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かなりシビアな昆虫と菌の共生関係。

街路樹でモンパキンを探してみよう

自然観察園にも植えられているサクラ。
今は葉が落ち、硬い冬芽の中で小さくまとまった蕾や葉が暖かい春を待っています。

サクラにはソメイヨシノ、オオシマザクラ、ヤマザクラなど色んな種があります。

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どの種にも共通して茶色や黒色のフェルトのような膜が枝や幹の一部を覆っていることがあります。
下の写真は、浜松市内の公園で撮影したものです。

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触ってみるとけっこう硬め。
樹皮にぴったりとくっついています。

試しに剥がしてみると、ペリペリと簡単にめくることが出来ました。

あ!
膜の内側にクリーム色の昆虫らしきもの(白色矢印)が付いています!

カイガラムシ


フェルト状の膜はモンパキン科に属する菌類の仲間。中にいた昆虫はカイガラムシ上科(じょうか)に属するカイガラムシの仲間です。

今回は、これらモンパキンとカイガラムシのちょっと変わった関係をご紹介したいと思います。

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共生はどんなイメージ?


さて、唐突ですが「共生」と聞いてどんなイメージをもちますか?

私たちの身の回りで使われる単語では、「多文化共生」や「地域共生」などがあり、「共生」には平和で安心する心地よい響きがあるような感じがします。

改めて「共生」を辞書で引いてみましょう。

① 2種の違った生物が、一緒にすむこと。
② 生あるものは、互いにその存在を認め合って、ともに生きるべきこと。

人間社会で日常的に使われる「共生」は、主に②の意味で使われます。個々の相互作用の有無は関係なく、互いに認め合った上で存在する「共存」に近い表現で使われる印象があります。

①は人間社会ではなく、自然界の生き物を対象とした「共生」です。

生態学では、「共生」は生き物の間で互いに利益のある「相利共生」と、片方の生き物に利益があり、もう一方には利益も不利益もない「片利共生」の2つに分けられます。また、片方の生き物に利益があり、一方には不利益がある「寄生」も共生として扱うことがあります。

この記事では、互いに利益のある「相利共生」を扱っていきます。

有名な相利共生(以下、共生)の例では、アリとアブラムシの関係が知られています。植物の汁を吸うアブラムシは、甘露という蜜をアリへ与える代わりに、アリに外敵から身を守ってもらいます。

noteの花粉の回でもご紹介しましたが、昆虫に花粉を運んでもらう虫媒花と、花粉を運ぶ昆虫の関係性も共生の例として有名です↓


「アリとアブラムシ」、「虫媒花と送粉者」。

これらの共生関係は、昆虫、植物ともに大きなリスクはなく、まるでプレゼントを交換するような平和的な印象を受けます。

しかし、自然界の生き物には感情はありません。
自身の遺伝子を後世へどれだけ多く残せるか、またその目的を達成するためにどれだけ効率的に労力を注ぐことが出来るか。これらが生きる上での基本的な価値観です。

私たちヒトから見ると、自然界の共生関係には「過酷」で「残酷」に感じるやりとりも存在します。
今回の主役:モンパキンとカイガラムシも、かなり「シビア」な共生関係に感じるかもしれません。

かなりシビアな昆虫と菌の関係

繰り返しになりますが、モンパキン科(Septobasidiaceae 以下、モンパキン)は、キノコやカビと同じ菌類の仲間の1グループ。そして、モンパキンに属する菌類は、全てカイガラムシと共生関係にあります。

モンパキンの膜の下には、カイガラムシの群れがあります。モンパキンはカイガラムシ1匹1匹へ、それぞれの身体にぴったりサイズの個室を用意します。カイガラムシは部屋の中でストロー状の口を樹皮に刺して植物から養分を吸います。

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さて、ここからがモンパキンの凄いところ。

モンパキンはカイガラムシの身体へ菌糸を挿入します。菌糸の形はらせん状でワインのコルク抜きのよう。モンパキンはカイガラムシが植物から養分を吸う際に、カイガラムシの身体から養分を吸収します。

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菌糸を挿入されたカイガラムシは動くことが出来ず、繁殖能力も失います。
カイガラムシを介して植物の栄養をいただくモンパキン。
一方のカイガラムシは生と死の境界のようなゾンビ的な存在になってしまいます。

このままだとカイガラムシの群れは繁殖できずに死に絶え、最終的にはモンパキンにも不都合があるような気がします。

しかし狡猾なモンパキンは、そんな過ちは犯しません。

菌糸を挿入するカイガラムシは、群れの個体数の半分に抑えます。菌糸を挿入されていない残りのカイガラムシたちには繁殖力があり、次世代のカイガラムシを残すことが出来るのです。

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春、モンパキンは成長して、カイガラムシの部屋の周りにトンネルのような空間を作ります。成虫になった雄のカイガラムシはトンネルを通って雌のカイガラムシの部屋に訪れ、交尾します。雄は部屋を行き来して交尾することが出来ますが、雌は身体が大きいため部屋から出られません。雌は、雄が自身の部屋へ訪れるのを待ち、交尾後に自身の部屋の中に卵を産みます。

卵から孵化した幼虫は、雌の部屋からトンネルを介してモンパキンの膜の外へ脱出します。丁度その頃、モンパキンは膜の表面に胞子(子孫を残す種子のようなもの)を作ります。脱出した幼虫が膜の表面を這うと、生産された胞子が幼虫の身体に付着します。

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その後、幼虫は、

・生まれたカイガラムシの群れに再合流
・隣接した別のカイガラムシの群れに合流
・新たな場所で新しいカイガラムシの群れを作る

という3つの道をたどります。

どの生き方でも身体に付着したモンパキンの胞子が発芽し、いずれモンパキンに身体を覆われる運命が待っています。

シビアではあるけれども、互いに利益がある関係

カイガラムシが存在することで、モンパキンには様々な利益があります。

・カイガラムシ経由で、植物の栄養を得る
・胞子をカイガラムシの幼虫に分散してもらい、分布拡大する

私たち人間から見ると、モンパキンはかなり残酷な生き物に感じます。

・カイガラムシにチューブを差し込んで養分を吸いとる
・カイガラムシを不妊化させる
・カイガラムシの雌を、一生、部屋に閉じ込める

一見すると、モンパキンに利益があり、カイガラムシに不利益がある「寄生」のような共生関係に思えます。
しかし、実はカイガラムシにも大きな利点があります。

それは、モンパキンに膜で群れを覆ってもらうこと。

カイガラムシの幼虫や成虫の雌の多くはあまり移動せず、植物に口吻を差し込んだまま固着して生活します。移動しないカイガラムシは、寄生バチや肉食性ダニにとって絶好の食料。寄生バチは針を突き立ててカイガラムシの身体に産卵します。肉食性ダニは口器をカイガラムシの身体に差し込み、体液を吸います。

また、時には非生物的な環境要因もカイガラムシへ悪影響を与えます。強い雨風に襲われても直ぐに移動して安全な場所へ逃れることは難しいです。

これらの天敵、環境要因に対して、多くのカイガラムシは、「ろう」やタンパク性の物質で身体を覆い、身を守ります。防御物質で身体を覆う様子から、カイガラムシの和名が付けられました。

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一方、モンパキンに身体を覆ってもらうカイガラムシたちは自身で身を守る必要がありません。厚いモンパキンの膜は、寄生バチの針、ダニの鋏角、雨風をとおしません。そのため植物から得られた養分を、防御物質の生産のために使う必要がなくなります。余剰分のエネルギーを身体の成長や産卵へ充てることで、カイガラムシは自分たちの遺伝子を効率的に後世へ残すことが出来るのです。

地獄絵図のようなモンパキンとカイガラムシの関係性も、持ちつ持たれつ、互いに利益のある相利共生だったのです。
ヒトの価値観は人間社会を存続するためにとても重要な指標の一つです。
一方で、自然界では生の価値観はより純粋で、同時にユニークで興味深い生き物同士の仕組みが存在しているのです。

おわりに

モンパキンは珍しい菌ではなく、近所のサクラにも付いていることがあります。
見かけたら、膜の下のゾンビ化したカイガラムシを想像してみてください。
そして「共生すること」「生きること」について思いを巡らせてみてください♪

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参考資料
Couch, J. N. The Genus Septobasidium. (University of North Carolina Press, 1938).
Shew, H. W. The Wonderful World of Fungi Part XV – Division Basidiomycota – Fascinating Members (Interesting Symbioses). https://alabamaallergy.com/2019/01/17/wonderful-world-fungi-interesting-symbioses/.
山田忠雄 他. 新明解国語辞典 第八版. (三省堂, 2020).

備考
今回ご紹介したモンパキンの生態は、参考資料からご紹介しました。モンパキンはカイガラムシと共生関係にあることは間違いありませんが、細かな生態は種によって異なる可能性があります。

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浜松科学館自然観察園は地域の方々のお散歩ルート。歩道は端から端まで105歩。普通に歩けば1分足らずで通過してしまいます。 その1歩1歩にもたくさんの生き物がいて、関わり合い、科学的な事象が起こっています。「小さな森での小さな出会い」を少しずつお届けします。