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ハチミツ食べてBEE HAPPY!【浜松ミクロ散歩「ハチミツ」前編】

「浜松のことをもっとよく知りたい!」
好奇心旺盛なスタッフが浜松科学館を飛び出して、浜松各地を訪問。
訪問先で出会った方々とふれあい、こだわりの商品などを科学館にある電子顕微鏡で観察して、ミクロから浜松を探っていく企画です。

今回、研究するのは「ハチミツ」。
浜松は温暖で一年を通して晴れの日が多い土地柄。その良好な環境は草花だけでなく、その花の蜜を集めるミツバチたちにも恩恵を授けていました。
特に、三ヶ日方面はみかんの栽培が盛ん。5月上旬に開花したミカンの花からは、爽やかな香りの透き通った美しいハチミツが採れるんですよ。

取材にご協力してくださったのは、「長坂養蜂場」。
“三ヶ日でハチミツ”と言ったら長坂養蜂場、言わずと知れた浜松市三ヶ日町に本店を構えるハチミツ専門店ですよね。
ハチミツやハチミツを使ったお菓子、ドリンクなど様々な商品を扱うお店は連日大賑わい。2021年には、ハチミツを使用したスイーツが楽しめる「はちみつスイーツアトリエ」を浜松の街中(浜松市中央区神明町)にオープン。浜松市内のお店とコラボした期間限定のソフトクリームやプリンが人気を集めています。

三代目社長を務める長坂善人さんと養蜂事業部の大野さんにお話を伺ってまいりました。

長坂善人社長
大野さん

ミツバチの巣箱が置かれている、養蜂場にお邪魔します

大野さん
これからミツバチの巣箱へご案内しますが、その前にこの帽子の装着をお願いします。

防護ネットのついた帽子を装着

小粥
僕、クロスズメバチに何度か刺されたことありますけど、あれくらい痛いのかな。

大野さん
僕らは慣れているので撫でても刺されませんが、身の危険を感じた時にはすぐ刺してきます。

小粥
大野さんはミツバチに何度か刺されたことありますか。

大野さん
普段は素手で仕事をしていることもあり、ちょっと刺されやすいです。
日によっては全く刺されない日もあるんですけど、採蜜の時期が刺されやすいですね。
今は採蜜の時期は過ぎてますので大丈夫だと思いますよ。

小粥
これは今何をしているんですか。

燻煙器に入れる麻布を燃やす

大野さん
ミツバチは煙をかけると大人しくなるっていう習性があるんです。
燻煙器(くんえんき)という道具です。中で物を燃やしてその煙をかけながらいつも仕事をしています。これは、麻布を燃やしています。

小粥
僕、ハチの子とりをやったことあるんですけど、それも煙を使ってましたね。
クロスズメバチっていうハチが地面の中に巣を作るんですけど、ダイナマイトみたいな煙を出す発煙筒みたいなものを巣に入れてましたね。

大野さん
それ、面白そうですね。やってみたいな。

巣箱

小粥
あ!巣箱の横の網カゴにスズメバチがいる!

スズメバチ捕獲機

大野さん
これは捕獲機ですね。スズメバチが上へいく習性を利用して、下から檻の中へ入ったら閉じ込められちゃうっていう仕組みです。

小粥
結構入ってますね。

大野さん
ここは特に被害が少ない養蜂場ですけども、それでもこのくらいはいますね。
では、巣箱を開けますね。

煙をかけながら巣箱の蓋を開ける

小粥
おお〜!お部屋がいっぱいあるのがわかりますね。

大野さん
ミツバチの巣は初めてですか?

小粥
ケース越しにみたことはありますが、巣箱は初めてです!
かわいい。ミツバチって人に有益な昆虫ですけど、見た目も可愛いんですよね。

大野さん
そうですね。よく見るとふかふかしてます。

小粥
みんな巣穴に顔を突っ込んでますけど、これは何をしているんでしょうか。

大野さん
これはおそらく、花粉や蜜を食べているか、または、外勤バチが採ってきた花の蜜を貯蜜係が受け取って、酵素を混ぜて巣の中に貯めているところだと思います。

小粥
へえ〜、分業もしているんですね。

大野さん
巣の黄色い蓋がされている部分の中には蜜が貯蔵されています。越冬に向けて、準備の最終調整をしている最中かなと。
茶色い蓋の中にはサナギが入っています。巣の外側からハチミツ、花粉、サナギ、大きい幼虫の順に入っていますね。

小粥
蓋がしてあるのは全部蛹が入っているのかなと思ったら、蜜も入っているんですね。
サナギの方は蓋が盛り上がってますね。

小粥
あ!幼虫がいますね。
もう冬になりますけど(取材時11月)、これから育てるんですかね。
産卵の最盛期は春先なんでしょうか。

大野さん
地域にもよりますが、うちだと最盛期は5月ぐらいですね。

小粥
なるほど。花粉が取れる時期に頭数を増やしてガツっと採蜜するんですね。

大野さん
これ、オスバチですね。体が大きいのと女王バチを探せるように目が発達してます。

オスバチ

小粥
クマバチのオスを見たことがあるんですが、クマバチのオスと似てますね。
目が大きくてかわいい。女王バチを見てみたいです。

大野さん
ちょっと探してみましょうか。
女王バチには印をつけているのでわかりやすいと思います。

小粥
なるほど。お腹がオレンジでわかりやすいですね、女王バチ。

大野さん
女王バチがミーミー鳴いていますけど、羽根を震わせて音を出しています。
あ、この巣には女王バチが2匹いますね。
大体、新しい女王が古い女王を殺しちゃうか、古い女王が巣別れするんですけど、たまに2匹いたりするんですよね。

小粥
確かにミーミーと聞こえるかも。
へえ、新しい女王が誕生してもそのまま居座っているんですか。

ミツバチとふれあう大野さん

小粥
大野さんは、もともとハチに興味あったんですか。

大野さん
特にハチが好きというわけではなかったんですが、僕はもともと生き物が好きで、学生時代になんとなくそういう仕事をしてみたいなと漠然と思っていました。僕は地元が浜松でして、高校の時に職業体験の事前アンケートでなんとなく「接客」に丸をつけて提出したら、ご縁があって長坂養蜂場に体験に来ることになりました。そこで初めて養蜂業というお仕事があるんだというのを知ったんです。

小粥
学生時代の職業体験がきっかけだったんですか。

大野さん
養蜂業に興味も持ったっていうのもあるんですが、それ以上にここのスタッフの方々がいい人ばっかりで、そこに惹かれて入社をしました。

小粥
それは僕も先ほど感じました。社員の方はすごく明るくて元気な方が多いですね。
いい雰囲気の職場なんだなというのを感じました。

栄養たっぷりの甘い蜜。ハチミツって一体何なの?

ここからは長坂社長にもお越しいただき、ハチミツとミツバチについて教えていただきました。

小粥
そもそもなんですけど、ハチミツっていうのは花の蜜とか花粉をハチの体内で加工したものなんでしょうか。

長坂さん
そうですね。花の蜜を採取してきて、それをミツバチが酵素分解をするんです。
人間が二糖類を単糖にするみたいに、花の蜜をブドウ糖、果糖、オリゴ糖というものに分解します。かつ、その分解の過程で、過酸化水素という殺菌力の強い成分やミツバチの持つ酵素や花粉がハチミツに混ざり混みます。
なんでハチミツが栄養価が100種類以上なのかというと、そういう過程があるからなんですね。

長坂さん
ハチミツはお砂糖と比べて栄養価が高いと言われていますよね。
どうして、マラソン選手などのスポーツ選手がハチミツをスポーツドリンクに入れるのか。それは、人間がやらなくてはいけない分解を、ミツバチが既にやってくれているので、すぐに体内でエネルギーに変わるんです。それで、ハチミツは「優れた糖」と言われているんですよ。

大野さん
マラソンでヘトヘトになっても、ハチミツ入りのドリンクを飲むとすぐ元気になりますよ。

小粥
僕も最近筋トレとかして体のこと考えているんですけど、それは魅力的に感じますね。
ハチミツはいつ頃収穫するんでしょうか。春夏の花が咲き終わった10月くらいでしょうか。

長坂さん
うちでは、この辺だとゴールデンウィークくらいに三ヶ日みかんが咲くんですけど、そのみかんの採蜜とこの辺りのモチノキなどの里山の花々を6月20日くらいまで採蜜しておしまいですね。

小粥
みかんの花が最盛期の頃にミツバチが採蜜したものがメインなんですね。

長坂さん
ハチミツを電子顕微鏡で見てみるとおっしゃってましたよね。
ハチミツの中には花粉が含まれているから、その花粉を観察できるかもしれませんね。

長坂さん
日本にはないんですけど、ドイツなどですと蜜源を特定するために「花粉分析」を行う分析機関があります。
ただ、植物の種類によって蜜と花粉の割合が少し違うんですね。
蜜も花粉も出す花もあれば、蜜をたくさん出すけど花粉はあんまり出さないとか、必ずしも特定の花粉が多いからといってその植物のハチミツだという断定はできないんです。

小粥
なるほど。花粉が多いからといってその花の蜜が多く含まれているとは限らないんですね。

長坂さん
長坂養蜂場では「街みつ(※)」というプロジェクトを行ったのですが、そのハチミツを分析にかけてみたことがあります。
日本と海外では花粉の種類が違うので、細かく特定はできなかったのですが、モチノキやクリの花粉が発見されました。
(※浜松市中心市街地のビルの屋上に巣箱を設置。そこから採れたハチミツは「はままつ街みつ」と名付けられ、イベントや洋菓子店等で振る舞われた。)

小粥
花粉は電子顕微鏡で見ることができると思います。
フラワーパークさんのご協力で、40種類ほどのたくさんの花粉が手元にあるので、それと見比べてみても面白いかもしれませんね。

電子顕微鏡で撮影した花粉をお披露目

小粥
11月ごろの今の時期ですと、ハチたちはどういった状態なんでしょう。

長坂さん
冬越しを巣箱の中でするので、春に比べると比較的、数は減っていると思います。

大野さん
今年の冬は暖かいので、少数ながらまだ活動はしていますね。

小粥
では、商品としてのハチミツは採り終わって、今度はハチたち自身が冬を越すための準備をしていると、そんな感じなんですね。

長坂さん
今でいうと、何の花の蜜を採っているのかねえ。

大野さん
今ですと、セイタカアワダチソウですかね。あれが冬越しの主力な餌になるので、まだ集めてきてますね。
花粉とかも足につけて運んでいますね。

セイタカアワダチソウ

小粥
セイタカアワダチソウは、花粉が多いイメージがあるんですけど、蜜も出すんですね。

長坂さん
蜜も出しますね、濃い蜜なんですよ。

小粥
セイタカアワダチソウは、外来種で一時期は話題になりましたけど、ハチ達にとっては重要な食べ物なんですね。

長坂さん
おっしゃる通りです。ハチミツでいうとニセアカシアなんかも外来種ですが、蜜源としてはすごく大事なんです。

小粥
なるほど、そういった表裏一体の面もあるんですね。

長坂さん
アカシアは花粉は少ないんですが、蜜はたっぷり。アカシアの花は他の花と比べて結晶しにくいんです。

小粥
ハチミツが白く固まってしまうんですね。寒いところに置いておくとよく固まっちゃったりしますよね。

長坂さん
ブドウ糖が多いとなりやすいのですが、それプラス、花粉が多い花も花粉が結晶核になってしまい、結晶しやすいハチミツになるんです。

小粥
ということは、アカシアの花は花粉が少ないから結晶しづらくて扱いやすいハチミツになる?

長坂さん
その通りです。ブドウ糖より果糖の方が比率的にも多い上に花粉も少ないので。

小粥
ハチミツが固まるのは、糖の割合と核になる花粉の量が関係しているんですね。

蜜を集めるだけじゃない、知られざるミツバチの習性

小粥
ミツバチたちの巣はミツバチ自身で作っているわけですが、どういったものが材料になるんでしょうか。

大野さん
花の蜜が主ですね。お腹に蜜蝋(ミツロウ)を分泌する蝋腺という腺があるんですが、そこから蝋を出して唾液と混ぜて壁を作っていきます。

長坂さん
木の皮とかではないんですよ。ミツバチ以外のハチは樹木の皮や泥を使いますが、ミツバチは唯一、蜜蝋を自分で作り出しています。

小粥
自分たちで材料も作ってしまうっていうのはすごいですね。

長坂さん
蜜蝋はハチミツ10gに対して1gぐらいの割合でできるので、ハチミツよりも貴重なんですよ。
ミツバチは花粉も食べますので、蜜蝋も花粉によって色が変わってきます。
人間でいうと、主食のご飯がハチミツで、副菜であるおかずのビタミン、ミネラルが花粉っていう形。

小粥
浜松科学館でも遠州織物の生地を使ってみつろうラップ(※)を作ろうっていうワークショップイベントを開催したことがあります。ミツバチが作ったものを僕ら人間も利用させてもらっているんですね。
(※布生地に蜜蠟を染み込ませた繰り返し使えるラップ)

小粥
ミツバチはハチミツが主食なんですね。成虫の働きバチが採ってきたハチミツをみんなで分けて食べるんだ。スズメバチは幼虫が蜜を出しますもんね。

長坂さん
スズメバチは肉食だから、ミツバチの幼虫を肉団子にして食べますよね。蜜も舐めますけどね、樹液とか。

小粥
スズメバチは成虫が肉団子を幼虫に食べさせて、幼虫が蜜を出し、それを成虫が舐めるという。
ハチによっても全然生態が違うんですね。

長坂さん
スズメバチは、ミツバチのハチミツも舐めますし、幼虫も食べちゃう。
だから、最盛期のこの時期はすごい襲ってきます。

小粥
巣箱の横にも捕獲機がありましたね。
ミツバチを狙うものというと、個人的に気になっているのがクロメンガタスズメ。
蛾の仲間でミツバチの巣をおそう蛾なんです。

長坂さん
あ~!これ、いますね!巣箱の中で死んでたりする。

大野さん
春夏に見かけます。夏ごろ多いですね、夜とかよくいる。

長坂さん
なんでミツバチの巣をおそうんですかね。

小粥
こいつは蜜を舐めるらしいんです。このストローの部分がすごく短くて太くて、こいつを巣にブスって刺してチューチュー吸ってる。モフっとしてて体が立派なんで、ミツバチにちょっと刺されるくらいなら大丈夫らしいです。
南の方の暖かいところが得意なんですけど、最近は増えてきていると思います。

長坂さん
静岡には昔からいるね。

小粥
そうなんですか。
「羊たちの沈黙」っていう映画のモチーフになった蛾の仲間です。
ポスターで女性の口の部分に蛾がとまっていますが、その蛾の胸の部分に骸骨のマークがあるんです。このクロメンガタスズメも骸骨っぽい模様がありますよ。ポスターのやつはヨーロッパメンガタスズメっていう種に近いみたいですけどね。

長坂さん
へえ〜!面白い雑学だね!

小粥
長坂さんは電子顕微鏡で見てみたいものってありますか。

長坂さん
ミツバチの体には純粋に興味があります。

小粥
アリとハチは近い仲間なので、おそらくこんな顔をしているんじゃないかなと思います。
ただ、ミツバチは蜜を採ったり花粉を採ったりするので、それに特化した体つきになっているのではないかと。

アリの写真を見て想像を膨らます一同

長坂さん
それでいうとミツバチのオスは口の形状的に蜜を集められないんですよ。イソップ童話のアリとキリギリスじゃないですけれども、オスバチは「ドローンビー」と言われています。「ドローン」とは「怠け者」っていう意味(笑)。

長坂さん
空を飛ぶドローンも、空飛ぶ羽音から「ドローン」と名付けられたらしいです。
オスバチは交尾が唯一の仕事なんですよ。それ以外は働かないので冬が近づくと巣から追い出されてしまうという、そういう習性があります。

小粥
厳しいなあ。ミツバチは越冬しないといけませんからね。

長坂さん
スズメバチやアシナガバチは、一年サイクルなんですよね。この時期になると、もう新しい女王バチが交尾して木とか土のなかで冬眠するんです。ミツバチは冬眠しないのでみんなで越冬する。働きバチが集めたハチミツをみんなで食べて、飛翔筋(ひしょうきん)を震わせて熱を生み出して、おしくらまんじゅうのように身を寄せ合って暖まりながら冬を越していくんです。

小粥
一族が一丸となって冬を超えていくんですね。ご飯だけ食べるオスはちょっと…(笑)。
オスバチは追い出されるタイミングで交尾するんですか。

長坂さん
いえ、もうそのタイミングでは野垂れ死ぬだけ。もっと早い時期ですね。

小粥
じゃあもう、交尾も済んだけどまだ居るし何もしないし…っていう?
先ほど、巣箱にオスが何匹かいましたが、もう時期的には、オスは追い出された後ですよね。

大野さん
ええ。そうですね。基本的には追い出されるのですが、稀にそのまましばらく暮らしていたり、生まれてくる子がいたりします。
探せば、まだその辺を飛んでいるかもしれません。

小粥
アリとやはり似ていますね。アリも交尾後は巣から追い出されちゃうんですよ。
アリは交尾で飛ぶ時だけ羽根があるんですよ。だから、一回みんな散っちゃうと巣まで帰ってこれないですね。
だから、アリの場合はオスは出ていったらもう最後。交尾して死んじゃう。
戻ってこられるミツバチはまだ報われているかもしれませんね。

長坂さん
ミツバチの交尾は「ハネムーン飛行」と言って、女王バチが10〜20匹ぐらいの複数のオスたちと行います。
一生で一回だけ行われ、女王バチはその一回で何百万という一生分の精子を溜め込んで帰ってきて、あとはもう飛ばない。巣から出ないんですよ。
交尾したオスバチは腹上死するんですよ。生殖器を女王バチが何個かつけて帰ってくるんですよね、どういう仕組みかはわかりませんが。

小粥
交尾したオスバチは死んじゃうということは、今生き残っているオスたちって結婚できなかったってこと?
寂しいですね。あげく追い出されて…。

長坂さん
ハネムーン飛行の時に女王バチが全速力で飛ぶんですよね。それに負けじとオスバチがついていく。

小粥
なるほど。そのスピードについてこられた遺伝子が生き残っていくんですね。
もしかしたら、今のハチたちの方が100年前のハチたちより速いかもしれないですね。

長坂さん
生殖器をつけた女王バチはまだみたことないなあ。

大野さん
お尻に白いのをつけているのを見たことがあります。
でも、一回だけですね。「なんか卵じゃないのがついているな」って。

小粥
日常的にミツバチに携わっている方達でも見かけるのは稀なんですね。
女王バチはどのくらい生きるんでしょうか。

長坂さん
3年から5年くらいと言われております。

小粥
女王バチの出すフェロモンで群れがコントロールされているんですよね。

長坂さん
ええ。フェロモンで群れを識別しています。
他の巣に別の女王バチを入れるとものすごく攻撃されてすぐ殺されてしまいますし、他の巣に違う働きバチが入っても追い出されてしまいます。

長坂さん
女王バチと言いながらトップに君臨しているというより、群れをコントロールしてるのは実は働きバチであったりするんですよね。
春から初夏の繁殖期になってそろそろ交尾が必要になってくると、働きバチが巣の形状を大きく作ってオスバチの産卵用の部屋を作るんです。女王バチがそれを触覚で計って、オスバチ用の産卵部屋に無精卵を産む。

小粥
有精卵はメスが生まれて、無精卵はオスが生まれるんですよね。
姉妹同士だと血のつながりが濃いですけど、オスはちょっと薄いですよね。
巣を追い出されちゃうのは、そういう側面も多分あるのかもしれない。
「こいつちょっと雰囲気違うな」って。

長坂さん
女王バチと働きバチは同じ有精卵から生まれます。ローヤルゼリーを与え続けられた幼虫が女王バチになります。
働きバチも生後2、3日ぐらいまでは同じものが与えられるんですよ。ただ、働きバチに与えられるのはワーカーゼリーって呼ばれます。
働きバチは成虫になったらハチミツと花粉で生きていきますけど、女王バチはずっとローヤルゼリーで育って生きていく。
成虫になってからもローヤルゼリーを口移しでもらうんですよ。

長坂さん
ローヤルゼリーは花粉を主原料として、人間でいう10代から20代ぐらいの若い働きバチが咽頭線から分泌したエキスです。

小粥
若い働きバチからしか分泌されないんだ。それはかなり貴重そう。

長坂さん
ローヤルゼリーのおかげで、女王バチの体長は働きバチの約2倍になって、寿命も働きバチは長くても半年ぐらいなのに対して、3年5年も生きる。
元々は同じ卵なのに特別な成虫へと変わっていくんですよ。

小粥
なるほど、ローヤルゼリーの栄養効果が高いと言われるのも納得がいきますね。
ミツバチの一生を展示で紹介するのも面白いかもしれませんね。
男性諸君、あなたは役目を終えてすぐ死にたいですか、それとも秋まで生きて巣を追い出されますかって(笑)。

長坂さん
ふふ、どっちも嫌ですよね(笑)。

小粥
男にとってはちょっと辛い選択ですよ。
ちょっと大人な科学館の展示になりますね。

長坂養蜂場のはじまりとこだわりの詰まった新商品

小粥
長坂養蜂場さんが養蜂をやろうというのにはどんなきっかけがあったんでしょう。

長坂さん
私の祖父が創業者なのですが、祖父はもともと8人兄弟の末っ子として生まれました。
神奈川県の方に丁稚奉公へ出るんですが、体が弱くて肋膜炎(※)っていう病気を患ってすぐ帰ってくることになってしまったんですね。それで、家で療養して過ごすという青年時代を過ごしていました。
(※肋膜に起こる炎症で胸の痛みや呼吸困難、発熱、咳などの症状がある。)

長坂さん
たまたま祖父の父がミツバチを飼っていて、そのハチミツで滋養をとっていたんです。そして、ハチミツのおかげで健康を回復したというところから、自分も養蜂をやろうと思ったようです。

小粥
曽祖父様は、養蜂事業をしてたというよりかは自宅用にミツバチを飼っていらしたんですね。ハチミツってやっぱり栄養豊富なんですね。

長坂さん
三ヶ日は気候も温暖で、みかんの花の蜜がたくさん採れる場所なのでミツバチにとっても良い場所だったんですよね。

みかんの恩恵は果物だけじゃない

長坂さん
祖父の頃は「転地式養蜂」という方法で花の蜜を集めていました。トラックとか船、汽車に乗って移動するんですよ。青函連絡船という船でミツバチと一緒に北海道まで行ったそうですよ。花の開花前線を追いかけて北上していくっていう形ですね。今でもやっている人は少ないです。

小粥
それはすごい。ミツバチと一緒に日本全国を旅したんですね。
ハチたちは、採蜜する花が変わっても大丈夫なんですか。

大野さん
全然問題ないです。自由に飛び回っていろんなところから蜜を集めてきます。

長坂さん
巣箱も100〜200箱あっても、必ず自分の巣箱に戻ってくる習性があります。
朝昼に採蜜していたハチたちが夜夕方に巣に戻ってきたら巣箱を閉めて移動して、新しい場所に着いたらそっと巣箱を開く。
そうするとミツバチが「あれ、ここはどこだ」と飛んでいって新しい場所を覚えていくんですよね。

小粥
頭いいですよね、巣箱にちゃんと戻ってくるって。
空間認知能力が高いし、巣箱に入ったら匂いで仲間を認識できる。
そして、蝋を出しハチミツも作り、ローヤルゼリーまで作って…、なんでもできちゃうスーパーマンみたい。

小粥
長坂養蜂場には社員さんは何人いらっしゃるんですか?

長坂さん
パートさんやアルバイトさんを合わせると70人を超えるくらいですね。
大野くんのいる養蜂事業部や店舗事業部、通販事業部、ブランド事業部などがありますね。

小粥
店内や社内でたくさん従業員さん見かけましたけど、みなさん笑顔で元気ですよね。
ハチミツを食べているからかなあ。
新しい商品やコラボなどの取り組みもかなり精力的に取り組んでいらっしゃいますね。

店内にはハチミツやハチミツ関連商品が並ぶ

長坂さん
昔は新商品を考案するのは自分や専務だけだったんですが、コロナ禍でたくさんの時間ができて、みんなで色々考えようという風になりました。
そこからスタッフ全員にアイディアを募ったり、自分で商品化までをやるスタッフがでてきたりと社内でも良い変化が起きました。

長坂さん
養蜂事業部も新商品を考えて開発しているよね、大野くん。来年(2024年)の春に販売予定なのですが、商品化まで3年くらいかかったね。

小粥
商品化に3年?どういう商品なんですか。

大野さん
「三ヶ日みかん巣蜜」という商品です。
三ヶ日みかんの蜂蜜だけでつくった、巣ごとハチミツを味わっていただく商品です。

三ヶ日みかん巣蜜

小粥
巣ごと!それは贅沢な商品ですね。

大野さん
ミツバチが巣にハチミツを長期保存するために貯蔵をするんです。その熟成されたハチミツを巣ごと食べていただくのがこの商品です。
先ほど巣をご覧いただいた時に、中に蜜が入って黄色い蓋がされていたものが巣蜜です。
みかんハチミツの時期だけの期間でミツバチに蜜蓋を張ってもらうのが鍵だったんですが、綺麗に隅々まで蓋を張らせるのがなかなか難しかったですね。

長坂さん
ハチミツを貯蔵をするのにミツバチが翅を羽ばたかせて水分を飛ばすんですよ。
水分50%以上のものを最終的には水分20%以下ぐらいまで下げて、糖度を80度ぐらいまで上げていく。
そうなってきたら、お腹から蜜蝋を出して蓋をするんですよね。その状態で貯蔵をすると何年でも保存できる。

小粥
保存が効くようにミツバチ自らパッケージングしているんだ。すごいですね。

長坂さん
普通は蜜蓋をカットしてしまって、遠心分離機で中のハチミツだけを取り出して販売するんですけど、巣のまんま蜜蝋ごと売れたらいいねって。
蜜蝋はハチミツと比べたら口の中に残りやすいんですけど、これが結構口溶けも良くて。

大野さん
なんでなのか、うちのは口溶けが良くて、僕も食べやすいと思います。

小粥
巣ごといただくとやっぱり濃いですか。

長坂さん
濃いですね。普段はあえて全面に蜜蓋はかけないので。そうすると、糖度80度くらいになります。
巣蜜はそれより糖度が濃いです。

貴重な巣蜜を分けていただいた

小粥
熟成されたものだけが商品になってるんだ。貴重ですね。
もうすぐ冬も本格的になってきますから、ハチミツ食べてBEE HAPPY!風邪知らずで元気に過ごしたいですね。
これからも美味しいハチミツを楽しみにしています。

取材を終えて

面白いミツバチの世界、いかがでしたでしょうか。

風邪予防にはハチミツが効果的!とよく言われますが、どうしてハチミツが栄養たっぷりなのかがよくわかりました。
働きバチが一生懸命集めて分解したハチミツ。ありがたく大切にいただきたいと思います。

巣の付近で亡くなったハチもいただく

賢いミツバチの生態には驚いてしまいましたね。
他のハチと違ったユニークな習性があってとても面白かったです。
群れで協力しながら一生懸命に生きるミツバチの姿に励まされ「私も頑張ろう!」という気持ちになりました。

蝶々や蛾がストローで花の蜜を吸い取っているのはなんとなくイメージできますが、ハチやアリはどうやって花の蜜や花粉を集めているのでしょうか。
さらに、ハチミツの中から花粉は見つかるのでしょうか?ハチの不思議な生態についてもっと詳しく知りたい方は、記事後編をぜひ読んでみてくださいね!(後日公開予定)
ミツバチの可愛さにあなたも目覚めるかもしれませんよ。

◆ 取材協力

株式会社長坂養蜂場

◆ 記事執筆

黒川夏希(ウィスカーデザイン)

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浜松科学館 みらいーら
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