問題:ダンゴムシに一番近い生き物は誰でしょう?
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問題:ダンゴムシに一番近い生き物は誰でしょう?

※答えは記事の後半でご紹介します。

9月も中旬、自然観察園のオオシマザクラの葉が色づき始めました。
黄色や赤色など色鮮やかに紅葉(こうよう)する風景を見ると早くも年の終わりを感じてしまいます。
紅葉と同時に落葉の季節も始まります。
地面に1枚、また1枚と落ち葉が敷き詰められていきます。

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そんな落ち葉を食べてくれるのがダンゴムシ、トビムシ、ミミズなどの土壌動物たちです。
中でも子供たちに人気なのが、ダンゴムシ。

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自然観察園で見られるダンゴムシの正式な和名は「オカダンゴムシ」。
市街地で出会うほとんどのダンゴムシはこのオカダンゴムシ(以下、ダンゴムシ)です。
馴染み深い生き物ではありますが、実は外来生物で明治時代の頃に人為的に海外から運ばれてきたと言われています。
姿かたちが愛らしく手のひらの上に乗せて遊んだことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

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今回はダンゴムシに注目してみましょう。

ダンゴムシの歩き方は単純だけど機能的

子供たちに愛されるダンゴムシですが、科学館にはダンゴムシが嫌いなスタッフがいます。

それは清掃係のHさん。

科学館の建物の中では、屋内にもかかわらず毎朝たくさんのダンゴムシが館内を闊歩しています。
それらをほうきとチリトリで毎日回収するHさん。
「もうダンゴムシは見たくない!」と怒りながら、でも笑いながらお掃除してくださっています。

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ダンゴムシは暗く湿度が高い環境を好む基本的に夜行性の生き物。
夜間、湿度が上がって活動していたダンゴムシの一部が、科学館のドアの隙間から侵入してしまうのでしょう。

そんな侵入ダンゴムシたちに一つの疑問があります。
科学館の中のダンゴムシは、もちろん出入り口付近に多くいますが、事務所の中、インフォメーション、トイレ付近など1階フロアのいたるところで見つかります。
中には出入り口から最も離れた(直線距離にして約40 m)自然ゾーンで見つかることしばしばです。

ダンゴムシたちの頭の中には館内フロアマップの情報が入っていて、「一番奥まで侵入してやろう」と目論んでいるのでしょうか?

この疑問を解くヒントに、ダンゴムシの「交替性転向反応」という性質が挙げられます。
交替性転向反応とは、ダンゴムシが歩いているときに壁にぶつかり、最初に右に曲がったとすると、次に壁にぶつかったときは反対の左に曲がり、次は右、次は左と、左右交互に曲がろうとする反応です。

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現在地が乾燥したり、餌が少なくなったり、天敵が増えたりと状況が悪化して居場所を変えようとした時、交替性転向反応が発動すると自身がいた場所から最も遠い場所へ移動することが期待されます。
これによって居心地の悪い現在位置から離れて、居心地の良い場所を見つけることができるかもしれません。

左右交互に曲がるという単純なシステムを持つダンゴムシ。
まるで数行で書けてしまう簡単なプログラムのようですね。
私たち人間のように複雑な思考・判断をするためには、脳を大きくしたり器官を増やしたりそれを維持したりと大きなコストが必要になります。
ダンゴムシの一見単純な交替性転向反応は、低コストで高いパフォーマンスを発揮する賢い方法なのかもしれません。

そんな単純で賢いダンゴムシですが、改めて考えてみると彼らは何者なのでしょうか?

レジンで作るダンゴムシ標本

脚は何本?
6本より多そうだから昆虫ではないのかも?

刺激を与えると丸くなるその独特な性質に注目しがちな反面、意外と体の造りを観察したことがある人は少ないかもしれません。

科学館ではそんなダンゴムシの体の構造をじっくり観察するイベントを開催しています。
その名も「レジンで作るダンゴムシ標本」。

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レジンとダンゴムシ?
何とも奇抜なイベントですね(笑)

これは長期研修で科学館に所属している浜松学院大学のF君が企画・担当しているイベントです。
なぜこのようなイベントを開くことになったかというと、F君はもともと科学部に所属し、様々な科学実験、観察を経験してきました。科学部の活動でレジンを使った経験を活かしたいというF君の思いから実現しました。

レジンは合成樹脂の一種で、紫外線(UV)をあてると液体から固体へ変化する性質があります。日常生活では塗料やアクセサリー、ネイルアートなどで用いられます。使ったことがある方も多いかもしれませんね。

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合成樹脂は生き物を封入する樹脂標本としても用いられることがあります。
昆虫標本で一般的にイメージする乾燥標本に対して、樹脂標本には壊れにくく透明なため、気楽に持ち歩いて表裏、前後左右どこからでも観察できるなどのメリットがあります。

生き物の体の構造を観察することに興味を持ってもらおうと 材料には身近で親しみのある生き物「ダンゴムシ」が選ばれました。

イベント用にダンゴムシを200匹用意することになりました。
その数に衝撃を受けたF君。
暑い日差しの中、ひたすらに科学館周辺の石をひっくり返してダンゴムシを捕まえるF君。
テレビの取材が来て、「レジンで作るダンゴムシ標本」を緊張しながら紹介するF君。

筆者は一生懸命なF君の姿に、学芸員のあるべき姿を見た気がしました。

さて、レジンで固めたダンゴムシの標本を虫眼鏡で観察すると、下の図のようになっていることが分かります。(イラスト:浜松学院大学 F君)

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左の図が背側、右の図が腹側です。

左右の大きな目が可愛いらしいですね。
その上に太くて長い触角が1対あります。
脚の数は14本。
昆虫類の6本、クモ類の8本と比べるとかなり多いですね。

背面は硬いクチクラというタンパク質の一種で覆われており、刺激を受けると丸くなり外界からの危険をシャットアウトします。

問題:ダンゴムシに一番近い生き物は誰?

さて、記事の冒頭での問題「ダンゴムシに一番近い生き物は誰でしょう?」に取り組んでみましょう。
対象はサソリ、ムカデ、エビ、カブトムシです。

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サソリの仲間:体表はダンゴムシと同じような色、質感な気がします。
ムカデの仲間:長い体をギュッと縮めたら、まさにダンゴムシの形になりそうです。
イセエビ:腰を曲げるとダンゴムシの丸まる様子と似ているかも。水中に棲んでいますが果たして…
カブトムシ:足の本数は少ないですが、ダンゴムシと同じように語尾に「ムシ」が付きますね。

果たして正解は…


まずは彼らをいつものように分類学的に図示してみます。

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この中にダンゴムシを加えてみると…

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このようになりました。

正解は「イセエビ」

ダンゴムシはエビ・カニと同じ軟甲綱(甲殻類)のグループに含まれます。

甲殻類の形態的な特徴は、触角が2対、計4本あること。
この絵のイセエビにも第一触角、第二触角、計4本の触角があります。

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それではダンゴムシにも触角は2対あるのでしょうか?

試しにデジタルスコープで観察してみると…

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あった!ありました!
大きな触角の根本にちょこんと小さな触角(写真赤丸)が付いています。
極小でしかも腹側から見なければ発見できません。

節足動物のDNA情報をもとにした進化史を示した研究でもダンゴムシはエビやカニを含む甲殻類に属し、上記の形態的特徴を反映することが分かっています。

甲殻類の中でも、陸上で生活しているのはダンゴムシを含むワラジムシ目の一部とかなり少数派です。陸上へ進出したワラジムシ目の祖先たちは、乾燥した劣悪な環境に試行錯誤したことでしょう。

現在では乾燥した市街地でも気軽に出会うことができるダンゴムシ。
ダンゴムシの小さな触角は、現在の陸上生活と過去の水中生活とを繋ぐ重要なメッセージだったのですね。

おわりに

今月17日の夜の科学館では、ミニワーク「レジンで作るダンゴムシ標本」やダンゴムシの電子顕微鏡観察を行う予定です。

館内を奥へ奥へと突き進むダンゴムシ、レジンの中のダンゴムシ、そして電子顕微鏡の中のダンゴムシをじっくりと観察してみてください。

参考資料
青木 淳一. 日本産土壌動物 第二版: 分類のための図解. (東海大学, 2015).
Regier, J. C. et al. Arthropod relationships revealed by phylogenomic analysis of nuclear protein-coding sequences. Nat. 2010 4637284 463, 1079–1083 (2010).

おまけ

レジンで作るダンゴムシ標本詳細↓

夜の科学館詳細↓

※9月17日は夜の科学館でレジンで作るダンゴムシ標本を開催予定です。
 受付時間:17:01~19:00

交替性転向反応を利用したダンゴムシ迷路を作ってみよう!↓

105歩で生き物観察ヘッダー


😊 アカギカメムシをプレゼント!
浜松科学館自然観察園は地域の方々のお散歩ルート。歩道は端から端まで105歩。普通に歩けば1分足らずで通過してしまいます。 その1歩1歩にもたくさんの生き物がいて、関わり合い、科学的な事象が起こっています。「小さな森での小さな出会い」を少しずつお届けします。