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ミクロワールドへようこそ!~電子顕微鏡を疑似体験~

夜の科学館で「でんけんラボ」

今月19日に夜の科学館で「でんけんラボ」 を開催します。

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夜の科学館は、毎月第三金曜日に開館する大人限定のナイトミュージアムです。世界各国の星空をご案内するトラベルプラネタリウム:スターフライトや、科学原理を面白おかしく紹介するサイエンスショーなど内容盛り沢山!専門性の高いスタッフが極上の時間を提供します↓

筆者は自然ゾーンの電子顕微鏡を使った「でんけんラボ」という当日参加型(事前申し込み不要)のイベントを担当しています。最大3万倍に拡大して生き物たちの微細構造の秘密に迫ります。観察時間は約15分。「15分間のミクロ世界の冒険」です。

テーマは月替わり。これまでに下記の試料を観察、考察してきました。大人向けということで、かなりマニアックです↓

・センダングサやヤブジラミなどのくっつき虫
・土の中に棲むササラダニと、鳥についていたマダニ
・クスノキのダニ室と、ダニ室内のフシダニ
・タンポポの花粉とスギの花粉

これらのテーマは過去のnoteでもご紹介してきましたね。noteで紹介したことをでんけんラボでも紹介したり、その逆もあったり、全てがリアルタイムに進んでいます。筆者自身も日々驚きの連続、勉強勉強な毎日です。

イベントを始めて半年が経ち、参加してくれる方々は常連さんがメインになりました。慣れ親しんだメンバーで、穏やかな雰囲気のラボ内で、ミクロな世界を対話しながら観察・考察を深めていきます。

とても充実した時間。
まるで社会人の研究サークルのようです。

今月19日の夜の科学館でんけんラボでは、「シロハラの羽」を観察する予定です。ここでは当日、筆者が想定している流れでシロハラの羽を電子顕微鏡で観察する様子をご紹介します。

読者の皆様は、でんけんラボを疑似体験するイメージです。

もし参加予定の方がいらっしゃいましたら、ネタバレになりますのでご注意ください。

まずは肉眼で観察!

昨年、1羽のシロハラが科学館の敷地内で死んでいました。

シロハラはツグミ科に属する身近な冬鳥です。夏にユーラシア大陸で繁殖して、冬はより暖かい日本に渡ってきます。

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失われてしまった1つの命。来館者の方々へ科学的なメッセージを贈るための材料として大切に保管していました。

まずは、肉眼で羽を観察してみましょう。

羽は鳥類を特徴付ける構造です。飛翔や体温保持、体表の保護など様々な役割があります。

根元の羽毛のない部分は羽柄(うへい)、羽柄から先の羽毛がある部分を羽軸(うじく)、羽軸を中心に羽弁(うべん)という空気抵抗を生む膜状の部分で構成されています。

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道端に落ちている鳥の羽を拾ったことがある方はご存知と思いますが、羽柄や羽軸の内部は空洞、ストロー状です。1枚1枚の羽を軽量化することで、飛翔しやすいような構造になっているのでしょう。

羽弁をよく見ると複数の「毛」のようなものがまとまってできているようです。不思議なことに一部が裂けても指で整えるとピタリと合わさり、再び1枚の膜になります。おそらく羽弁を構成する毛の微細構造によって、この再現性が担保されているのでしょう。羽弁の毛にはどのような秘密が隠されているのか、後ほど電子顕微鏡で明らかにしてみましょう。

さらに羽を観察すると、次列風切羽の羽弁(内弁)に1匹の生き物が付いているのに気が付きました。デジタルカメラで4倍に拡大して接写撮影すると、この様な感じです↓

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体長は2㎜程度。野鳥に寄生する生き物でしょうか?基本的にダニと昆虫は足の本数が、前者は8本、後者は6本で識別することが出来ます。しかし、この生き物は小さすぎで肉眼ではダニか昆虫かもよく分かりません。電子顕微鏡で拡大して、正体を明らかにする必要がありますね。

それでは羽の一部と、謎の生き物を電子顕微鏡で観察してみましょう。
試料をプレートへセットして…

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いざ電子顕微鏡の中へ!

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電子顕微鏡内を脱気する束の間の時間。
どんな世界が観られるのかドキドキワクワクが止まりません!

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※下記に拡大された生き物の写真を掲載しています。
 ダニ、クモ、昆虫などが苦手な方はお気を付けください。
























電子顕微鏡で観察:羽の構造

まずは羽弁を80倍に拡大してみました。
すると計7枚の羽が並んでいるように見えました。

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しかし実際は羽弁の一部分。
下のイラストの部分を拡大したものです。

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羽軸から伸びる羽弁は「毛」のようなもので構成されていると予想したのですが、実際は毛1本1本がそれぞれ1枚の羽のような形と分かります。1枚の羽のような部分を羽枝(うし)、羽枝に生える毛を小羽枝(しょううし)と言います。

次に羽枝の端を600倍まで拡大してみましょう。

羽枝

すると、フック状の構造(白色矢印)が生えていました ↑

おそらくこのフック状の構造が隣の羽枝に引っ掛かることで、羽枝同士が連結して羽弁を形成しているのですね。突発的に羽枝と羽枝の間に切れ目ができたとしても、フックが羽枝を捉えて形状記憶されているかのように再び元の形に戻るのです。

野鳥が飛翔する上でとても重要な羽の形は、僅か20㎛(1mmの50分の1)の微細構造によって維持されていたのですね。

電子顕微鏡で観察:寄生昆虫ハジラミ

次に謎の生き物を拡大(50倍)してみましょう。

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おぉ!なかなか凄い迫力です!
これが謎の生き物の腹側の拡大写真です。

足の本数は6本、身体が頭部・胸部・腹部という3つのパーツからなることから昆虫の仲間と判明しました。また図鑑から野鳥や哺乳類に寄生するハジラミの一種と分かりました。私たちの日常生活では滅多に出会うことない珍しい昆虫です。

ハジラミは鳥の羽や哺乳類の毛を食べて成長し、一生を動物の上で過ごします。鳥にとってハジラミは大切な羽を食べてしまう迷惑な害虫。鳥たちは防除のために嘴での羽繕いや水浴び、砂浴びなどのハジラミ予防、駆除を欠かしません。

またハジラミは、世界最速:時速170kmで平常飛行するハリオアマツバメの羽からも見つかっています。これをヒトで例えるならば「高速道路で走行中の車体にしがみつく」よりも過酷な状況です。

一方のハジラミも鳥の身繕いや飛行のたびに簡単に剝がされてしまっては、すぐに絶滅してしまいます。きっとがっちりと羽に固着するための秘密があるに違いありません。

体の各部分を詳細に観察してみましょう。

まずはこちら。左前脚の先端(900倍)です。

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脛節と符節のそれぞれに長くて太いトゲがあります。
脛節に2本、符節に1本あります。
これで羽枝を挟み込むことで、身体を固定するのかもしれません。

次に頭を拡大(350倍)してみましょう。

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ハジラミ


まず目を惹くのは、頭部の中央にある大きな溝(赤色矢印)です。
次に頭部の中央にある口と、その脇にある大きなアゴ(白色矢印、正式には下顎)に気が付きます。

なんて奇妙な形態をしているのでしょう。
顔が見事に割れていますよ。
昆虫好きな筆者にとっては、考えられない異常性です。

ハジラミの生態について調べてみると、なぜ頭部に大きな溝があるのか、その謎が解けました。
下に動物の毛にしがみつくハジラミの様子をイラストで表してみたのでご覧ください。

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なんと頭部の溝に毛をはめて、アゴで挟み込んでいたのです!
まるで公共施設の傘立てのような構造ですね。

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ハジラミは咀顎目(そがくもく)というグループに属し、地衣類や菌類を食べるチャタテムシという昆虫から進化したと考えられています。因みにチャタテムシにハジラミのような頭部に溝をもつ種はいません。おそらくハジラミの祖先種である一部のチャタテムシが鳥にしがみつき、寄生生活に都合の良い頭部の形態的な進化を遂げたのでしょう。

おわりに

「シロハラの羽1枚」を電子顕微鏡で拡大観察することで、主に下記の2点が明らかになりました。

・鳥の羽には微細なフック状の突起構造があること
・ハジラミの顔には、大きな溝があること

さらに上の結果から、下記の様に考察されました。

・羽の微細構造によって羽の形状を維持している
・ハジラミは寄生性という生活の変化によって頭部の形態的な進化を遂げた

身近な野鳥のたった1枚の羽の上にも、生き物の巧みな微細構造や、特異的な進化史など、とても興味深い科学的な事象が潜在しているのですね。


さて、「でんけんラボ」の疑似体験はいかがでしたでしょうか?

19日の本番では、参加者の方々からどの様な考察や感想が出てくるのか、とても楽しみです (^^♪

ミクロ世界の冒険を体験できる「でんけんラボ」は、夜の科学館に限らず通常の開館中にも不定期で開催しています(事前にお問い合わせいただくと安心です)。
科学館へお越しの際は、ぜひ自然ゾーンのでんけんラボを覗いてみてください!

参考資料
Misof, B. et al. Phylogenomics resolves the timing and pattern of insect evolution. Science (80-. ). 346, 763–767 (2014).
Sebei, P. J., Mccrindle, C. M. E., Green, E. D. & Turner, M. L. Use of scanning electron microscopy to confirm the identity of lice infesting communally grazed goat herds. Onderstepoort J. Vet. Res. 71, 87–92 (2004).
鈴木夏海, 高木龍太, 森さやか & 浅川満彦. ハリオアマツバメ (Hirundapus caudacutus)の巣内ビナ救護時に見出されたハジラミ類. 北海道獣医師会雑誌 63, 20–21 (2019).

105歩で生き物観察ヘッダー



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浜松科学館自然観察園は地域の方々のお散歩ルート。歩道は端から端まで105歩。普通に歩けば1分足らずで通過してしまいます。 その1歩1歩にもたくさんの生き物がいて、関わり合い、科学的な事象が起こっています。「小さな森での小さな出会い」を少しずつお届けします。