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地元野菜と自社製造のお酢で作るこだわりソース【浜松ミクロ散歩「ソース」前編】
「浜松のことをもっとよく知りたい!」
好奇心旺盛なスタッフが浜松科学館を飛び出して、浜松各地を訪問。
訪問先で出会った方々とふれあい、こだわりの商品などを科学館にある電子顕微鏡で観察して、ミクロから浜松を探っていく企画です。
今回研究するのは、食卓を彩る定番の調味料「ソース」。
ソースと聞いてどんな料理を思い浮かべますか。お好み焼き、焼きそば、たこ焼きなどのいわゆる“粉もん”料理やアツアツの揚げ物などにかけても美味しいですよね。
そんな日本の食文化に深く根付いたソースですが、どんな材料からどのように作られているか、ご存知ですか。なんとなく野菜が原料なのは知っていても、その詳しい工程までは知らないよって方も多いのではないでしょうか。
取材にご協力してくださったのは、浜松市中区相生町に工場を構える「トリイソース(鳥居食品株式会社)」。
トリイソースは浜松産の美味しいソースとして県内外で大人気!
オリジナリティあふれる商品には愛用者も多く「うちのソースやポン酢はトリイソースのやつを使ってるよ」という方も多いのではないでしょうか。
そんな浜松民に愛されるトリイソースのソース作りを見学してまいりました。
お話を伺ったのは、トリイソース三代目 代表取締役の鳥居さん。
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生の野菜の風味を味わう こだわりのソース作り
一般的にソースとは、原料となるトマトやりんごなどの野菜や果物を細かくカットし煮込み、裏ごしをした後にスパイスなどの調味料を加え煮込み、液状にしたもの。
細かな工程や作り方はメーカーによって異なり、使用される野菜や果物、スパイスもさまざま。各メーカーごとに多種多様なこだわりを持った個性的なソースが作られているんですよ。
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鳥居さん
こちらがトリイソースの工程を図にしたものです。
小粥
総工程時間が2,000時間以上!?
すごくこだわりを持って作られているのがこの工程図を見るだけでわかりますね。
鳥居さん
うちは材料のお酢を自社で作っていたり、生の野菜を使用するためにじっくり時間をかけて煮込みますので全ての工程を経るとこのくらいはかかりますね。
では早速、ボードの一番左上の工程、野菜を洗ってカットするところから行ってみましょう。
小粥
お〜、工場の中は、いい香りがしますね。
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鳥居さん
こちらが野菜を洗ったりカットしたりするところです。
こちらのトマトは「こひとみトマト」っていって、浜松市西区の古人見(こひとみ)町ってところで生まれたトマト。
古人見町にトマトの選果場があるんですけど、そこで規格外ではねられたものを仕入れています。
よく見てもらうと形がいびつだったりするんですけど、そういったものを集めて使用しています。
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小粥
形が多少規格外だったり傷があったとしても、味は同じですもんね。
野菜は何種類くらい使われているんでしょうか。
鳥居さん
野菜は、トマト、玉ねぎ、にんじん、ニンニク、セロリの5種類ですね。
セロリは12月から穫り始めるんですけど、うちが仕入れるのは3月くらいのセロリ。
セロリの場合は特定のシーズンしか収穫できないので、その時にはすぐ冷凍しちゃいます。
小粥
どの野菜も1年中穫れるわけではないですもんね。
鳥居さん
そうですね。トマトは1年中とは言わないけど比較的穫れる時期があるので、その時その時で仕入れています。
これも本来ですと、10月下旬くらいから秋のトマトが出始めるんですが、だいぶ早くなってきてますね。(取材時は10月中旬)
一時期は全然入ってこない時もありましたが、10月になったら入ってきた。今年はだいぶ早く入って来ちゃったから今度は終わりが早いかもしれないね。
小粥
生の野菜を使用するっていうことは、そういった原材料の仕入れの管理も必要なんですね。
鳥居さん
そうですね。
野菜は冷凍して保管したりしてます。
工場に冷凍室があるので、一週間分くらいの野菜をそこに入れておいて、それよりももっと先に使うようなものは冷凍庫屋さんに移して、そちらの方で保管してもらうようにしています。
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小粥
トリイソースさんは野菜にこだわりがあるっていうのを伺ったんですが、地元で生産された野菜を使用されている?
鳥居さん
そうですね。
地元で生産された野菜を使用しています。運搬に時間がかからないから新鮮。
野菜っていうものの風味を感じてもらおうとした時に、やはり生の状態から使った方が風味が残るんですよ。科学の世界でいうと「香気成分」っていう香りの成分があると思うんですけど、やはり加熱すると香りというのはどんどん飛んでいってしまうんですよね。
ペーストやパウダーを使用すると前処理の段階で加熱や乾燥をさせてしまうので、香りや風味が失われてしまうんです。
生の野菜の状態からゆっくり時間をかけて加熱をすることで香りや風味をより残すようにしています。
小粥
うんうん。確かにトリイさんのソースは風味が違うなって実感があります。よくジュースとかで、濃縮還元のものとフレッシュジュースって案外違いがわかったりしますよね。それと同じような印象を受けました。
鳥居さん
おっしゃる通りですよね。どうしても加熱して濃縮する工程で失われてしまうものはありますよね。果物とかって繊細な香りだったりするので、あの香りを閉じ込めるのってなかなか難しいことです。
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鳥居さん
こちらは、野菜を煮込んだり完成したソースを瓶詰めしたりするところになります。
小粥
大きな鍋にソースがたっぷり入っていますね。ホースのようなものが見えますが、あれで吸い取っているんですか。
鳥居さん
そうですね。吸い取ったものを別のところで一回受けて、瓶詰めの前にフィルターに通しています。
エアーでシリンダーが動いているのが見えると思うんですけど、そこが瓶詰めの機械。シリンダーのワンストロークで1瓶充填できます。
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小粥
瓶詰めの直前に濾すんですね。
鳥居さん
うちでは、野菜と果物を煮込んだ後、石臼ですり潰してからソースにするので、普通の網目だとほとんど引っかからないところまで細かくなっています。
瓶詰めの直前にフィルターをかますのは最終的な異物混入防止の意味合いが強いかな。
隣にある機械が野菜を煮込むところですね。今は煮込んでないから動いてないけど、この釜は回転釜といって回転させながら煮込んでいきます。
回転釜のところまで石臼を持ってきてその場ですり潰します。
小粥
先ほどの野菜を洗っている様子ですとか瓶詰めの様子を見させていただくと機械が関わる部分ってすごく少ないですね。
みなさんひとつひとつ丁寧に作業なさってる。
鳥居さん
そうですね。まあ、そこが悩ましいところでしてね。
先ほどの野菜の工程でいうと、本当は機械を入れたいんですけども、野菜が規格外ですので形がバラバラなんですよね。
形や大きさが一緒だったらば、“トマトの直径の中心にドリルを当ててヘタを取る”みたいなことができるんですけど、残念ながら形がバラバラなので、いろんな形に対応したり割れや傷の部分をカットしたりすることができるものいうと、人間の手かもしくは高機能の映像解析力を持つロボットですよね。
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鳥居さん
うちの規模からするとそれは手作業になりますし、充填も全自動の機械があるわけですけども、それを導入するには釜が小さかったりロットも少ないので、人手をかけてやるしかない。
これが今後の正解なのかというと悩ましいところではありますが、このロットでやろうとすると、この機械と人間の組み合わせが一応最適解かな。
小粥
なるほど。今の規模を考えた時の最適な人間と機械の組み合わせなんですね。
鳥居さん
人が介在しないところで作るっていうことになった時、今の世の中は人手不足っていう問題があるけど、将来的なことを考えた時に高齢化が過ぎた後は人口はある程度平準化していくと思うんです。
その時には、逆に世の中に人手が余るという状況になってしまうから、ある程度人間が介在する工程は必要なのかな、なんて考えたりもします。
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小粥
従業員さんは今どのくらいいらっしゃるんですか。
鳥居さん
今は17名です。10年前とやり方を変えたんです。
今までは職人さんが一人でずっと作っていたんですが、今はどちらかというとパートタイムの女性が多くなりました。
なるべく仕事を細かくして、それぞれをみんなでやっていくような形。
小粥
ミニ野菜の京丸園さんにも取材させていただいたんですが、「ハイレベルな技術や体力が必要な仕事を細分化してどんな人でも出来るようにした」っておっしゃっていて。いろんな人が就労できるような環境づくりって世の中を幸せにするんだなと。
鳥居さん
平準化された仕事の方が、それを担っていた人が辞めてしまっても、他の人がその人に代わって仕事を回していけるってところはありますよね。
接客業に比べて、製造業はブレイクダウンしやすいっていうのはあります。
うちでは、なるべく仕事を固定化しないように、今日はこれやるけど明日はまた別の仕事をお任せするっていう風にお願いしています。
小粥
ずっと野菜を洗い続けるより、そっちの方が働いていて楽しいですよね。
鳥居さん
工場で働く人たちは、比較的安定を求めてくるので、ずっと同じ仕事の方が心理的には楽だっていう方は多いかも知れませんね。
そういった意味では、パートである彼女たちからするとハードルが高いのかも知れないけど、それでも頑張ってやってくれてます。
でも、逆にいい所もありますよね。彼女たちは好きな時に休めるっていう利点があります。有給も好きな時に使える。
小粥
働く人が働きやすい環境づくりも大事ですよね。
鳥居さん
ええ。そうですね。時代に合わせて働き方も改善できたらと思います。
ここで完成したソースは、熟成木桶の方に移されてさらに熟成していきます。
お次は、その木桶を見にいきましょうか。
よりまろやかに。木桶で寝かせる熟成ソース
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鳥居さん
煮込みが完成したソースは、ホースで繋がれて木桶に移されます。ソースの入った木桶はこの部屋に移され、しばらく寝かされます。
新型コロナウィルスが流行した時に、作り方を全部見直してこの小さな木桶を導入しました。
小さな容器にしたことですごく生産性が上がったんですよ。
小粥
ということは、以前はここにもっと大きな桶があった?
鳥居さん
4倍くらいの大きさの木桶がありました。今の桶は釜一杯分くらいの容量です。
それの4倍あるってことで4回分を煮込まないと満杯にならないので、大きな木桶の時は途中途中で継ぎ足ししていくような形でした。
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鳥居さん
ここでは何をしているかというと、静かに寝かして上澄み液と下の固形分の分離を促進するという工程なんですよね。
継ぎ足すとその都度かき混ぜちゃうことになって撹拌されちゃうんですよね。そこの部分が問題でした。
小粥
限られた材料で少しづつ作っていくことを考えた時にこちらの方が効率がいいですよね。
鳥居さん
そうですね。
1ヶ月から2ヶ月の間ここで寝かせておいています。
小粥
この中の室温などは決まっていますか。
鳥居さん
昔はそういうコントロールをしようと思っていましたが、今はどちらかというと、そこまで神経質にならないような作り方に変えました。
小粥
では、熟成度合いは寝かせる日数とかで調整しているんですか。
鳥居さん
僕らの方ではそこまで細かい設定はしてないですね。
でも、おっしゃる通りで蒸発の度合いとかで熟成具合に違いが出てくるので、ボトルに入れる時の糖度で熟成具合を確認しています。
基本、この真っ暗の部屋の中の温度っていうのは、四季の中では当然変わりますが、日中はなるべくずっと同じような温度をキープするようにはしています。
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小粥
コロナ禍で工程の見直しをなさったとおっしゃっていましたが、コロナ禍でソースの消費量は全国的に減ったんですか。
鳥居さん
そこに関してはどうだろうな…。
結局、コロナ禍であっても人間が3食食べるのは変わりないから。
ただ、どこで食べるかっていうのがコロナ禍では圧倒的に自宅になりましたよね。
スーパーで買ったソースの量は増えたけどお店屋さんで使われたソースの量は落ちるってことで、トータルで言うとそんなに変わらないかな。
小粥
確かにそうですね。活躍シーンの場所は変わっても頻度自体は変わらないのか。
関西の方では、辛味の強い「どろソース」っていうのがあるんですよね。桶の下に溜まるものがどろソース?
鳥居さん
おっしゃる通りです。どろソースができるっていうのは、ある程度熟成してるっていう証みたいなもの。
そういった意味では、うちのソースもちゃんと熟成してるよって言えます。
小粥
トリイさんではどろソースの販売はしていますか。
鳥居さん
以前は販売していませんでしたが、この木桶を導入する手前ぐらいの時期から「桶底のちから」っていう商品名で商品化しました。
今は「桶底ソース」っていう名前で販売していますよ。
それまではどろソースの収量がうまく安定しなかったのですが、この木桶にしたことで確実に泥が形成されるようになりました。
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小粥
ソースの種類っていろいろありますよね。一般的には、ウスターとか中濃、濃厚、お好みに、とんかつ…。
どんな違いがあるんでしょう。
鳥居さん
うちにもウスターソース、中濃ソース、完熟ソースなどがありますが、基本ここで作られているのは全部ウスターソースです。
ウスターソースにプラスでいろんなものを合わせていくんです。ここから色々枝分かれしていくイメージですね。
ただ、完熟ソースはウスターソースは使わずに釜ですぐに作って出来上がっちゃう。りんごとトマトがたくさん入っているんですが、即席ソースみたいなフレッシュな風味のソースになります。
小粥
ウスターソースはシャバシャバした感じですよね。
中濃ソースはとろみがあって揚げ物なんかにのせやすい。中濃は、かけるっていうか、“のせる”って感じ。
鳥居さん
木桶に溜まった上澄み液は、再度窯に戻してウスターソースとして仕上げます。
中濃は出来上がったウスターソースにさらにフルーツを加えたり、とろみをつけるために米粉を入れて、デンプンでドロッとした感じを出したりしていますね。
小粥
ウスターソース、中濃ソースは別物だと思いがちだけどベースは同じものなんですね。
ソースの隠し味 自社製造のお酢
鳥居さん
僕らは自分たちのソースに入れるお酢も自社で製造しています。
酸味はソースに欠かせない存在ですから。
実はソースの他にも、万能合せ酢やポン酢も商品として販売していますね。
小粥
確かにソースって酸味がアクセントになっていますね。
濃厚なソースでも揚げ物をさっぱり美味しくいただけるのは、ソースに含まれたお酢のおかげなんですね。
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鳥居さん
ここはお酢の醸造工場。タンクに出来上がったお酢を入れて、ここで寝かしています。
このお酢を作るにあたっての材料なんですが、こちらにあるのは何か見てわかりますかね。
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小粥
花とか国って書いてありますね。うーん、お酒かな?
鳥居さん
そうです!これは酒粕になります。
酒粕を寝かせていて、だんだん色が着いてきている状態ですね。
![](https://assets.st-note.com/img/1705919141504-oJHxpfFpFk.jpg?width=1200)
小粥
元々は白い?
鳥居さん
そう、元々は白でした。
一年とか半年とか、だんだん時間が経つにつれお味噌みたいな感じになっていきます。
酒粕は酒蔵からいただいてくるんですが、花っていうのは…。
小粥
「花の舞」さん!
鳥居さん
その通り!国っていうのは「國香」さんですね。
小粥
地元の酒蔵さんだ。
鳥居さん
酒粕は、お酢を作るための酢酸菌の栄養分ですね。
小粥
なるほど。お米を麹菌によって分解したものを絞ってお酒にして、今度は絞って残った酒粕を酢酸菌がお酢にしてしまうということですね。余すところなしですね。
鳥居さん
酒粕には若干のアルコール分と窒素が多く含まれています。
窒素源ていうのは酢酸菌からすると生きる活力みたいなものなんですよね。
酢酸菌からすれば、アルコールと窒素源があればどんどん増えていける。
こちらは酢酸を発酵しているところになります。
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小粥
うお!香りがすごい!
鳥居さん
ちょっと匂いがきついかもしれませんね。
小粥
確かにツンとはくるんですけど、想像してたよりはまろやかな感じがします。
鳥居さん
これが酢酸菌の菌膜です。表面に膜が張ってる状態が酢酸発酵している状態です。
これが膜が張らなくなる、膜が破れて菌がストンと落ちてくる、そうなったら発酵終了です。
うちの方だと、だいたい1ヶ月くらいで発酵終了かな。
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小粥
これ、膜の下は液体ですよね?
鳥居さん
液体です。
小粥
はじめに、液体に酢酸菌をちょこんと入れるんですか。
鳥居さん
いや、入れない。これは大体900リッターぐらいのタンクで、発酵が終わるとここにお酢が出来上がってきます。
出来上がったこのうちの半分を、向こうにある出来上がりを保存するためのタンクに移して、もう半分は種菌というか種酢という形でこのタンクに残しておくんです。
そこにまたお酒を入れてやることでまたお酢を作っていくんです。
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鳥居さん
彼ら酢酸菌は、酸素とアルコールを消費していくので液体の一番表面のところに陣取ると都合がいいんだよね。
アルコールって水より軽いから上のほうに来るんですね。酢酸菌は、表面のところにいれば、アルコールと酸素がちょうど両方同時に得られるっていうので膜を張る。アルコールがある限りは、表面に陣取って一番いいポジションをキープするんですけど、全部アルコールを食べ尽くしちゃうともう表面にいる理由がなくなって、そうなると膜を張るのをやめて眠りに入ってストンと下に落ちてく。
小粥
へ〜、面白い!
鳥居さん
何も食べるものないから寝よう〜って。
小粥
ずっと同じ酢酸菌にお世話になっているというか、同じ種菌で回しているんですね。
鳥居さん
そうですね。そういった意味で大手さんとは違って純粋な酢酸菌っていうよりかは、この自然界の、この中にある酢酸菌が結集しているのでハイブリットといったらハイブリットになっているかもしれないです。
小粥
酢酸菌によっても好き嫌いがあると思うんですよね。
もしかしたら、酒粕によってとか、この気温によってとか、この場所の環境に合っている酢酸菌たちが生き残ってるってことですよね。
鳥居さん
一番最適なものが残っているのかも知れませんね。適者生存ですよね。
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鳥居さん
発酵用のタンクで1ヶ月発酵させて、発酵したらその中身を半分だけ出来上がり用のタンクに移してもう1ヶ月間寝かせます。
寝かせたことで酸が落ち着いてくるので、落ち着いたところでこれを濾過殺菌してお酢というものの出来上がり。
出来上がったお酢は一部はソースの原料とかに使われるし、一部はポン酢や寿司酢などの調味酢のほうに回るって感じですね。
小粥
ソースを製造されているところで、お酢から作るっていうのは珍しいことなんでしょうか。
鳥居さん
そうですね、珍しいところだったりはします。
意外に思われる方も多いですけど、オタフクソースさんなんかは元々お酢屋さんなので、今でもソースとお酢を作ってますね。
それ以外のところでお酢から作っているっていうのは今のところないかな。
小粥
そんな珍しいことなんだ。創業時からお酢も作ってきたんでしょうか?
鳥居さん
いえ。これは先代の時に地元のお酢屋さんが辞められるにあたって、うちの方に道具とかいろんなものを引き継いだんです。
悲しいかな、昔はお酢屋さんって醤油屋さんと同じように各地域に一軒ぐらいはあったんです。だけど、お酢屋さんがお酢屋さんとしてやっていけなくなっちゃったっていうのが現実。お酢を作っていらっしゃるところって、まずはお酒から作るので。
お酒を作ってからお酢にするので、本当いうとお酢ってお酒よりも高くないとおかしいんですよね、理屈的には。
小粥
なるほど。工程的にはそうですよね。
鳥居さん
お酢はお酒からしかできないからお酒ありきなんですけど、お酢自体がミツカンさんとか大手さんの努力でものすごく安くできるようになった。
それと手作りでやっているところのお酢の違いがどこまでわかるかっていうと厳しいですね。お酢屋さんはだいぶ潰れちゃって、残っているのは静岡県では、静岡と清水とうちの3軒。僕らからすればソースっていう需要があるのでお酢を作っていられるけど、お酢だけでやっていけるかというとなかなか厳しいところがありますね。
地元密着 地域に根ざす存在に
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小粥
ソース作りを始められたきっかけやタイミングはどういったところだったんでしょうか。
鳥居さん
うちが創業したのが大正13年のことになります。その当時、ソースがどんなものだったか。
ソースっていうものは調味料なので、“何か”につけたりとか、“何か”に味として入れたりするものですよね。
その“何か”っていうのが、いわゆる洋食といわれるものだったりします。
鳥居さん
今であれば普通なんですけど、例えば、カレーライスであったりとかハンバーグだったりとか、ああいった料理は明治の頃はとてもハイカラなものであったと。そういった洋食というものが、東京、大阪、神戸などのいわゆる都会であり、外国人が多い地域で食べられるようになっていきました。
洋食っていうものがだんだん広まってくるとそれに合わせて、その中で使われる材料としてのソースが広まるようになったんですね。
小粥
なるほど。洋食の普及に伴ってソースの需要が生まれるようになっていったんですね。
鳥居さん
洋食屋さんがどれだけその地域に生まれ、普及しているのかというのが、僕らソース屋のトリガーみたいなものだったりします。
大正時代になってきて洋食屋さんというものが徐々に地方にも広がって来て、この浜松にも出来てきた。その結果として、浜松にソースの需要が初めて生まれてきたんですね。そういう背景があって、先先代の時に洋食屋さんとのご縁をいただいたことでソース作りが始まったと聞いております。
小粥
先先代が創業者…ということは、鳥居さんは3代目?
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鳥居さん
そうですね。私で3代目になります。
明治とか大正時代って、ほとんどの人が農業に従事していましたよね。
農家でいうと、長男が家督を継ぐと、次男三男は別の食いぶちを探さなくてはいけないっていう事情があったりしました。
うちの場合は、祖父が次男だったものですから。
その時は、三方原台地の方で大根なんかを作っていたそうです。
うちの会社からもう少し行ったところに中島市場っていう市場があるんですけど、その市場にたくあんを卸していたみたいです。
たくあんを卸しにいく中でいろんな方と、おそらく食品関係の方と交流するようになっていき、そこで新しい調味料であるソースというものと出会ったんだろうと聞いています。
小粥
地元野菜を作っていた家に生まれた方が、その野菜を加工して売るようになり、市場で出会った人との繋がりの中でソースを作り始めたっていうことか。
その経緯は初めて知りました。
ソースの原料は野菜ですもんね、いろんな野菜を仕入れるツテもあったんでしょうね。面白いですね。
鳥居さん
なかなかそこまで話すこともないですからね。
現代でもそうですが、当時の人に馴染み深い調味料といえば醤油ですよね。本来はソースは野菜からできているものなんですが、人々に親しみを持ってもらうために醤油に近い色にしたんじゃないかなと僕の個人的な意見ですけど、感じておりますね。
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小粥
トリイソースさんは、ソースの原材料の野菜であったり、お酢の原材料の酒粕も地元産。その他にも、浜松産のハバネロを使ったハバネロソースや、地元産のみかんを使ったポン酢なんかもありましたね。
地産地消の取り組みが素晴らしいなと思います。
鳥居さん
そうですね。先先代の創業した当時は、今みたいにそんなに物流も発達しているわけではないので近場で取れるもので作るしかないっていう時代。
先代の昭和の頃の経済成長期の時は、いろんな原材料や食材が手に入るようになってきた。現代では、物流も発達してどこからでも手に入って誰でもどんなものでも作れちゃうので差別化ができなくなっちゃったんですよね。そこで先代から私の代になった時に、またその創業者の代に戻ったような形。
原材料を地元産にシフトしていったという流れがあります。
小粥
なるほど。地産地消は当時としては当たり前だったので意識的にやっていたわけではなくて現状から生まれたものだったと。結果的には、地球環境や地域の経済に良かった。
鳥居さん
高度経済成長期っていうのは人口が増えている時なので、作れば必ず売れるっていう時代だったのに対して、バブルが弾けてからは人口は減少傾向にあるので、市場のパイっていうのはどんどん狭まっていっちゃうんですね。
狭まっていく中だと、ただ作れば売れるっていう時代はもう終わってしまったので、どうすれば売れるかなっていう要素のひとつというのがおそらく地産地消という考え方。
小粥
SDGSって言われる世の中で、地産地消の価値っていうのがようやくひとつのブランドといいますか、消費者が選ぶポイントの一つになりましたね。
もちろん、美味しいっていうのが大きいとは思いますが。
鳥居さん
僕らが地産地消にする価値は、やっぱりソースの風味に必要な新鮮な生の野菜を使うためっていうところかな。
今は、“2024年問題”といって、物流のドライバー不足の関係で物を遠くから運ぼうとするときのコストっていうのがより高くなってきていますよね。
今まではいわゆる巨大な生産地で作って大量生産してそれを物流網を使ってコールドチェーン(※)で供給するっていうのがメジャーですよね。
(※コールドチェーン…食品や医薬品の運搬時に低温を保ったまま流通させる仕組みのこと。)
鳥居さん
北海道であったり九州などの巨大な生産地に比べると、静岡のような小さなエリアで作るには価格競争力が弱かったところがあるんですが、これからはガソリン代高騰や人材不足もあって物流コストが増えてきますので、今後はもしかしたら地産地消っていうのが当たり前になっていくような時代なのかなとも思っています。
小粥
なるほど。そういった社会全体の動きも関係しているんですね。
三代目になってから商品開発を盛んに行っていますよね。
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鳥居さん
そうですね。先代の時は、BtoB、いわゆる企業間取引がメインでした。
かつて、浜松には繊維工場もたくさんありましたので、そちらの工場の食堂にソースを収めていたんですよ。
バブルが弾けてからは、工場も閉鎖されてそういうビジネスモデルでは厳しくなっていったので、直接お客さんと触れ合うような形になっていかないといけないよね、一般消費者の方々に向けて商品を作ろうという風になっていったんですね。
小粥
開発はどのように行うのでしょうか。開発部の方々がいらっしゃる?
鳥居さん
開発をする会議みたいなのがあって、そこで色々アイディアを出していきます。そんなに僕らのやっていることって奇想天外なことをやっているわけではなくて、タイミングタイミングで「こんなものがあればいいな」って世の中にあるものを一つ一つ増やしていってるイメージ。
今で言えば、遠鉄百貨店でハンバーグソースっていうのを出してるんですが、遠鉄百貨店さんの方でなんか新しい商品作りましょうよってお話をいただいて。
鳥居さん
遠鉄百貨店さんのお惣菜やお弁当でソースなどを使うっていう条件で、「どんなお弁当が一番よく売れるの」って聞いたら、「煮込みハンバーグが安定的に売れます」とのことだったので、じゃあ煮込みハンバーグ用のソースを作りましょうとなりました。
そんな感じで全くゼロからアイディアを出したっていうよりかは、お客さんにある程度ヒントをいただいてそれで作っていくって感じですよね。
小粥
美味しいからコラボしたいってみんな思いますよね。
コラボといえば、杏林堂の柿の種(※)がなかなか買えなくて(笑)
(※「本当においしいトリイソース柿の種」杏林堂限定の商品)
鳥居さん
そうですよね。
なかなか私も買えないです(笑)
小粥
あれはどうやって生まれたんですか。
鳥居さん
あれはお恥ずかしい話、杏林堂さんの方で進めてくださって。「実はこういうものをトリイさんのソースを使って作ってみたんですけど、これ出してもいいですか」と。それで、「もし、やるんだったらうちの方でももうちょっと。」と多少の修正をさせてもらってそれでやらせてもらったんですね。
小粥
そんな裏話があったんですね。他のメーカーからコラボしたいって依頼が来るのがすごいですよね。
まあ、良い商品とコラボしたいのは当たり前と言ったら当たり前なんですが。
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鳥居さん
絶対的な美味しさっていうより、ある程度のおいしさを担保するのが大事なのかなと。
今のところはそのバランスはうまくいってると思います。
ただ、原材料などの値上げが起きた時にどうするのっていうところ。こだわってやるのはいいんだけど、こだわってやったことによって果たして…ってところですね。
小粥
う〜ん、そこのバランスですよね。
鳥居さん
こだわりを貫いて価格が上がってしまった時に、“東京の人は買えますけど地域の人は買えますか?”っていう。
それを僕らは突きつけられてて、無闇に値上げして地元の人が買えないものになっちゃった時に、「これで本当にいいのか」っていうところ。
僕らは調味料屋なので、あんまり値段を高くして、都会でしか売ってないメーカーになるのはあんまり長続きしないかなって。
小粥
浜松に暮らす人にとってありがたい存在ですよね。
地元民としてはとても心強いです。トリイソースさんのように、地元を大事にしてくれる企業がいるっていうのは。
いつも美味しいソースを届けてくださってありがとうございます!
取材を終えて
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地元のことを考えてくれる企業さんって本当に地元民にとってはありがたい存在ですよね。
美味しさもさることながら、だからこそ、愛される存在として100年近く続いているんだなと感じました。
ソースが野菜から作られているというのは知っていましたが、トリイソースさんのソースはかなり長い期間をかけて丁寧に作られているんだなと気付かされました。
ソースに入れるお酢を自社製で作るってすごいこだわりですよね。それに、お酢を作るのがあんなに大変だなんて知りませんでした。ソース屋さんがお酢まで作っているところも珍しいとのことで、そんなこだわりの美味しいソースがいつでもどこでも買えるなんて、地元民としてなんだか誇らしくなりますね。
取材中に小粥が「小粥家では、贈答品を贈る時には度々トリイソースさんのギフトセットを購入している」とぽろっと呟いていましたが、本当におすすめですよ!きっと喜んでもらえると思います。工場には直売所もありますので、ぜひ一度買いに行ってみてくださいね。
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さて、今回の小粥執筆記事の研究テーマはお酢を作るのに欠かせない「酢酸菌」。
ミクロの世界からその不思議な生態に迫ります。肉眼では白い膜のようにしか見えなかった酢酸菌ですが、電子顕微鏡を通すとどんな姿を見ることができるのでしょうか。
また、鳥居さんからはこんな意見もいただきました。
鳥居さん
うちは石臼を使っているんですけど、石臼のメーカーさんが「ミキサーは刃で野菜をカットして細かくしていく。カッターで切ったものは実は四角なんですよ。石臼ですりつぶすと丸くなる、球状になるのでまろやかな感じになるんです。」とおっしゃられていて。
私どもが使っている機械はチョコレート会社さんも使用しているみたいで、石臼ですり潰すとチョコレートも口溶けがまろやかになるんですって。電子顕微鏡で、石臼とミキサーで処理した時の違いなんかがわかったら面白いなあと思うんですが。
「すり潰す」のと「細かく刻む」のでは、処理後にどんな違いがあるんでしょうか。こちらも面白い観察結果が生まれそうですね。
小粥による解説記事もぜひ読んでみてくださいね(後日公開予定)。
トリイソースの美味しさの秘訣がさらに明らかになってしまうかもしれませんよ!
◆ 取材協力
鳥居食品株式会社
◆ 記事執筆
黒川夏希(ウィスカーデザイン)
自然観察園の整備活動や、生き物観察に必要な物の購入に充てさせていただきます。ご支援のほど、よろしくお願いいたします。