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ネコとヒトの「見え方」の違いから「生き方」の違いが見えてくる話。


仕事がいつもよりも早く終わり、「ちょっと時間が空いたなぁ」というある日の夜、懐中電灯を持って自然観察園を歩いてみることにしました。
もしかしたら昼とは違った夜の世界が広がっているかもしれません。

クロちゃんとの出会い

少し恐々自然観察園に入ると、ジッとこちらを睨む黒猫に出会いました。
猫の顔に懐中電灯の光が当たると、眼がランランと輝きます。

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これまで一度も見かけたことがない黒猫との出会い。
※ここでは、クロちゃんと呼びましょう。

やはり私の知らない自然観察園がそこにありました。


あと数歩というところまで近づくと、「めんどくさいなぁ」という様子でクロちゃんは観察園の奥の方へ歩いていきました・・・。


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街灯があるものの、かなり薄暗い自然観察園。
懐中電灯が無ければ、木の根につまずいて転んでしまいそうです。
そんな暗闇の中を、クロちゃんはさっそうと進んでいきます。

なぜ、クロちゃんは暗闇の中を歩くことが出来るのでしょうか?

その秘密は、ネコの眼の構造にあります。

夜行性動物の秘密装備「タペタム」

下に眼球の断面図を描いてみました。

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眼に入った光は角膜をとおり、レンズの役割を持つ水晶体で屈折し、網膜に投影されます。
網膜に投影された光は、網膜上に並ぶ視細胞によって感知され、脳で像として認識されます。

ヒトとネコの間で眼球の構造の大きな違いは、ネコにはヒトにはない輝板(タペタム)という膜が網膜の奥にあることです。

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ネコの場合、網膜を通過した光がタペタムによって反射され、もう一度網膜を通過します。
こうすることで少ない光を効率的に網膜へ届けることができ、暗い夜の自然観察園でも活動が可能になるのです。
クロちゃんの眼がランランと輝いていたのは、懐中電灯の光がタペタムに反射したからだったのですね。

クロちゃん(イエネコ)の原種であるヨーロッパヤマネコや、ライオン、トラ、ヒョウなどネコ科動物の多くは夜行性です。
暗い夜間でも活動できるように、タペタムが備わっていると考えられています。
タペタムは、イヌ、タヌキ、シカ、ネズミなど夜行性の哺乳類の多くが持っています。

筆者が学生の頃、研究室の同期が卒業研究でシカの個体数調査をしていました。
夜間に車を走らせて草原や森の中をライトで照らし、光るシカの眼の数を記録していました。
今思えば、これもタペタムの反射光だったのですね。


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クロちゃんの眼にはタペタムが備わっていて夜間対応可能です。
なんだかヒトの眼よりハイスペックに感じられますね。

しかし、ヒトの眼にはクロちゃんには無い能力があります。
それは、「赤色」を認識できることです。

熟した果実を瞬時に発見!「3色型色覚」

太陽光や蛍光灯の光には、赤色や緑色、青色など、波長が異なる様々な色の光が含まれています。
そして、先ほど登場した網膜にある視細胞の種類によって、感知する光の色(波長)が決まっています。

哺乳類のほとんどは、緑色・青色の2色を感知する視細胞を備えています(2色型色覚)。
一方、面白いことに霊長類(サルの仲間)の狭鼻小目というグループだけは視細胞の種類が異なり、赤色・緑色・青色の3色を感知することが出来るのです(3色型色覚)。

この狭鼻小目は、私たちヒトの他に、ゴリラ、チンパンジーなどからなる類人猿、ニホンザルを含むオナガザル科から構成されます。

なぜ、私たちヒトを含むわずかなサルの仲間だけが3色の世界を見ることが出来るのでしょうか?

哺乳類の2色型色覚と3色型色覚の見え方を比較した研究によって、赤色が見えない2色型色覚では、緑色と赤色を認識する境界が不明瞭になることが分かりました。
これは、緑色を単色として認識することが出来ないことを意味します。

例えば、2色型色覚の場合、赤く熟した美味しそうなリンゴの実が樹になっていたとしても、リンゴの赤色と葉の緑色を区別することが出来ません。

一方、私たちのような3色型色覚の動物は、背景色が緑色の森の中から、熟した果実や美味しい若葉をより簡単に識別することが可能です。

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他の生き物たちの色覚はというと、哺乳類以外の魚類、両生類、爬虫類のほとんどは4色型色覚で、赤色、緑色、青色に加えて紫色(紫外線)も見ることができます。
彼らがこの世界をどのように見えているのか、とても気になりますね。

哺乳類は約2億2500万年前に生まれ、当時は夜行性であったと考えられています。
暗闇の中で生きる哺乳類たちにとって、世界がカラフルに見える必要はなく、4色型色覚から2色型色覚にまで退化してしまったと推測されています。

その後、私たちの祖先であるサルの一部のグループは、果実や若葉など他の哺乳類が利用していなかった餌資源を効率的に獲るために、昼行性となり、退化してしまった赤色の色覚を再び獲得する進化を遂げたのでしょう。

夜行性でタペタムを持つ、クロちゃん(ネコ)。
昼行性で赤いリンゴが大好きな、筆者(ヒト)。
ネコとヒトの眼の仕組みの違いから、それぞれの進化の歴史や生き方の違いが垣間見えました。

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お家でネコを飼っている方は、是非タペタムを観察してみてください♪


おまけ

ちなみに…
科学館公式Youtubeでも「タペタム」を紹介しています。
筆者とうえちゃんの楽し気な夜のデートを是非ご覧ください (笑)


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参考資料
Sumner, P. & Mollon, J. Catarrhine photopigments are optimized for detecting targets against a foliage background. undefined (2000).

105歩で生き物観察ヘッダー


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浜松科学館自然観察園は地域の方々のお散歩ルート。歩道は端から端まで105歩。普通に歩けば1分足らずで通過してしまいます。 その1歩1歩にもたくさんの生き物がいて、関わり合い、科学的な事象が起こっています。「小さな森での小さな出会い」を少しずつお届けします。