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生地は手作り9000層!?【浜松ミクロ散歩「うなぎパイ」前編】

「浜松のことをもっとよく知りたい!」
好奇心旺盛なスタッフが浜松科学館を飛び出して、浜松各地を訪問。
訪問先で出会った方々とふれあい、こだわりの商品などを科学館にある電子顕微鏡で観察して、ミクロから浜松を探っていく企画です。

今回研究するのは、春華堂「うなぎパイ」。
うなぎパイとは、うなぎを使った洋菓子で浜松を代表する銘菓。
浜松市民のみならず、全国的にもファンが多いうなぎパイは、お土産や手土産としても人気です。

うなぎパイの魅力を探究するために訪れたのは、春華堂の「うなぎパイファクトリー」。
“職人とのふれあい” をコンセプトに製造工程を見学できる施設です。
そのうなぎパイファクトリーで、来館者にうなぎパイの魅力をわかりやすく紹介してくださる案内人、コンシェルジュの山本さんに館内を案内していただきました。

コンシェルジュの山本さん

なんと手作り!うなぎパイはどうやって作られる?

早速、製造工程の順に従って展示を見学させていただきました。
一番最初は、「仕込み・仕上げ」の工程から。

山本さん
「仕込み」というのは、材料を混ぜ合わせることです。
こちらのパネルにも記載がございますが、うなぎパイの材料は、バター、小麦粉、うなぎの粉、水。
これらを混ぜてうなぎパイの生地を作るという工程です。

小粥
うなぎの粉っていうのは、どういった状態なんでしょうか。

山本さん
うなぎはですね、まず国内で獲れましたうなぎの身を取ります。
そして、残ったうなぎの頭とか骨の部分を水から煮出して、よく豚骨スープとか鶏ガラスープにあるような、いわゆる、うなぎスープを作り上げるんですね
それを熱風乾燥で粉にしていったものがうなぎのパウダーになります。

小粥
へ~!なるほど。一回、スープにするんですね。

山本さん
うなぎの旨味成分、栄養素がたっぷり入っていますよ。

生地玉を作る

山本さん
生地を最終的に、生地玉という状態にするのですが、手で一つ一つ生地玉を作っています。
まず、材料をミキサーに入れて軽く混ぜた後、取り出します。そこからは、うなぎパイ職人の手で作り上げます。
生地玉一つの重さは、イラストでは小さく見えるんですけども、実際には6キロという大きな塊になります。
こちらの生地玉ですが、3名の職人で600玉から多い日ですと900玉ほど作り上げていきます。
作りました生地は、冷蔵庫で24時間寝かせまして、次の仕上げ室に進みます。

山本さん
次は「仕上げ」という工程になります。
仕込み・仕上げは、どちらも工程の心臓部なんですけど、仕上げは最も重要な部分になっております。
冷蔵庫で寝かせた生地に、うなぎパイ用に特別に作っていただいている粒の大きなグラニュー糖を手でパッと振りかけていきます。
そこに麺棒を押し込んで、グラニュー糖を生地に食い込ませまして、折り畳むという作業を何度も何度も繰り返します。

麺棒のレプリカが展示品に使われていた

山本さん
うなぎパイは、その名の通り、パイのお菓子ですので、層を作り上げて焼いていくんですけれども、うなぎパイは何層ほどで出来ているかご存じですか。

小粥
ええっと、確か、1000層以上でしたっけ?

山本さん
そうです。非常に細かくて最終的に約9000層。

小粥
うわ~細かい。その層と層の間にグラニュー糖が丁寧に織り込まれているんですね。
ちなみに、生地玉は3名の職人が作るとおっしゃっていましたが、この方々が作られた生地玉をもとに全てのうなぎパイが作られているんですか。
全てのうなぎパイは、最初は3人の方から始まる?

山本さん
そうなんです。そして、次の者に生地を少しずつ渡しながら…、だんだん層が増えていき…という。

小粥
1回折って2層、2回折って4層というように倍々で増えていき最終的には約9000層?

山本さん
ええ。ですが、その折り方を二つ折りにするのか三つ折りにするのか…。
どのように折っていくかで層の増え方が変わっていきますので、その折り方が企業秘密になっております。

小粥
企業秘密!職人さんたちに伝わる技なんだ。
現在、うなぎパイ職人さんたちは何人くらいいらっしゃるんですか。

山本さん
うなぎパイ職人は四十数名ほどですね。
ちなみに、うなぎパイ職人というものは、その場所(工程)ごとに専門の職人がいるというわけではありません。
全ての工程が出来なくてはいけません。

小粥
全工程をマスターしてはじめて職人になれるということか。

山本さん
職人の中でも「師範制度」という階級がありまして、一番頂点が師範ですね。
師範と呼ばれるレジェンドが一名。今は定年を迎えて指導員として師範代を指導しています。
今の師範代が師範に育ったら2代目師範が誕生します。

小粥
2代目師範が…!ということは、レジェンドと呼ばれている今の師範は初代?

山本さん
初代です。
師範代の下には、宗家という伝統の製法を守る人たちがいます。
その下に、模範となる範士がいて、さらにその下には練習生という形で練師がいます。
範士はコーチとして練師を指導するんですよ。
新人さんが入って、練師になって、1年2年3年…と修行を積んでいくと、階級試験があって、その試験をクリアすると階級が上がって範士になり、教える立場になるって形ですね。

小粥
もう“道”って感じですね。うなぎパイ道。

山本さん
遊び心ある取り組みですよね。
普段、表に出ない作り手に、会社としてフォーカスを当てている取り組みになります。

山本さん
次は「焼き上げ検品」です。
職人が作り上げた生地をパイ一本分の大きさにカットして、こちらの焼き窯で焼いていきます。
実際に焼きあがっていく様子を窓から覗いていただきますね。

焼き上げの様子を窓から覗くことができる

山本さん
こちらから覗いていただくと、生地が非常に細い状態なんですけども、徐々に膨らみ始めます。
これが焼き始めです。
あっという間に感じますが、実際はお時間が約5分かかります。

工程の前半でパイの層を膨らめて、後半でこんがり焼き、約10分かけて焼き上げていきます。

山本さん
焼き上げの最後に秘伝のタレを塗ります。
この秘伝のタレは職人の中でも5名ほどしか知りません。
私がお伝えできることも限られておりまして、甘いタレですということと、味に深みを出すための隠し味で少量のガーリックが入ってます。

小粥
ガーリックはこの時点で!

山本さん
ええ、こちらのタレに含まれております。
うなぎパイ誕生当初から、作り方、原材料は変えずに作っております。
1961年に誕生いたしましたので、もう60年以上経ちましたね。

小粥
シロップとかではなく、タレと呼ばれるんですね。うなぎのタレみたいな感じ。

山本さん
そうですね、蒲焼のタレのような感じで「うなぎパイのタレ」と。
焼き窯が6台並んでいまして、この6台の窯でうなぎパイを焼き上げています。
このタレを塗っている段階はまだ高温で、160度ほどありまして、窯の透明なトンネルの上に冷却ファンがついてます。
そして、検品のスタッフの手元に届く前に急激に冷まします。160度ほどのものを40度ほどにまで冷まします。

山本さん
窯から続くベルトコンベアの最後におりますスタッフが検品を行うんですけども、
横幅や長さ、焼き色のチェックを行なっております。基準にあった良いものだけが奥の包装ラインへと進んでいきます。
検品で弾かれてしまったものですが、味や品質には問題ございませんので「お徳用」ということで、春華堂 直営店舗で販売されています。

横幅や長さ、焼き色のチェック

小粥
今、検品されている方々も職人さんになるんでしょうか。

山本さん
こちらは、うなぎパイ職人ではほとんどないですね。パートアルバイトの方が多かったりします。
こちらでOKになったものが包装ラインへと続いてまいります。よく見えるお二階へ移動しましょう。

うなぎパイの包装は機械と人間のファインプレー

山本さん
さて、「包装、箱詰め」の工程に移ってまいりましたが、お二階から見下ろしていただけるところは全て包装ラインです。
大きく5つに分けて、機械に番号がついております。

山本さん
まずは、1番の機械。
同じ機械が4ライン分あるんですけれども、画面のようなモニターにうなぎパイがレントゲンのような形で映し出されるんですね。
こちらがX線の異物検出機になりまして、パイの中にプラスチックやガラスなどが含まれていないかをチェックしています。
もし、機械に異物混入と判断された場合なんですが、空気の力で横にぴーんと弾き飛ばされまして、職員が原因を確認して全て廃棄処分になります。

山本さん
X線の異物検出機の先に検品者が座っておりますね。
じぃっと、うなぎパイが流れてくるのを見ておりますが、ベルトコンベアの一部が水色なのをご覧いただけますか。
包装不良がないか、かけたり割れたものはないかを今一度チェックしております。見やすいようにベルトの色が一部水色に変わっているんですね。

うなぎパイに眼を凝らす検品者

山本さん
突然で失礼ですが、うなぎパイは何種類あるかご存知ですか。

小粥
いっぱいありますよね。今パッと思いつくので4つかなあ。

山本さん
大正解です。4つです!ありがとうございます。
今、ご覧いただいている4つのラインに流れてきているのが、普通のうなぎパイ、そして、隣がVSOP、その奥にミニパイが流れてます。
本日はナッツ入りの生産がおこなわれておりませんが、ナッツ入りを焼くときは、4つのラインのうち左側から2ラインがナッツとなります。
4種類全ての商品を一度に焼く場合は、4ラインの左から、ナッツ、普通、VSOP、ミニになりますね。
このように、ラインごとに焼く商品に決まりがございます。

山本さん
続きまして、2番の機械。
うなぎパイが流れていくベルトが少しだけ上下に動いているのがわかりますか。あれは、何をやっているのかといいますと、上下に動かしながらうなぎパイの枚数を数枚重ねています。脱酸素剤を入れて大きな袋にまとめるのが2番の機械なんですね。

山本さん
2番の機械から、さらにベルトが流れます。赤い箱がある辺りの3番。
白いアームのロボットが動いておりますが、こちらのロボットは自動箱詰め機になります。
商品を空気の力で吸い上げていくんですが、左側の白いロボットが商品を箱に入れまして、右側の白いロボットが蓋をかぶせます。
左右のロボットの間をじっとご覧いただくと、ピッと何かが動きましたね。これが箱の中に入れる栞を乗せている様子ですね。

山本さん
赤い箱が緑色のベルトの上に進んでいきます先の4番の機械。
機械に箱が入りますと、上に包装紙が出まして、箱を持ち上げながらくるっと包む。
4番は、包装の工程です。
箱の後ろ側には、裏面(りめん)シール(賞味期限や原材料などが記載されているラベル)というのが貼り付けられます。
4番の機械の先には、また検品者が座っておりますが、箱を持ち上げて包装不良をチェックしています。

山本さん
さあ、最後は5番の機械。ダンボール詰めの工程に進んでいきます。
一部、お二階になっておりますところの一階部分、右隅にダンボールがたくさん立てかけられておりますね。こちらのダンボールが機械によって自動的に組み立てられます。
組み上がったダンボールに商品が入りますと、上下同時にガムテープが貼り付けられまして、ダンボール詰めが完了です。

山本さん
ダンボール詰めが完了しましたら倉庫に保管するのですが、お二階部分の左端にあるグレーの垂直コンベア、エレベーターですね、そちらにダンボールが乗りまして、お二階へ運ばれていきます。
お二階には積み上げのロボットがおりまして、ダンボールが流れ着くとセンサーで感知して動き出します。
そして、ダンボールをしっかりと掴みまして上に積み上げます。しっかりと四隅も揃えて積んでくれますよ。

山本さん
今、ダンボールを左右に振り分けて積み上げたのは、箱の大きさもそうですが、種類が違うものを判別して種類ごとに振り分けているんですね。
決められた段数が積み上がると後ろのシャッターが上にグーッと開きまして、自動倉庫へ送られます。

自動倉庫のさらに後ろ手に春華堂のトラックが参りますので、そこから車に載せて各お店に運ばれるという仕組みになってますね。

小粥
お菓子を作るのは人の手で作り、機械ができるところは機械でという分業が素晴らしいですね。

山本さん
よく、うなぎパイを作るのも機械でやってるんじゃないのって思う方もいらっしゃるんですが、職人が生地を作っている手作りのお菓子なんですよね。
箱詰めや包装の工程では、いろんな機械がお仕事してくれています。

展示に学ぶうなぎパイの歴史

山本さん
うなぎパイファクトリーでは、製造工程をご覧いただくだけでなく、展示を通してもうなぎパイのことをご紹介しています。
こちらはシアターになります。今は「うなぎパイができるまで」という映像が流れておりますね。

シアタールーム

小粥
お子様にもわかりやすい内容ですね。

山本さん
シアタールームから続くトンネルは「うなぎの寝床」と呼ばれていまして、右側に質問、左側にその答えというQ&Aコーナーになっております。
うなぎパイは夜のお菓子というキャッチフレーズがついておりますが、どうしてそういったキャッチフレーズがつくようになったのか、や、隠し味についてなどの質問が取り上げられていますね。

うなぎの寝床にて

小粥
なんか面白い形のうなぎパイがある。

山本さん
試作の最終段階にですね、うなぎパイをどんな形にしようかと。
串に刺して蒲焼風、捻って鰻の頭としっぽに分けてみようかと作ったそうなんですが、実際には商品化出来なかった試作の模型になります。

小粥
面白いアイデアに溢れていますね!
アイデアと言えば、うなぎのエキスを入れるという発想はどういうところから来ているんですか。
洋菓子にうなぎの出汁の旨味を入れるっていうのがすごく思い切ったことに感じたんです。

山本さん
うなぎパイは、当社2代目の社長の時に誕生しました。
現在から開発までに10年近くかかっていると伺ってますので、70年ほど前の話にはなるんですが、
2代目の社長が、仙台へ旅行に行った時のことなんですが、「どこから来たの?」という質問に「浜松から来た」とお伝えしたそうなんですが、浜松をわかっていただけなかったんですよね。近くに浜名湖がありますよというお話で「あ~、うなぎで有名なところね」と。浜松という地名よりも浜名湖のうなぎの方が当時は有名だったそうです。
これは「うなぎを使ったお菓子を作れば、浜松という場所も多くの方に知っていただけるのではないか」ということで、2代目の社長が、当時おりました職人とですね、「新商品にうなぎを使ったお菓子を作れないか」という相談をして、そこから生まれたのがうなぎパイなんですよね。

山本さん
昔から浜名湖には養鰻場がありますよね。なので、浜名湖で育ったうなぎを使おうと、そこから始まったお菓子だと伺っております。
今では、浜名湖で獲れたうなぎだけでは足りないものですから、国内で獲れたうなぎということに限って「うなぎの粉」が使われています。
なぜ、パイなのかというのは、ちょうどその時の洋菓子職人がフランスのお菓子「パルミエ」の勉強をしていて、その知識とあわせながら開発をしていったからと伺ってますね。

小粥
それは奇跡のタイミングですね。生まれるべくして生まれたって感じだ。

山本さん
奇跡的な巡り合わせですよね。
さて、トンネルをくぐりまして最後のうなぎパイカフェに到着いたしました。ちなみに、今、館内で流れているのが「うなぎのじゅもん」という、うなぎパイのテーマソングになります。

小粥
小椋佳さんの!私、CD持ってますね。
子供の頃に知人にプレゼントしてもらったんですよね。

山本さん
あ!素晴らしい!ありがとうございます。
CMでもお馴染みの曲ですよね。

山本さん
うなぎパイカフェですが、うなぎパイを使用したスイーツや地元食材を使ったお料理などを楽しんでいただけますよ。

小粥
スイーツ、美味しそうですね!
この後、うなぎパイカフェでお昼ご飯を食べていこうかな。

山本さん
それは是非!
ここでしか食べることのできない限定スイーツもありますので、楽しんでいってくださいね。

取材を終えて

「うなぎパイ!」の掛け声でにっこり写真撮影

見応えたっぷりでしたね!
館内の展示ですが、無料で見ることができるそうですよ。

浜松市民として親しみのあるうなぎパイがどのように作られているのか、知らないこともたくさんあり、とても興味深かったです。
うなぎパイが目の前で焼きあがるのを見学するコーナーでは、思わずよだれが出ちゃいそうになりました。

取材後に、今回の取材を取り仕切ってくださった村越さんと田京さんと歓談中のこと。
「うなぎパイの層を見てみたいよね」という話で大盛り上がり。

小粥
うなぎパイの9000層を見てみたいですよね。

村越さん
どうなっているんでしょうね。
確かに9000層ほど折ってはいるんですが、手作りですので9000層全て見えるかな。
機械で作ったような均一な層ではなくて、手作りならではのラフな層の造りになっているから、あのザクザク感が味わえたりするのかなって思うんですよね。

小粥
確かに。ウエハースのような均一な層ではないからこそ、サクサクっとした食感になるのかもしれないですね。
生地を折り込んだ時に生じた空気の層にも関係があるかもしれない。

田京さん
自分達の作った生地がどんな風になっているかをミクロで見るって経験は職人さんたちにもないと思うから楽しみですね。
僕たちもすごく興味があります。新たな発見があるかもしれない。

ということで…、
うなぎパイの層は、一体どんな風に見えるんでしょうか。
うなぎパイのサクサク食感の謎に迫る電子顕微鏡での観察記事(後日更新予定)へ続きます。

◆ 取材協力

株式会社うなぎパイ本舗(うなぎパイファクトリー)

◆ 記事執筆

黒川夏希(ウィスカーデザイン)

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浜松科学館 みらいーら
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