獣医さんと巡る動物園【浜松ミクロ散歩「動物たち」前編】
「浜松のことをもっとよく知りたい!」
好奇心旺盛なスタッフが浜松科学館を飛び出して、浜松各地を訪問。
訪問先で出会った方々とふれあい、こだわりの商品などを科学館にある電子顕微鏡で観察して、ミクロから浜松を探っていく企画です。
訪れたのは浜松市西区の浜名湖湖畔に位置する市営の動物園「浜松市動物園」。幼い頃から浜松市動物園に親しんでいる浜松市民の方も多いのではないでしょうか。
浜松市動物園のある舘山寺総合公園内には、はままつフラワーパークも併設されており、共通入園券でふたつの施設を楽しむことができるので、観光客にも大人気。
催しも盛んで、動物たちの誕生日会やナイトZOO、季節折々イベントも開催しており、いつ行っても何度行っても楽しむことができますよ。
浜松市動物園の創立は1950(昭和25)年。当時は、県内初の動物園として開園しました。
開園当初は浜松城公園内にありましたが、1983年(昭和58年)に舘山寺総合公園内へ新たにオープンしました。
以来、「はまZOO」の愛称で市民のみならず全国の動物園ファンから親しまれています。今年(2024年)で創立から74年。
今回は浜松市動物園の獣医 白澤さんに魅力たっぷりの園内をご案内いただきました。
今回の研究テーマは、やはり「動物」。
電子顕微鏡でその生態に迫るため、動物の毛や羽根にフォーカスしていきたいと思います。
というわけで、あらかじめ園内の様々な動物たちの抜け落ちた毛や羽根などを職員さんに集めていただきました。
小粥
わ!こんなにたくさん!ありがとうございます。
白澤さん
いえいえ。飼育を担当するスタッフに協力してもらいました。
どんな風に見えるのか楽しみですね。
では早速、この毛や羽根の持ち主の動物たちに会いに行きましょう!
動物たちに会いに行こう!園内を探検
園地面積14万6千平方メートルの広大な敷地には動物ごとのエリアがあり、自然豊かな園内を散策しながら動物たちを眺めることができます。
小粥
現在(2023年11月)、園内には何種類の動物がいるんでしょうか。
白澤さん
約85種類います。うちには、大きく分けて哺乳類と鳥類がいます。
哺乳類は約50種類くらい、鳥類は約35種類くらい。
白澤さん
正面ゲートをくぐって最初の展示はポニーのエリアになります。
馬の毛を提供させていただいたんですが、それがこの子の毛ですね。
ポニーのチャチャと言います。
小粥
チャチャさん。寝ていますね。
白澤さん
馬は爪で起立しているんですが、爪のケアがとても大切です。そのケアは素人ではできないものなので、毎月、削蹄師(さくていし)( ※)さんを呼んで削ってもらってケアしてます。
(※牛や馬の蹄を切り整えて管理する職人)
白澤さん
僕ら獣医も全ての治療ができるわけではないので、そういった方々の協力を得ながらこの子の体調管理をしていますね。
小粥
確か、馬の爪っていうのは、我々人間でいうところの5本のうちの一本の爪なんですよね。
白澤さん
馬の場合、中指だったと思います。
小粥
中指の爪が伸びて立っていると。すごいですね。
白澤さん
中指以外の他の指が退化して、というようなイメージだと思います。
小粥
もちろん、馬にとってはそれが普通のことだと思うんですけど、
指一本で体を支えるなんて大変そうですね。
白澤さん
人に例えるとそうですよね。そういう骨格に進化してきているんですね。
ですので、余計に足というのが致命傷になりやすいですね。
白澤さん
この辺のエリアは、ふれあいをテーマに人間の生活に身近な動物たちを集めたエリアになっています。
ポニーや、ヤギ、ヒツジ、ロバなどの家畜寄りの動物たちを集めています。
小粥
僕は浜松出身なんですけど、子供の頃、特に小学生低学年の時には、浜松市動物園に毎週来てたんですよ。
なので、展示の配置も大体覚えていて。かなり開放的になりましたよね。
黒カンガルーもケージが変わってますね。どこからでも見えると言いますか、多角的に見やすいものになってますね。
白澤さん
約3年前にリニューアルしたんです。浜松市動物園が舘山寺総合公園内に新しく作られたのが1983年(昭和58年)のこと。
当時としては最新の設備だったのだと思うのですが、約40年くらい前に建てられたものですので少し年季が入ってきました。最近はどんどん展示方式のトレンドも変わってきています。動物の見せ方と動物福祉をバランスよく取り入れるというのが意識されているんだと思いますよ。
小粥
人にも動物にも良い環境が大切なんですね。
白澤さん
欲を言えば、金網を少し少なくしたり、アクリルを使って見やすくするとか、いろんなやり方で試行錯誤できるとは思いますが、改善という意味では前よりかは良くなっているのではないかと思います。前は昔ながらの四角い檻という感じだったと思うので。
小粥
そう、正面からしか動物が見えなかった。今はいろんな角度から動物を見ることができて嬉しいです。
白澤さん
このふれあい棟が新しい建物になります。この建物ではモルモット、ウサギ、チンチラを飼育しています。
主にモルモットは「ふれあい体験」として、日常的に来園者の方に撫でていただいたり、幼稚園児たちの来園の際に膝に乗っけてみようといったイベントで活躍します。
白澤さん
ハリネズミの針を提供させてもらったと思うのですが、ハリネズミのたわしからもらいました。
※ハリネズミのたわしは、2023年12月に死亡しました。
上野さん
もしよろしければ、チンチラの髭も取っておいたので持って帰られますか。
あと、ハリネズミの針もありますよ。
小粥
ありがとうございます。ハリネズミの針、今この場で触らせていただくことはできますか。
上野さん
大丈夫ですよ。
小粥
あー痛いね。ちゃんと痛いですね。
上野さん
丸まっているだけの状態ですと、針を立てているだけなのでそんなに痛くないんですよ。
イガ栗を持っているような感じで、イガ栗も握らなければ痛くはないじゃないですか。
ハリネズミもそれと同じで別に痛くはないんですよ。
ただ、それが怒るとギュッて身体を押し付けて針を刺してくる(笑)。
そうするとチクチクして痛いんですよ。
小粥
ふふ(笑)、攻撃態勢の時があるんですね。
同じように針を持つ動物のヤマアラシは針を飛ばしてくるんでしたっけ。
上野さん
ヤマアラシは針を立てて後ろに下がってきて攻撃してくるんですよね。お尻側には回らないようにしないと危険というイメージです。
白澤さん
そうだね。前には来ないもんね、ヤマアラシの針は。孔雀のように後ろに広がる。
小粥
ちなみに、ハリネズミが交尾する時はこの針が邪魔になったりしないんですかね。
上野さん
実際に交尾しているところは見たことがないんですけど、普段は針を寝かせています。
それと、お腹の白いところは柔らかい毛ですので、大丈夫ではないかと思います。
小粥
相手に対して攻撃しようって針を立たせなければ、そんなに邪魔にはならないのか。
上野さん
憶測にはなってしまいますが。
白澤さん
次はフライングケージですね。フライングケージには、インコやハトなど8種31羽の鳥が暮らしています。
ケージの中を歩いて間近で鳥たちを観察することができますよ。
確か、ルリコンゴウインコ、ショウジョウトキ、ジュズカケバトの羽根をご提供しましたね。
白澤さん
インコがいましたね。
小粥
おお〜、美しい。
白澤さん
あれ?もう一羽、ルリコンゴウインコのレイがいるんですが、見当たらないですね。
巣の中に入ってたりするかもですね。お渡ししてある羽根は、青かったですよね。
イロハは緑とオレンジが強いですもんね。レイは青と黄色が強い子なんですよ。
小粥
あ!あの子じゃないかな、レイさん。すごい上の天井の方にいる!
自由自在ですね。足やくちばしを使って毛繕いしてる。
白澤さん
器用ですよね。よく、くちばしを起点にして木を降りたりするのを見かけます。
ジュズカケバトはどこかな。大体、下の方にいるんですけど。
ハトは2種類いまして、クジャクバトとジュズカケバトがいます。
今日は下にはいないですね。上の方にいるのかも。
白澤さん
ショウジョウトキもあそこの上の方にいますね。
小粥
鳥の羽根を顕微鏡で見てみるとフックがついているんですよね。
羽根の羽軸(うじく)があって、羽枝(うし)が左右に生えている。その羽枝(うし)に、小羽枝(しょううし)という細かい毛が生えていて、その細かい毛それぞれのふちにフックがあって、それが隣の毛と連結してるみたいです。
小粥
ペンギンの羽をみるとそのフックがなくて全体的に荒くて枝毛みたいになってるんですよ。同じ鳥でも違うんだなって。
白澤さん
ペンギンと空を飛ぶ鳥というのは、鳥の中でも一番対極的な子達ですもんね。
鳥も生態によって体の部分の役割が異なるので、そこも作りが違いますよね。
白澤さん
フライングケージを出ましたら、すぐあるのが猛禽舎。
オジロワシ、ハクトウワシ、オオワシ、アンデスコンドル、ヒメコンドルの飼育をしています。
ハクトウワシ
(澄んだ鳴き声で)チュチュピピピチュチュ!
小粥
あ、これハクトウワシの声だったんですね。
白澤さん
そうなんです。飼育員と間違えてエサとかねだっているのかも(笑)。
人間の格好で判断してるんだと思います。
小粥
個人的には、オオワシとオジロワシのケージが対極の位置にあるのがアツいですね。
一応、私、浜松野鳥の会に所属しておりまして、鳥も好きなものですから(笑)
白澤さん
そうなんですか、そんな会があるんですね!
僕、鳥の見分け方がどうも苦手で(笑)。好きな方は本当にお詳しいですよね。
小粥
全国的に珍しい鳥が出ると、どこそこに何々が出たから行かなければならぬ、みたいな(笑)。
白澤さん
そういうネットワークみたいなものがあるんですね。
僕、磐田の鳥も知らなかったですもん。えーっと、何でしたっけ。ジュビロ磐田の黒い鳥!
小粥
あ~!サンコウチョウ。あれは静岡県の鳥だったと思います。
白澤さん
お客さんに「ここにはサンコウチョウがいるね」って言われたことがあって。
僕、「サンコウチョウってなんですか?」って(笑)。
うちも自然が多い動物園なので、野生のサンコウチョウが園内にいたみたいなんです。
お客さんに動物のことを教えてもらうことも多いですよ。
白澤さん
次はニホンザルです。
小粥
いいですねえ。
ニホンザルとかは一日中見てても飽きないですよね。
いろんなドラマがある。
白澤さん
それぞれにキャラクターがありますよね。
小粥
ちなみにボスって今ここにいますか。
白澤さん
ボスの概念はあんまよく分かってなくて、もしかしたらボスのような存在はいないのかもっていう説もあるんです。
この中で力が強い子はいるんですけど、個体識別が僕はあまりできていないです。
治療の対象になるのは大体は体の弱い子だったりとか喧嘩に負けてしまった子たちなので、獣医という業務上、ボスや位が上の子の名前があがることってほぼないんですよ。
小粥
なるほど。体も強くてケンカが強い子は怪我や病気も少ないですもんね。
白澤さん
ニホンザル担当の飼育員は、サル山の事情に詳しくて「あの子は強い」とかそういう話は聞かせてくれますけどね。
白澤さん
ワオキツネザルの展示場所が、「鶴舎」と「サルのアパート」の2箇所にあります。こちらは鶴舎の方なんですが、鶴舎の中にワオキツネザルのために一室設けています。
小粥
いい顔してますね。
昔はここにキジもいましたよね。
白澤さん
いたこともありましたね。
本当によく覚えていらっしゃいますね。
小粥
これはアムールトラですか。
白澤さん
ええ。浜松動物園の猛獣系、特にトラ・ライオンは展示スペースが広いということで40年前の造りの割にはいい環境ではありますね。
狭い中で、とか、遊び道具がないという環境は動物福祉には望ましくないという観点があります。
トラなんかは猫科で珍しく水に入るというので、お堀で泳いだりするのもストレス解消になっていると思います。
まあ、それを狙って作ったお堀ではないので副産物ではあるんですけどね。それでお客さまが喜んでもらえるというのは一石二鳥ですね。
小粥
お堀に水を張ったらトラのプールになった、と。暑い夏なんかはトラもリフレッシュになっていいですね。
白澤さん
お堀型の動物園というのも今ではスタンダードですが、40年前当時はむしろ先進的な見せ方だったそうです。
開園当時は他の園からの視察もあったみたいですよ。
資料に残っているのが、愛媛県のとべ動物園がここの園を参考にしていたみたいです。
僕もプライベートで行ったことがあるんですが、確かに随所に浜松市動物園を参考にしてるなというのを感じました。
小粥
そうだったんですね。トラといえば、昔は浜松にもトラがいたらしいですよ。
すごい大昔ですけどね、ナウマンゾウとかがいた時代の。
白澤さん
へえ、驚いた。証拠が見つかっているんですか。
小粥
実際にトラの化石が見つかっているみたいです。トラの種類まではわからないらしいですが。
白澤さん
トラの隣のエリアがライオンです。
小粥
寝てますね(笑)。
やはりライオンは夜行性なんでしょうか。
白澤さん
そうです。
自然界の中でも夕方から狩りが始まるということなので、昼間は寝てばかり(笑)。
小粥
うふふ(笑)。
普段、僕らは日中ののんびりしたおやすみタイムを見ていると。
白澤さん
一番いいのは朝イチか夕方ですね。
朝イチは運動場に出てきたばかりで活発ですし、夕方はご飯の時間になるので寝室に帰る時に動きを見ることができます。
日中はこの子達のぐうたらタイムですね。
小粥
ということは、エサやりのタイミングとかも色んな動物たちに合わせて行っているんですね。
白澤さん
はい。この子たちの健康という側面もそうですし、もう一つは、動物に移動してほしい時にエサのタイミングに合わせています。
この子たちの場合は、寝室にエサを用意しておいて、夕方の帰ってもらいたい時に寝室のドアを開ける。
小粥
「さて、夕ご飯があるし寝室に戻ろう」みたいな。
白澤さん
そうです。そうじゃないとおそらく寝室に戻るきっかけがないんですよね。
小粥
動物たちも閉園後はお家に帰るんですね。
白澤さん
基本は寝室で過ごします。
肉食動物に限らず、ほとんどの子達がそうですね。
白澤さん
もう一つの工夫としては、毎日同じものはやらずに絶食日というか、給餌量を減らす曜日をあえて作っています。
小粥
自然界でも常に満腹なわけではないですもんね。狩りに失敗する日だってある。
白澤さん
飢餓状態のシミュレーションですよね。
給餌量の緩急をつけることで、体もなるべく自然に近づけようという試みです。
小粥
草食動物は毎日決まった量をあげるけど、肉食はちょっと減らす日があるってことですか。
白澤さん
大まかにはそんなイメージです。
小粥
トムさんはメスですか。
白澤さん
実は、トムはオスです。。たて髪がオスライオンのシンボルですから、来園者の方からもよくメスですかと聞かれます。
ただ、体格の違いはメスと比べると明らかですね。オスの筋肉質な体つきです。
白澤さん
リカオンは最近きましたね。2年前かな。
リカオンは日本で3園しか飼っているところがないんですよ。
小粥
へえ〜、珍しいんですね。
白澤さん
なんという格好で寝てるんだ(笑)!
写真を撮って動物園のSNSにあげよう。
X(旧Twitter)当番っていうのがあってネタを探さないといけないんですよ(笑)。
小粥
浜松動物園さんのX(旧Twitter)は人気ですよね。
いろんな動物たちの姿が見られる癒しの投稿。
当番制だったんですね。面白いですね、いろんな人の視点で見た動物たちが見られる。
白澤さん
当番制だと内容が偏らないのがいいかもしれませんね。
リカオンの模様の関係でうまく撮れない(笑)!
小粥
確かに特徴的で複雑な模様をしてますね(笑)。
白澤さん
続いては、クロヒョウとユキヒョウですね。
白澤さん
ユキヒョウのこの子は、今20歳で日本で最高齢です。
白澤さん
この辺は齧歯類のエリアでカピバラとヤマアラシがいます。
ヤマアラシは2種類いて、カナダヤマアラシとアフリカタテガミヤマアラシ。
白澤さん
今回ご提供したヤマアラシの針は、アフリカタテガミヤマアラシの針です。
小粥
うわ!缶に刺さってます!
これは鋭いですね。
白澤さん
カナダヤマアラシの方ですが、木にしがみついているのがわかりますか。
小粥
ん?あー!いる!
太い木かと思った(笑)。
寝てるのかな…?(しばらくして)あ、動いた。
白澤さん
この子達はスピーディーな動きの動物じゃないからなあ。
小粥
しばらく眺めてると面白いですよね。モサモサした姿で後ろ姿がかわいいですね。
なんか動きが一歳児みたい。
白澤さん
ぎこちないところがいいですよね。
カナダヤマアラシは見つけ辛いです。探しても見当たらない時すらある(笑)。
ですが、しばらく見てるとすごく面白いですよ。
アフリカタテガミヤマアラシよりも見た目がぬいぐるみっぽいですけど、あんな風でも立派な針を持っています。
診察するため近づいた時に、針を立てられるとやっぱり触れないなって実感します。
白澤さん
この2種類のヤマアラシたちなんですが、おなじ“ヤマアラシ”と名前がついているんですが、生物分類ツリーで見たときにだいぶ根本の方から枝分かれしているみたいですね。
小粥
え?科が違う!
アフリカタテガミヤマアラシは「ヤマアラシ科」、カナダヤマアラシは「アメリカヤマアラシ科」とありますね。
ということは、齧歯目の中で、「ヤマアラシ」という進化が2回起きたってこと?
だとしたらすごい面白い!
白澤さん
面白いですよね。
「ヤマアラシ」と同じ名前がついているので住んでる地方が違うのかなくらいに思いますけど科が違う。
僕も生物分類学の知識は曖昧なので、ぜひ調べてみていただけたらと思います。
白澤さん
次はレッサーパンダです。レッサーパンダは、「シセンレッサーパンダ」と「ネパールレッサーパンダ」の2種に分類されますが、浜松市動物園にいるのはシセンレッサーパンダです。すごく人気で、いろんな地方からレッサーパンダをお目当てにお客様が訪れてくださってます。
りんごなどの差し入れもくださる方もいます。
小粥
かわいい〜!
白澤さん
レッサーパンダが特徴的なのは後ろ脚ですね。
一時期、立ち上がることができる子が話題になりましたよね。
それは、踵(かかと)がしっかりあるからなんですね。
猫や犬は、人間で言う、踵(かかと)の位置って浮いてますよね。レッサーパンダは人間みたいに、踵(かかと)が地面にしっかりついています。
小粥
本当だ。人間との共通点が意外なところにあるんですね。
レッサー“パンダ”というのでやはり笹を食べるんでしょうか。
白澤さん
そうですね。エサの中に入ってます。笹の他に果物なども日常的に給餌していますよ。
合計4頭の飼育しておりまして、性別だったり個体を合わせる合わせないも含めてローテーションで展示しております。
白澤さん
ちなみに最近発表したんですが、今運動場に出てる「ミライ」という個体が園外に引っ越ししていくことになりました。
ですので、お別れ前にいろんな方が会いに来てくださってますね。
小粥
ミライさんは結構若いんですね。
白澤さん
二人はキララの子。
アラタとミライは兄弟なんですよね。
白澤さん
聞くところによると、世界で飼育されているシセンレッサーパンダうち7割以上が日本にいるみたいです。(2017年末時点)
小粥
日本人にとても人気なんですね。
白澤さん
通りの向かいにあるのは、小型の猿たちのエリアですね。
浜松市動物園で特徴的なのはゴールデンライオンタマリンです。
白澤さん
エリオはオス個体で高齢なんですよ。寿命という概念が難しいところですけど、一般的な寿命は十分超えてる子じゃないかなと思います。
この子が浜松動物園の最後の一頭なんですよ。
小粥
何歳になるんですか。
白澤さん
21歳を過ぎたくらい。
寿命の観点からすると、1日でも長く生きてねっていう、そのくらい高齢です。
小粥
国内で、浜松動物園以外の他の園にはいるんですか。
白澤さん
いないんですよ。日本で唯一です。
白澤さん
お次はミニサファリを通りまして、類人猿のコーナー。
ゴリラ、オランウータン、チンパンジーがいます。
今日はゴリラのショウくんは出てくれるかな。
見れる時はドームの上に座ったりしてくれるんですが、場合によっては中にこもっている場合もありますね。
まあ、それが動物の自然体の姿ですね。今日は中にいるのかも。
白澤さん
ご飯あげる時はいろんなとこに配置して動きを出すようにするんですよ。
また、自然界と同様に食べ物を自分で探す行動を引き出す狙いもあります。
あ、オランウータンが目の前にいましたね。
小粥
立派な顔してるな。
白澤さん
もうご飯は食べたんでしょうね、この感じだと。
いろんなとこに食べ残しが残ってますけど(笑)
そんな日陰の寒いとこにいないでいいのに。
白澤さん
こちらがチンパンジーですね。
類人猿の診察のために初日に教えられたのが目をなるべく合わさないこと。
目を合わすことって相手を威嚇することと同じことになってしまうんです。
でも、僕ら獣医にとっては、診察を含め“見る”ってことが大事なので、そこは相反する行為ですよね。
目を見ないようにして見てないようなふりをしてチラッと見る。
小粥
警戒心を与えないように診察するのは大変ですね。
白澤さん
警戒されちゃうと診察ができないだけでなく、この子達のストレスになってしまうんですよね。警戒されてしまった時にその警戒をどう解除するかっていうと、毎日「あなたは関係ないよ」という風に目を合わさないようにこの辺をプラプラと通ります。
「あいつはただの歩行者だ」と認識してもらって「敵じゃないんだ」と思ってもらえれば、だんだん警戒が解除されるんじゃないかって飼育員さんにアドバイスを受けながら。
小粥
面白いですね。人間でいうと、見つめ合うことは一種のコミュニケーションなんですけどね。
白澤さん
動物の世界では威嚇になっちゃうんですね。
白澤さん
猿の比較ができるエリアというのが、さっきの類人猿のエリア、プラス、ここのエリア「サルのアパート」になりますね。
ここでは主に中型サルの展示を行っています。
小粥
サルはサルでも顔つきも違うし全然違いますね。
白澤さん
同じサルでもこのフランソワルトンとアビシニアコロブスは「リーフイーター」といって葉っぱを食べる子たちなんですよ。
ですので、お腹の中の菌の構造も違うんですよ。
白澤さん
僕は獣医なので語れるのは治療の側面ですけど、同じサルでも種によって使える薬の種類が異なるんですよね。
一概にこの種類のサルに使えたから違う種類のサルに使えるかと言ったらそうとは限らない。
小粥
人間でも個体差ありますもんね。
白澤さん
こちらはツキノワグマ。
小粥
ホッキョクグマの毛の中は空洞ですけど、ツキノワグマの毛の中は詰まっているのかなというのを電子顕微鏡で見るのを楽しみにしているんですよ。
ところで、動物園のクマさんは冬眠はしないんですか。
白澤さん
しないんですよ。小学生からもこの前同じ質問を受けました。
おそらく、冬でもエサがあるからでしょうね。
白澤さん
こちらは最近引っ越してきたヒグマたちです。
小粥
少し小さい?
まだ赤ちゃんですか。
白澤さん
まだ子供ですね。
今年産まれた子たちです。
小粥
やんちゃそう。
白澤さん
まだ幼いからか、見た目がちょっとたぬきみたいですよね。
昨年、ピリカという高齢のヒグマがいたのですが、その子が亡くなったのでこの子たちを迎え入れました。
熊ファンの方々からしたら、満を辞してというか、待ってましたという感じ。
小粥
あ、オレンジ色のブイのようなものがウェルカムボードになっていますね。
白澤さん
サポーターイベントで手伝ってもらったんですよ。
その他にも、ウッドチップを敷くのを手伝っていただいたりしてます。
白澤さん
この向かいにいるのはフラミンゴを含む水鳥ですね。
小粥
このフラミンゴのピンク色は、食べるもの(水中の微生物)の色って聞いたことがあるんですけど、彼らには何かそういった特別なものをあげているんですか。
白澤さん
あえて何かを与えているかというとそうじゃないんですけど、フラミンゴペレットというエサがあるのでそれに何か入っているのかな。
僕もそれが謎だなと思っているんですが、3年前くらいに一羽の赤ちゃんが産まれた時に白色だったのが、大きくなってきたらやっぱり色付いてきてるんですよ。
小粥
フラミンゴペレット。そのエサに何か秘密があるのかもしれませんね。
小粥
ペンギンだ!
僕はペンギンの口の中が見たくて、あくびを撮影するためにここで1時間粘りました(笑)。
白澤さん
普段は水の中にいるし、ご飯食べてる時も口の中に何か入っちゃうし、確かにあくびのタイミングしかシャッターチャンスないかも(笑)。
ペンギンはね、意外と攻撃的で薬とかあげる時にもくちばしでつついてくるんですよ。
この間は手のひら噛まれましたから。悪い奴らです(笑)
小粥
あはは(笑)。おっとりしているように見えて案外好戦的なんですね。
白澤さん
フラップと呼ばれている、羽というか手の部分なんですけど、質感がめっちゃ硬い。
泳ぐためのオールみたいな役割なので硬いのは当たり前なんですけど、それでバシバシ叩かれると本当に痛いですね。
小粥
動物相手だとそういった怪我もあるんですね。
白澤さん
あんまり良くはないけど、そこを避けてたら作業はできないですね。
白澤さん
アシカですね。
オスのルーシーが泳いでいます。
小粥
すいすい泳いでますね。
優雅です。
小粥
隣の展示の人だかりは何ですか。大人気だ。
白澤さん
シロクマですね。ちょうどオヤツタイムですね。
小粥
白菜を食べるんですね。肉食かなと思ってたんですが。
野生だとアザラシとかを食べるイメージがありますけどね。
白澤さん
捕食者のイメージがありますよね。
意外と野菜やりんごなども喜んで食べますよ。
小粥
タンパク質もあげる?
白澤さん
肉もアジなどの魚もあげてますね。
小粥
今運動場に出てるのは、バフィンさんですか、モモさんですか。
白澤さん
あれはバフィンですね。
小粥
おお!僕らが普段電子顕微鏡の紹介でサンプルとして出すのがバフィンさんの毛なんです。
ようやくお会いできました。
白澤さん
最後はビーバーなんですが、夜行性なので昼間全然出てこないですね。
この子に関しては、ナイトZOOの時が一番見やすいですね。
それ以外ですと、午後3時くらいが餌付けのタイミングなのでその時は食パン食べに出てきてたりしますよ。
人間と動物を繋ぐ 動物園という仕事
小粥
子供の頃、浜松動物園にはしょっちゅう遊びにきていましたが、子供の頃を思い出して懐かしくなりました。
ゴリラのショウくんが今も生きているんだって感動しました。
白澤さん
そうなんですよ。ショウは長生きなんですよね。
僕も地元が浜松なんです。
昨年(2022年)亡くなったゾウのハマコの治療にも携わっていたのですが、ハマコは浜松市動物園に50年もいた個体なんですよ。
きっと、僕が子供の頃に見てたゾウのはずですので、ハマコの治療に携われたというのはありがたい経験でした。
小粥
感慨深いですよね。
白澤さん
僕ら、浜松市動物園の獣医は市の職員なので、人事異動もよくあることなんです。
ハマコを看取ることの出来た貴重な年にここに配属されたのも本当に偶然で、貴重な体験をすることができたと思っています。
小粥
浜松市動物園の獣医さんは何人いらっしゃるんですか。みなさん、市の職員なのですか。
白澤さん
今は3人います(園長も含めると4人です)。浜松市に勤務しているという形態ですね。
一般公務員の方がいろんな部署に異動するように、僕らも動物園じゃないところに配属になることも十分あり得ます。
僕が10年後にまだここにいるかと言われると確実にここにはいないと思いますね。
小粥
そうなんですね。
普段は、園内の動物たちの治療と個体管理の仕事をしているのですか。
白澤さん
ええ。獣医として大きな仕事がふたつあって、ひとつはやはり動物たちの健康管理。
もうひとつは教育関係のお仕事になります。
小粥
いろんな動物の治療をするのは大変そうですね。治療法もそれぞれ違いますものね。
白澤さん
犬猫専門の獣医さんであれば、「犬で5キロの子だからこの薬を何グラム」とすぐ治療法がわかるんですが、僕ら動物園の獣医は、治療を必要としている子に治療をしたいねとなった時に「この動物種には何の薬であれば投薬していいのか」「容量はどのくらいなのか」「投与するにはどうしたらいいのか(エサに混ぜるのがいいのか、注射するのがいいのか)」などを調べるところから治療がスタートするんですよ。
小粥
浜松市動物園ほどの多種多様な動物のいる動物園に配属になると「これはたくさん調べ物あるぞ〜!」って心する感じですか。
白澤さん
もうお手上げですよ(笑)。
大学の時に全ての動物の病気や治療法を学んでいるわけではないですから。
小粥
大学生である短い期間で全てを学ぶのは無理ですもんね。
白澤さん
野生の大きい動物は決まった治療方法がないものが多いんですよね。僕らはまず、治療が必要かどうかっていうのを考えるんですよね。
自然環境では、加齢に伴う持病で亡くなるのは自然なことですから。
白澤さん
動物園動物は、中途半端に愛玩動物であり中途半端に野生動物であるというジレンマがあります。治療方法や方針も含めて、決して答えがあるものではないんですね。
明らかな痛みや苦痛がある場合はそれを取り除くのは当たり前なんですけど、どうケアしていくべきなのかなというところはいつも葛藤があります。
小粥
こうして動物たちの命と向き合ってくれる獣医師さんがいるというのは市民にとってもありがたいことですね。
先ほど、浜松動物園の特色として代表的な動物はゴールデンライオンタマリンだというお話がありましたが、全体の特色としてはどういったところがありますか。
白澤さん
昨年にゾウのハマコが亡くなってしまいましたが、ゴリラ、ライオン、キリン、ホッキョクグマが揃っているところも魅力ですかね。
大型の動物が揃っている動物園というのは意外と少ないみたいで、そこが強みですね。
後はサルの種類が多いというのがうちの特徴ですね。小型サル、中型サル、類人猿。
特に、大型の類人猿のゴリラ、オランウータン、チンパンジーのこの3種類が揃っている動物園もそこらじゅうにはないんですよ。
小粥
私が子供の頃、動物園でそういった動物に慣れ親しんでいたっていうのは恵まれた環境にいたんですね。
白澤さん
浜松に住んでいる方にはゴリラって結構当たり前の存在ですよね。
浜松動物園はもちろん、東山動物園にも近いし、京都市動物園だって行けなくはないですから。ただ、遠い地方に住まわれている方々からすれば、ゴリラを見るってなかなかレアなことだったりするみたいですよ。
小粥
立地の気候的な向き不向きもあるんでしょうか。
白澤さん
どうなんでしょうか、静岡は比較的温暖ですもんね。
小粥
新しく動物をお迎えするときは他の動物園さんとかとやりとりをするんですか。
白澤さん
他の動物園とやりとりするのがメインです。
ただ、「血統管理種」という数を調整する必要のある種に関しては、全国の動物園で「血統登録担当者」という管理をする代表の人が決まっているので、その人と相談します。
小粥
絶滅種や絶滅危惧種になっている野生の動物を動物園へ簡単には導入できませんものね。
動物園生まれの子たちの繁殖を管理するのが血統登録などの管理なんですね。
小粥
血統管理種以外の動物のお引越しは、動物と動物を交換するんですか。
白澤さん
交換という場合もありますし、売買というケースもあります。
ブリーディングローンという制度で貸し借りをしている場合もあります。この制度には、書類などのやりとりを少なくして、頻繁にフレキシブルな移動ができるようにという狙いがあるんですよ。
白澤さん
動物たちのお引越しで一番気を使うのは搬出・搬入の時。
事故が起きやすいというのもありますし、大掛かりであればあるほど大規模なケージやトラックが必要になるので事前に準備が必要です。
ケージを用意してもその中に入ってくれるっていう確証がないのが動物ですよね。スムーズにやらないとストレスもかかります。
警戒心の強い子は1ヶ月前にケージを借りて慣らしておいて「この日に搬出だからその日頼むよ」と、そのくらい事前に準備します。
小粥
たまにお引越しの様子がニュースで報道されたりしますが、裏ではかなり長期間の計画があったんですね。
白澤さん
実は、搬出・搬入って一言で片付くほど簡単なことではないんですよ。
僕らからしてみると本当に大きなイベントです。
ケージに慣れていても、きっと飼育員のソワソワ具合がわかるんでしょうね。
「搬出の日に限ってなんで今日はケージに入らないのよ、いつも入るじゃん!」とか、搬入の際にせっかく無事に到着しても怖がってケージから出て来れなくなったりします。
受け入れた側は環境に馴染ませるための工夫に苦労するんですよね。
白澤さん
お客さんも待ち遠しいし、飼育員ももどかしさを抱えているんですが、どちらも「動物優先」に思っているのは変わりないのでね。
そういった一筋縄ではいかないところをどうやってお客さんに楽しんでもらえるかっていうのが難しいところでもあり、やりがいでもあります。
小粥
動物園という施設で動物の命を扱う難しさですね。
白澤さん
昔はいろんな動物が見られるのが動物園であって、それが当たり前のことだったんですけど、日本でゆくゆくは見れなくなるかもしれないという動物は増えています。
最近では、動物園の教育の一環として「希少性や動物を育む自然環境を守る」「命を守っていく」ということが副題になってきています。
希少な命を大事に明日へ繋いでいこうと、僕ら動物園の職員全体で日々取り組んでいます。
小粥
見る側も動物園のそういった側面を意識すると、展示もまた違った風に見えるかもしれませんね。
白澤さん
そうですね。
ですが、幼稚園児や小学生にそれをいうのは違いますけどね。
子どもたちは、直感で「大きい」「臭い」「面白い」「怖い」とかでもいい。
動物を見て、いろんなことを感じてもらいたいです。
小粥
その直感が起源ですよね、学習っていうのは。
白澤さん
僕らはその機会を提供して、後は各ご家庭で持ち帰って色々考えてもらえたら嬉しいです。
ここで僕らが命は大事だよねとか言っても白けちゃうから。
小粥
それは科学館も同じかもしれませんね。
後で振り返って、あの時こういうの見たなって思い出してもらえたら。
白澤さん
そうですね。後々、成長して学校や社会に出ていった時にいろんな体験から得た裏付けが増えていくのだと思います。
浜松動物園もその体験のひとつとして、みなさんの心に種まきができたらいいなと思います。
取材を終えて
獣医さんと巡る浜松市動物園探検ツアーはいかがでしたか。
普段、聞けないような裏話をたくさん聞けてとても参考になりましたね。
動物たちの命のことを考えるきっかけになりました。
動物園は、子供達にとって人生で初めて家畜やペット以外の動物を見る貴重な機会を得ることのできる施設ですから、できる限り長く続いて欲しいなと私は思います。
大人になっても運動場でまったりしている動物たちを見るのは癒しのひとときだったりしますよね。
そんな浜松市動物園の動物たちを応援したい方、私たちでも参加できる制度があるのをご存知ですか。
その名も「浜松市動物園サポーター」の会。
会費を払うと加入でき、その会費は施設の整備やエサの購入などに使われます。
会員特典も豊富で、会員期間中に無料で動物園に入場できる会員証や動物たちのオリジナルグッズ、サポーター限定の特別イベントなどにも参加できます。
浜松市動物園のWEBサイトから入会できます。応援したい方はぜひチェックしてみてくださいね!
そして、動物たちの毛や羽根をテーマにした小粥の解説記事では、ミクロの世界から動物たちの知られざる魅力をご紹介(後日公開予定)。
記事を読んでから実際に足を運んでみると、動物の観察ポイントが増えてより楽しめるかも。ぜひ、読んでみてくださいね。
◆ 取材協力
浜松市動物園
◆ 記事執筆
黒川夏希(ウィスカーデザイン)