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館長さんと巡る浜松市楽器博物館【浜松ミクロ散歩「楽器」前編】

「浜松のことをもっとよく知りたい!」
好奇心旺盛なスタッフが浜松科学館を飛び出して、浜松各地を訪問。
訪問先で出会った方々とふれあい、こだわりの商品などを科学館にある電子顕微鏡で観察して、ミクロから浜松を探っていく企画です。

浜松といえば、ヤマハ、カワイ、ローランドといった世界的に有名な楽器メーカーの発祥の地。浜松市では、市を挙げて音楽のまちづくりを行なっており、現在では「音楽の都」を目指して更なる取り組みが行われています。

今回訪れたのは、そんな音楽のまちづくりの根幹を担う「浜松市楽器博物館」。

音楽をテーマとし、古今東西の楽器の蒐集・展示を行う博物館で、実は日本で唯一の公立楽器博物館でもあるんですよ。
浜松市内の学生ならば一度は校外学習や遠足などで訪れたことがありますよね。
音楽好きならば一度は行くべしとマニアも太鼓判を押す当館には、全国から多くの観光客が訪れます。
館長を務める鶴田さんに館内をご案内いただきながらお話を伺ってまいりました。

鶴田さん

全国でも珍しい楽器の博物館

小粥
広い展示室にたくさんの楽器が展示されていますね。浜松市楽器博物館には何種類くらいの楽器があるんでしょうか。

鶴田さん
世界中から3,300点の楽器を集めていて、展示されているのがそのうちの1,500点になります。
企画展を開催したり展示品を入れ替えたりして、なるべく多くのお客様に楽しんでいただけるようにと思っております。

小粥
楽器をテーマにした博物館って珍しいイメージがあるんですが、ここ以外にもいくつかあるんですか。

鶴田さん
大学附属の楽器博物館ですとか、民間さんがやっているコンパクトなものはあるんですけど、これだけの大きな規模で、そして、公立の博物館は全国でここだけです。

小粥
公立の楽器博物館はここにしかないんだ。浜松市は楽器産業が盛んですもんね。

鶴田さん
そうですね、やはり世界の楽器産業を扱っているという浜松市ですので。
ちょうど今から、約30年前の1995年にオープンしました。

小粥
1995年というと…、私が浜松出身で87年生まれなのでちょうど小学校に入るぐらいにできたわけですね。

鶴田さん
じゃあ、(校外学習で)きてるね。

小粥
きてます、きてます。もう何度もお世話になってますよ。
音楽のまちづくりというところで博物館開設のお話がスタートしたんでしょうか。

鶴田さん
30年ほど前の浜松市は、もともと「楽器のまち」っていうイメージだったんですね。
当時の浜松市長が「楽器のまちから音楽のまちへ」という政策の中で、アクトシティや楽器博物館の開設を進めて、現在のようなかたちに広がっていったんです。

小粥
楽器を作るだけじゃなくて、市民含め浜松を訪れるみなさんに音楽を楽しんでもらえるようにと発展していったんですね。

鶴田さん
当館では、楽器を通じて音楽文化や、音楽を通して世界の人々の生活や歴史などを紹介しています。
ですので、展示も楽器をただ置いてあるだけじゃなくて、なるべく演奏できる状態にメンテナンスをしています。
また、演奏会やワークショップを行ったりなど音楽と楽器を使って、他にはない“生きた”博物館を目指しています。

小粥
そういえば先日、プライベートで楽器博物館にお邪魔したときに東南アジア系の楽器を学芸員さんが演奏しながら説明をするワークショップをしていて、とても素晴らしいなって思いました。実際の演奏を見ることで皆さんの興味関心が沸きたってましたね。

鶴田さん
世界は広いですから、みなさん何かしら興味を持たれるところはあるんじゃないかな。
音楽の授業で習ってることって意外とヨーロッパが主体なんですよね。
ヨーロッパって地球規模で見るとほんのちょっとのところ。
来館した方々には学校の授業だけでなく、当館でこの広い世界にはこれだけのいろんな音楽や文化があるんだよって学んでもらえたら嬉しいです。
子供達もいろんな文化に触れることで刺激になっているんじゃないかなって思います。

小粥
本日は平日ということもあって、たくさんの子供たちが見受けられますが、やはり校外学習で利用される方は多いですか。

鶴田さん
そうですね。コロナ禍では静岡県内で修学旅行をする方たちもいらしゃったり、そういったことで利用される方は多いかもしれませんね。でも、子供たち人気は科学館に比べたらどうかな…(笑)
展示は少し大人向けのものが多いかもしれませんね。もちろん、体験コーナーなど触って遊ぶ展示もあります。

小粥
博物館ですから、美しい楽器を鑑賞するという楽しみの方が大きいのかもしれませんね。先ほどから子供達が展示の備え付けヘッドフォンで音を聞いていますね。音楽だから「聴く」という体験も大事ですよね。

楽器の音色を聴くことができる備え付けヘッドフォン

鶴田さん
そうですね。イヤホンガイドもありますし、楽器の音色が聴けるヘッドフォンも備えつけてあります。
展示では常に楽器の紹介動画も流れていますし、上に設置してあるスピーカーから音のシャワーも楽しんでいただけます。
展示されているこの楽器はどんな音がするのかなというのを、聴覚を通して体験できるようになっています。

これは楽器なの?という珍しい楽器も演奏シーンを見ることで理解が深まる

小粥
演奏してる様子も動画で見ることができるんですね。
ちなみに、世界各国の楽器が4つのエリアに分かれて展示されているということですが、鶴田館長のお気に入りの楽器はありますか。

鶴田さん
ここで個人的に面白いなと思うのは、第4展示室の電子楽器フロアにあるテルミンです。
テルミンの名は知ってても実物を見たことある方って少ないんですよね。

小粥
一時期、テルミンがテレビなどのメディアで頻繁に取り上げられていた時期があったような…。

鶴田さん
触らずに演奏できるので、コロナ禍で一番活躍できた楽器という(笑)
他の楽器に比べるとすごく特殊な楽器なんですけど、実は実用的な電子楽器の第一号なんですよね。

小粥
実用的な電子楽器の第一号と言いますと?

テルミン

鶴田さん
どういうことかというと、テルミンがあったからこそ今の電子楽器があるんですよ。
電子楽器の走りといってもいいものなんですね。
このテルミンを参考にして「オンド・マルトノ」ができ、その後「ハモンドオルガン」というのが登場してくることになりました。この後、日本国内でも電子楽器が作られるようになり、現代の電子楽器へと発展していったんですよね。
テルミンの発明が1920年のことなので、まだ100年ちょっとしか経ってないんです。

小粥
ちょうど100年ちょっと前の出来事だ。

鶴田さん
人類10万年の歴史に楽器があるとしたら、この100年ちょっとってすごい最近のことですよね。だけど、これだけ需要がある電子楽器の誕生にテルミンは重要なポジションを占めている。

小粥
鶴田館長は以前、浜松科学館の館長も務められていたとお聞きしていますが、やはり科学分野にも興味をお持ちですね。

鶴田さん
あはは、バレました?(笑)工学系の仕組みには興味がありますね。
これも周波数帯の違いによって音が変わるので科学ですよね。
アナログの楽器の世界ももちろん面白いですが、これだけ電子楽器の種類が登場してくるとすごい面白いですよね。
進化というか、よくこんなこと考えるなって。

小粥
浜松で電子楽器というとローランドがあったりと身近な存在ではありますが、その電子楽器自体の始まりを生んだのがこのテルミンなんですね。

振動が音になる、弦楽器の造りや素材の世界

小粥
楽器を電子顕微鏡で見てみたいんですけど、流石に楽器丸ごとは機械の中に入らないので、弦とか弓とかそういう楽器を構成する部品に着目するのはどうかなって考えているんですが…。そういったもので演奏する楽器をいくつかご紹介いただけますでしょうか。

鶴田さん
なるほど。であれば、有名な楽器で馬頭琴なんかどうでしょう。
馬頭琴は小学校の時に「スーホーの白い馬」っていう教材で登場することもあって、大人も子供も知っているんですよね。

小粥
確かに。馬頭琴自体はメジャーな楽器というわけではないけど、みなさん大体は知ってますね。
ですが、実際に実物を見たことある人って少ないんじゃないかな。

鶴田さん
ええ、そうだと思います。
ですが、浜松市楽器博物館では体験ルームに馬頭琴が置いてあるので、実際に演奏することができますよ。ここは展示エリアの馬頭琴。

展示エリアでは歴史ある貴重な楽器を鑑賞できる

小粥
いろんな種類がありますね。ものによって形もさまざまだ。

鶴田さん
もともと馬頭琴は、シャナガンホールという弦楽器から生まれたものなんですよね。
シャナガンとは杓子、大きなスプーンのこと。
馬頭琴の先祖というべき、モンゴルの古い楽器です。

大きなスプーンのような形のシャナガンホール

小粥
シャナガンホールのヘッドの部分の彫刻は馬というより竜みたいですね。

鶴田さん
ええ。隣にはアヒルもいますよ。
モンゴルの人たちというのは騎馬民族ですので、いろんな家畜がいる中で馬を一番大事にしていたんです。
そういった背景もあって、大体が馬の彫刻をあしらった馬頭琴に集約されていくんですよね。

鶴田さん
昔は、弓の弦も本体の弦も馬の尻尾を使って作られていました。
弓の方は今でも馬の毛ですが、現在は本体の方の弦はナイロン弦が用いられています。

小粥
なるほど。でも、今でも弓は馬の毛なんですね。
世界各国でも、バイオリンやチェロなどの楽器で馬の毛が使われるのはなぜでしょうね。
馬ってどこの国でも一緒に暮らしているから身近な素材なんでしょうか。

鶴田さん
そうかもしれませんね。後は長さが長いから。
なかなか馬の尻尾のようにあそこまでロングな毛をもってる動物はいないからね。

小粥
あ〜、そうかそうか。牛にはあんなに長い毛はないですもんね。
馬頭琴の弓ってバイオリンなどと同じように松ヤニは塗るんですか。

鶴田さん
塗ります。馬頭琴の弓はバイオリンとかチェロとかと同じ様なものです。

小粥
そうなんですか。そういえば、バイオリンの弓について面白い論争があったみたいです。
バイオリンの弓が音を奏でられるのは、「馬の毛のキューティクルの凸凹で音が鳴る」説と「松ヤニを塗るからその凹凸で音が鳴る」説という論争(笑)
今は松ヤニを塗るからだという説明が主流みたいですね。

鶴田さん
面白いね。そんな論争があったんですね。
別にいいのにね、どっちかの説に絞らなくても(笑)

小粥
なんで弓の方はナイロンを使わないんですかね。松ヤニを塗れば…?
ナイロンだと松ヤニの乗りが悪いのかな。

鶴田さん
それはわからないなあ。
耐久性や音域なども加味して本体にはナイロン弦を使っているみたいだけど、確かに弓の方にはナイロンは使わないね。ナイロンでは代替ができないのかもしれませんね。

小粥
試しに松ヤニを買ってきてナイロンにも塗ってみようかな。
ナイロンと馬の毛で何かが違うかもしれない。ナイロン同士だとツルツルして滑っちゃうのかな。

鶴田さん
その違いを見るのは面白いかもしれませんね。
松ヤニを塗るとなんで摩擦が増えるのかっていうのが顕微鏡ならわかるかも。
奏者も気になると思います。見たことないと思うから。
何かしら秘密がありそうですね。

小粥
顕微鏡で見るのが楽しみになってきました!
他にも弦楽器はありますか。

鶴田さん
そうですね。弦楽器って世界中にたくさんありますけど、せっかくだから身近なところで日本の三味線はどうでしょう。

鶴田さん
三味線は、中国のサンシェン(三弦)がもともとの先祖だと言われています。
サンシェン(三弦)が沖縄に伝わって三線(さんしん)になった。

小粥
なるほど3つの弦でサンシェン。
サンシェン(三弦)、三線(さんしん)、三味線(しゃみせん)になっていったんですね。
(キャプションの字面を見て)… “味” がどこかで加わったみたい(笑)
三味線って沖縄経由で伝わったんですね。知らなかった。

鶴田さん
安土桃山時代に、堺市(大阪府)に伝わって三味線になったと言われています。
三味線は、邦楽器の中では比較的新しい楽器で、華開いたのが江戸時代。
もともと琵琶法師と呼ばれていた方たちが琵琶から三味線に持ち替えていったことから広まっていったそうです。
だから、バチも琵琶と同じような形ですよね。

鶴田さん
サンシェンと三線のボディにはヘビ皮が使われていますが、三味線は猫とか犬が使われています。
理由は、蛇がそんなに獲れなかったからだとか、琵琶と同じようなバチを使って演奏するので蛇皮だとすぐボロボロになっちゃうから、など諸説あります。

サンシェンと三線はヘビ皮

小粥
確かに三味線だとかなりサイズの大きい蛇じゃないと無理ですね。

鶴田さん
まあ、沖縄だったら大きなヘビが獲れるのかっていうと実は獲れません。
沖縄もニシキヘビの皮を輸入して使用しています。

小粥
そうですよね、ハブはいますけどこんなに大きくないですもんね。
三味線は、今も犬とか猫の皮が使われているんですか。

鶴田さん
使われているものもあるんですが、やっぱり最近は問題になってきているので代替えになってきています。
カンガルー皮だったり、あとは和紙、人工の皮もありますね。

さわることのできる素材の展示

小粥
なるほど。(素材を触ってみて)皮をなめすと紙のような質感になるんですね。
カンガルー皮が使われるのは正直驚いたなあ。

鶴田さん
それから、三味線は大きく分けて、「細棹」「中棹」「太棹」と種類があります。

小粥
造り自体が違うんですか。

鶴田さん
違いますね。棹の長さや太さが違います。
音色も違って、太棹の津軽三味線は音も太くて力強かったり、お座敷の長唄で伴奏する細棹は高音が美しく華やかな音色です。
使用する弦の太さもそれぞれジャンルによって違うんですよ。

鶴田さん
三味線は、一の糸、二の糸、三の糸とあって、一の糸(弦)が一番太い。
弦はシルク弦が使われていました。琵琶なんかも同じようにシルク弦が使われていたんですよ。現在ではナイロン弦、テトロン(※)弦も出てきています。
(※テトロン…ポリエステル繊維の一種)

鶴田さん
細い弦は絹だと切れやすいこともあり、一の糸、二の糸はシルク、三の糸のみナイロンなど、ジャンルや奏者によって選ぶ組み合わせが違うそうです。
おそらく練習用はナイロンを使っていると思います。シルクは伸びやすいので調弦が大変みたいですね。

触って太さを確かめる

小粥
弦にも触れるんですか。
へ〜、種類によって糸の太さが結構違いますね。
触れる展示が多くてわかりやすいですね。こだわりが伝わってくる。

鶴田さん
太さも低音用から高音用で変わってきますね。
やはり、触ってなんぼですよね。
では、最後にメジャーなところでピアノとギターも見てみましょうか。

小粥
ギターは弦楽器の中ではすごくメジャーですね。
言われてみると、ピアノも弦を叩いて音を出す楽器ですもんね。

鶴田さん
ギターは昔は全部ガット弦を使っていました。
ガット弦というのは羊の腸を素材にした弦のこと。
昔のバイオリンもガット弦を使用していて、現在でも昔のバイオリンを使っている人はあえてガット弦を使っていることもありますよ。

小粥
馬の毛の他に手に入る長細い素材というと羊の腸になるんですね。

鶴田さん
展示品の中には、ガット弦が張ってあるものもあります。
現在、一般的に多いのはスチールやナイロンですね。
素材によっても音色は変わってくるでしょうね。

小粥
ギターもそうですが、ピアノも低音高音では全然弦の太さが違いますね。
というか、造りが違う。
太い方はコイルで巻いてありますもんね。
それに、モダンピアノは太いのと細いのが重なるように交差して張ってあるんですね。

交差して張られるピアノの弦

鶴田さん
最近では交差方式がほとんどですね。昔のピアノは平行弦になってるんですよ。
交差方式の一番の利点は場所を取らないこと。
ピアノも進化する過程でどんどん大きくなっていったので、スペースがね。

小粥
なるほど。省スペースは助かりますね。
小さい方が運びやすいし。

鶴田さん
でも平行弦は平行弦で良さがあって、弦同士がクロスしてない分、音が濁らないんですよ。
上と下で共鳴しないのでね。

小粥
なるほど。弦の張り方による音の違いもあるんですね。

鶴田さん
昔は鉄製のアイロン弦が主流でしたが、今はスチール製が多いですね。

小粥
鉄の場合だと錆びやすいからメンテナンスが大変そうですね。
ピアノの弦を河合楽器さんからご提供いただいたんですが、低音弦の太さに驚きました。

ピアノの弦を電子顕微鏡で観察してみた

鶴田さん
芯線に金属の巻線がぐるぐるっと巻きついているんですよね。
ギターの低音の弦も金属製のものは巻き弦になっているものがありますよ。
巻き弦も顕微鏡で見たら面白いかもしれないね。

体験コーナーで楽器に触ってみよう

鶴田さん
こちらが体験ルームです。いろんな楽器を演奏していただくことができますよ。

小粥
ここのコーナーは賑やかですね!
馬頭琴をちょっと演奏してみたいなあ。

鶴田さん
では、馬頭琴の体験コーナーに行きましょうか。

教えていただいた

小粥
本体の弦は2本なんですね。
弓の松ヤニが思ったよりベタベタしてます。

伸びやかな音がする

小粥
おお〜!音が出た。
あ、鶴田館長が弾くとすごくいい音が出ますね。上手。

三味線の組み立てコーナーも
無事組み立て完成!

浜松という土地と音楽

小粥
体験コーナー、面白かったなあ。
何より子どもたちがすごく楽しそうに思い思いに音を鳴らしてて楽しそうでしたね。
科学館にも楽器を演奏できるスペースがあるんですけど、結構弾ける子が多いんですよね。
トコトコっと歩いていってパッと弾いちゃう。

鶴田さん
私が不思議に思うのはラッパ。
浜松はラッパできる子がすごい多いですよね、浜松まつりで吹くから。

小粥
私もやりましたね、ラッパ隊。

鶴田さん
彼らは別にラッパを吹けることは普通だと思ってるんだけど、全国的に見ればすごい人数ですよ。不思議で面白い街ですよね。

小粥
小さい頃からいろんな楽器に慣れ親しんでいるのはいいことですよね。
楽器奏者じゃなくても、ここの学芸員さんみたいに楽器や音楽文化を研究する人、職人として楽器作りに関わる人、楽器メーカーで働く人、いろんな形で音楽に携わる人材が浜松で育っていく。

鶴田さん
浜松にはそういった音楽プラス別の専門分野を持った人材がたくさんいますよね。
かくいう私も楽器博物館の学芸員ですけど、工学系を専門に学びました。
昔から地元楽器メーカーの活躍・発展によってそういう素地づくりができていたのかもしれませんね。
例えば、私が学生の時にはオルガンがクラスに一台ありました。

小粥
音楽教室じゃなくてクラスに一台!

鶴田さん
明治20年に、ヤマハ株式会社の創業者である、山葉 寅楠(やまは とらくす)さんが地元の小学校にあったアメリカ製のリードオルガンを修理することになったんですよね。
修理していくうちに、これなら自分たちでも作れるって作り始めて、それが全国の学校に広がっていったんですよ。
山葉寅楠さんがオルガンを全国に普及させたことが、当時の日本の音楽文化を育てることに貢献しているんですよね。

鶴田さん
クラスに一台オルガンがあるという環境が日本の音楽環境を変えたんです。
さらに山葉さんは、リードオルガンも作れたのならピアノも作れるんじゃないかってそれからピアノも作り始めて、今ではヤマハ株式会社は世界の楽器産業を支える企業になりました。

小粥
「ものづくりのまち 浜松」と「音楽のまち 浜松」っていうのは繋がっているんですね。

鶴田さん
浜松は遠州織物の産地で織機の生産も盛んだったから、その技術がオルガンのペダルに活かされたりね。
リードオルガンはペダルを踏むことで、中のフイゴが広がって真空状態になることで空気を吸い込んで音を鳴らしてますから。

小粥
さすが工学系学芸員ですね。
浜松が楽器のまちとして発展したのは偶然じゃなく、他産業で培った技術応用の繋がりも大いにあったんですね。国産の洋楽器発祥の歴史を学ぶことができるこの展示も、浜松市にある楽器博物館ならではですね。

取材を終えて

きらびやかな楽器たちに囲まれての楽しい取材となりました。
私は楽器の見た目や装飾にばかり目がいってしまいましたが、楽器の素材や音が鳴る構造に着目するのはさすが科学館職員。鶴田館長も元科学館館長を務められたこともあって見事な受け答えで、聞き応えがありました。
科学的な視点を交えた、普段聞けないような面白いお話を伺えたのではないでしょうか。

※三味線やその素材などを紹介したコーナーは、企画展で展示したものであり現在は終了しております。

そして、今回ご紹介してくださった楽器に使われる弦の一部を特別にご提供くださるとのこと。電子顕微鏡からその美しい音色の秘密に迫る、小粥による解説記事(後日更新予定)。ナイロン弦にマツヤニを塗ってみるという前代未聞の実験の結果はいかに!?
是非、チェックしてみてくださいね。

◆ 取材協力

浜松市楽器博物館

◆ 記事執筆

黒川夏希(ウィスカーデザイン)

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浜松科学館 みらいーら
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