same MYB-related plant transcription factor.

105歩で生き物観察ヘッダー


😊 ヤエムグラをプレゼント!
浜松科学館自然観察園は地域の方々のお散歩ルート。歩道は端から端まで105歩。普通に歩けば1分足らずで通過してしまいます。 その1歩1歩にもたくさんの生き物がいて、関わり合い、科学的な事象が起こっています。「小さな森での小さな出会い」を少しずつお届けします。