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「くっつく生き物」の「くっつく構造」を電子顕微鏡でみてみよう。

私は野外観察の後、服や靴に付いた泥や落ち葉を落とし、出来るだけ自然を持ち帰らないように心掛けています。

一方で、くっつき虫(草本の種子)やマダニなど、私たち動物へ意図的にくっついてくる生き物もいます。

彼らはどのような方法で動物にくっつき、その状態を維持するのでしょうか?
電子顕微鏡で観察してみたところ、そこには肉眼では知ることができない驚きの秘密が隠されていました!

「くっつき虫」の「くっつく構造」


くっつく生き物の代表として、まずは草本の種子をご紹介します。
ヤブジラミやイノコヅチ、オナモミ、センダングサなどが知られています。

皆さんも服や靴にくっついて、苦労した経験があるのではないでしょうか?

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「ヤブジラミ」はとても独特な和名ですね。
漢字で書くと「藪虱」。

今年の7月、科学館スタッフが七夕飾りのために近所へササを採りに出かけたところ、帰ってきたスタッフの服についていたのがこのヤブジラミでした。
藪に入ると、ヒトの血を吸うシラミのように服や靴につくことが和名の由来です。
命名した方はなかなか恐ろしいネーミングセンスの持ち主ですね。

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「イノコヅチ」は松任谷由美さんが作詞作曲した「りんごのにおいと風の国」に登場します。
著作権の関係で歌詞を掲載することはできませんが、「ある女性が1つのイノコヅチに口づけし、言えなかった想いを込めてセーターを着た男性へ(おそらく背後から)投げてつける」という内容です。
なんて切ないシーンなのでしょう。

この歌詞を読んで、筆者はある仮説を抱きました。
女性が投げつけたのは「イノコヅチ」ではなく、「オナモミ」だったのではないかと。

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イノコヅチの仲間の種子の大きさはいずれも5~6 mm程度。
口づけして投げるにはあまりにも小さいです。
一方、オナモミの仲間の種子は1~2 cmと比較的大きく、口づけも簡単にできそうです。
形状もラグビーボールの様で投げやすそうですね。
実際、子供の頃に友達と投げ合って遊んだ方も多いと思います。

松任谷由美さんが下調べもなしにイノコヅチを歌詞に使うことはないと思われます。
登場させるくっつき虫をオナモミと知りつつ、言葉の響きからイノコヅチを選んだのではないでしょうか。
オナモミには申し訳ないですが、「オナモミ」という単語は素朴で、親しみが強すぎる感があります。

と夢のない筆者の仮説は置いておいて、本題に戻りましょう (笑)

自然観察園には、シロバナセンダングサというキク科の草本が生えています。
花は白色の花弁に黄色の頭状花(中央部分)で、まさにキクらしい様子です。

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しかし、可愛い花に反して種子は厄介者。
草むらや河川敷を歩いて、服についたセンダングサの種子に悩まされた方も多いと思います。

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センダングサの種子はどの様な方法で服にくっつくのでしょうか?

その謎を、浜松科学館の電子顕微鏡で解明したいと思います。

電子顕微鏡でセンダングサの種子をみてみましょう。
太い1本の種子から、3, 4本のトゲのようなものが枝分かれしているのが分かります。

センダングサの仲間種子

さらに倍率を上げると…

センダングサの仲間種子2

4本のトゲそれぞれに小さな針がびっしりと生えていることが分かります。
針の生える向きは、トゲに対して全て逆向き。
このささくれのような無数の針にセーターの繊維が絡まったら、とるのに苦労するのも頷けますね。

この様な微細構造を持つことで、センダングサの仲間はヒトの衣類や、動物の毛に種子をくっつけていたのです。


「マダニ」の「くっつく構造」


さて、次にくっつく動物を見てみましょう。

先日、科学館の窓ガラスに冬鳥のシロハラが追突して死んでいました。

貴重な命を役立てようと、ビニール袋に入れて冷凍庫でしばらく保管していました。
数日後、鳥を出してみると、袋の底には6匹のマダニが!
おそらくシロハラに取りついて吸血していたものの、宿主が死んだために離れたのでしょう。

マダニの仲間は鳥や哺乳類にとりつき、口(口下片)を突き刺して数日間吸血し続けます。
そのためには、払われたり、水浴びされたりするくらいで剥がされないための工夫が必要です。

マダニの仲間(チマダニ属の1種)も電子顕微鏡で拡大して観察してみましょう。

※写真までにスペースを空けましたので、虫やグロテスクな生き物が苦手な方はご遠慮ください。

































こちらが全身写真。
脚が8本あり、頭、胸、腹が分かれずひとまとまりになっているのがダニ目の特徴です。
左上に頭がありますが、背面からだと口の構造が分かりませんね。

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体を裏返して…

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問題の口下片を見てみると…

わぁお!すごいです!
赤丸で囲った棍棒状の部位が口下片です!
物凄くギザギザしていますね!

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動物の皮膚を切り裂くと、この口下片を傷口に差し込んで血を吸います。
口下片にはたくさんの返しがあるので、一度固定されると簡単に剥がすことはできません。

筆者は学生の頃にマダニの仲間に血を吸われたことがあります。

ある日の夜、背中が痛みで疼き、気になりつつも就寝。
明朝も同じ場所が痛むので触ってみると、ぷっくりとしたイボのような感触が!
後輩に見てもらってようやくマダニに噛まれていたことが分かりました。

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マダニに噛まれた場合、吸血の他に「感染症のリスク」という負の側面が生じます。

マダニの種によって媒介する病原体が異なりますが、日本紅斑熱、ライム病、つつが虫病といった細菌性や、重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)、ダニ媒介脳炎というウイルス性の病気が知られています。
細菌性の病気は抗生物質で予防、治療が可能ですが、ウイルス性の病気は現在も有効な薬が開発されておらず危険な存在です。

筆者は直ぐに総合病院へ行ってマダニを摘出してもらいました。
通院せず、マダニを自身でとってしまう方もいますが、前述したとおりマダニの口下片は非常に外れにくい形状をしています。
口下片だけが千切れて皮膚に残ることがあり、その場合感染症のリスクも高まってしまいます。
マダニに噛まれたときは必ず病院で摘出してもらいましょう。

ちなみに…、筆者はお医者さんにお願いして摘出したマダニを持ち帰らせていただきました。
専門家の方に同定していただいたところ「ヒトツトゲマダニ」と判明しました。
調べるとウイルス性の病気の媒介者ではなく一安心。
抗生物質も処方してもらい、事なきを得ました。

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「くっつく構造」は次世代を残すための秘策


センダングサやマダニには、動物にくっついて、それを維持するための工夫が隠されていました。

センダングサは動物を公共交通機関の様に利用し、種子を長距離分散させて生息地の分布拡大を図ります。
マダニは動物の血を産卵のための栄養源にします。
それぞれが持つギザギザの返し構造は、次世代を残すための生存戦略の結果だったのですね。

今回登場した電子顕微鏡は、浜松科学館自然ゾーンの「でんけんラボ」に設置されています。
週に数回、スタッフの実演でミクロワールドを来館者の方々に体感していただいています。

電子顕微鏡で見えた生き物たちの隠された秘策。
科学館へお越しの際は、自然ゾーンの「でんけんラボ」へぜひお立ち寄りください!
※下の写真は今年の1月に撮影したものです。

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参考資料
厚生労働省. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A|厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/sfts_qa.html.
山内健生 & 高田歩. Illustrations of Common Adult Ticks in the Mainland Japan. ホシザキグリーン財団研究報告 287–305 (2015).

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浜松科学館自然観察園は地域の方々のお散歩ルート。歩道は端から端まで105歩。普通に歩けば1分足らずで通過してしまいます。 その1歩1歩にもたくさんの生き物がいて、関わり合い、科学的な事象が起こっています。「小さな森での小さな出会い」を少しずつお届けします。