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アリの巣に居候するアリヅカコオロギの話


先月と比べて、電気代・水道代がちょっと高い。
冷蔵庫の食料の減りもはやい。
そして他人のいる気配がする!
家には家族しかいないはずなのに…。

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ホラー小説のような話ですが、これは実際に筆者が自然観察園で目撃した事件なのです。


観察園を散策中、足元のコンクリートブロックを裏返すとトビイロシワアリの巣がありました。
アリ達は大騒ぎ。何十匹ものアリが縦横無尽に動き回っています(アリさん、ゴメンナサイ!)。

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その数十匹はいるトビイロシワアリの中で、1匹だけ変な昆虫を発見しました。
アリより薄いクリーム色で、動きは瞬間移動のように機敏です。
これが今回の主役「アリヅカコオロギ」です。

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アリヅカコオロギは日本で10種が記録され、全ての種がアリの巣に寄生します。
寄生の例としては、アリが運んできた食料やアリの幼虫を食べたり、種によってはアリから口移しで餌をもらったりします。

コオロギと聞くと、草地で生活し、翅をこすり合わせて秋の夜に鳴く風流な姿を想像すると思います。
しかし、アリヅカコオロギは暗く狭いアリの巣の生活に適応するため、体は小さく、鳴くための翅は退化して、丸く可愛らしい姿をしています。

下に「アリヅカコオロギの仲間」と日本のコオロギの代表種「エンマコオロギ」を並べてみました。
2匹を比較すると同じコオロギの仲間とは思えないですね!

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アリにとってアリヅカコオロギは本当に迷惑な存在のはずですが、アリたちは彼らを追い出そうとはしません。
人間社会ならば住居侵入罪(刑法130条前段)で即逮捕される様な事件なのになぜでしょうか?

アリは、鋭い嗅覚で暗い巣の中でも餌や仲間のアリを認識することが出来ます。
逆に言うとアリの目はほとんど見えていません。
アリヅカコオロギは、アリにそっと触れて彼らの匂いを自身に付けることで、アリになりすましているのです。

つまりアリにとって、アリヅカコオロギは「認識できない居候」なのです。
アリヅカコオロギのアリの習性を逆手に取った、見事な生存戦略です。

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前記事のクロアゲハ(無毒蝶)がジャコウアゲハ(毒蝶)になりすます擬態を視覚的な擬態と表現するならば、今回は嗅覚的な擬態と言うことが出来るかもしれません。


アリヅカコオロギは、可愛らしい外見とは裏腹に赤の他人が家族の一員になりすまして同居するというホラー小説のようなひとコマを見せてくれました。

私たち人間でも、正しく認識しているはずの世界の中で、見知らぬ何かにそっと寄生されている、そんな事件が起こっているかもしれませんよ・・・?


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ちなみに…

私が自然観察園で地面に這いつくばってアリヅカコオロギを探していると、
「何をしているんですか?」
と呼びかけられ、振り返るとそこには制服のお巡りさんが!
というわけで、不審な行動をしていた筆者は職務質問を受けました。

筆者「アリの巣に棲むコオロギを観察しているんです」
警官「ほぉ アリの巣にコオロギがいるんですか!」
筆者「はい、お巡りさんもご覧になりますか?」
警官「どれどれ… あぁ!これですか!小さいですねぇ」
筆者「アリの巣の生活に適応した特殊なコオロギなんですよ。」
警官「なるほどなるほど。観察、ご苦労様です!」

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とても優しく、そして好奇心が強いお巡りさんでした (#^.^#)


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参考資料
Maruyama, M. Four New Species of Myrmecophilus (Orthoptera, Myrmecophilidae) from Japan. Bull. Natn. Sci. Mus., Tokyo, Ser. A vol. 30 (2004).
丸山宗利, 小松貴, 工藤誠也, 島田拓 & 木野村恭一. アリの巣の生きもの図鑑. (東海大学出版会, 2013).


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