「おしっこ」から脊椎動物の進化をみてみよう。
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「おしっこ」から脊椎動物の進化をみてみよう。

皆さん、今回のテーマは「排泄物」です。
「糞」「おしっこ」が連発しますので覚悟してください(笑)

自然観察園を歩いていると、遊歩道のコンクリートの上にたくさんの鳥の糞が落ちていました。
白黒のいびつな円形。
朝、これが車のフロントガラスに付いていると、とても残念な気持ちになりますね。


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糞の中にはボコボコとした植物の種子も含まれていました。
この白色の星型のように美しい造形物はセンダンという樹木の種子です。
秋から冬にかけて、センダンの樹には白色のチョコボールサイズの果実がたくさん実ります。


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おそらく糞の落とし主は、この実が大好物なムクドリでしょう。
遊歩道の上の枝に群れでとまっているのをしばしば見かけます。

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センダンはムクドリに種子を運んでもらい、生息地の拡大を図ります。
一方のムクドリは種子を運搬する報酬として、センダンから美味しい果実をいただきます。
センダンとムクドリとの間で、 Win-Win な関係が成り立っているのですね。

さて、ムクドリの糞はたくさん落ちているのですが、おしっこの痕が見当たりません。
ムクドリはどこでおしっこをしているのでしょうか?
むしろ皆さんは、鳥がおしっこをしている姿を目撃したことがありますか?

実は、鳥類はおしっこを一切しないのです。
そもそも排泄するのはお尻の穴からだけ、おしっこを出す穴すらないのです。

私たちヒトを含む哺乳類はうんちとおしっこを別々に出します。
一方、鳥類はこれらを一緒に出すのです。
具体的には、白黒の鳥の糞のうち、黒色の部分がヒトで言う「うんち」で、白色の部分が「おしっこ」。

もしも鳥類用のトイレがあるとしたら、男性トイレも全て個室で、小便器はないことになりますね。


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生きる上で必ず出さなければならない排泄物。
しかし同じ脊椎動物(背骨がある動物)であるにもかかわらず、哺乳類と鳥類の排泄物はこんなにも違うのです。

きっとそこには生物学的に大きな意味が隠されているに違いありません。
これは本腰を入れて、体系的に脊椎動物の排泄物を捉えてみた方が良さそうです。


そもそも、排泄物とは何でしょうか?

辞書には「生物から出される物質のうち、不用又は有害のものをいう。」とありました。

脊椎動物について言うと、全ての生き物が植物や他の動物を捕食して生命活動のためのエネルギーを得ています(従属栄養生物)。
そして、捕食した餌を消化・吸収する過程で、代謝物として必ずアンモニアが発生します。

このアンモニアが辞書に記されていた「有害なもの」でヒトの場合、血中のアンモニアが増えると意識障害が引き起こされます。
動物にとってアンモニアを身体から出すことは必須の課題。
主に「おしっこ」として排出されます。
一方、食べ物を消化、吸収した後の「不用なもの」が「うんち」です。

下に脊椎動物の進化をおおざっぱに描いてみました。


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魚類から両生類が生まれ、両生類が哺乳類と爬虫類に分化し、一部の爬虫類から鳥類が進化しました。
しばしば鳥類から哺乳類が進化したと憶えている方がいらっしゃいますが、それは誤りですのでご注意ください。
※あくまで模式的な図で、直接的な進化を示したわけではありません。例えば二ホンアマガエルからネコ、ニホンヤモリが進化したわけではありません。

次にこの図に問題の「おしっこ」の状態を書いてみましょう。


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魚類は体内で発生したアンモニアをそのまま排出します。
アンモニアの毒性は高いですが、水溶性なので水中ですぐに薄まり、問題なく排出することができます。

次に陸に上がった両生類。
毒性の高いアンモニアを陸上でそのまま排出するわけにはいかないので、毒性の低い水溶性の尿素に変換し、身体から水に溶けた状態の尿素をおしっことして排出します。

では、爬虫類、鳥類はというと…

爬虫類は両生類より陸上環境に適応するため、産卵場所を両生類の水中から陸に変更しました。

卵の構造も卵の中身を乾燥から守るため、硬い殻で覆う必要があります。
しかし、ここで問題が発生。
排泄物である尿素は水に溶かして保存しなければなりません。
その為、卵が成長するにつれて排泄物である尿素水溶液の体積が増加し、卵の殻の中で保存するスペースがなくなってしまうのです。


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この問題を解決するために、爬虫類は尿素を尿酸にまで変換する方法をとりました。
尿酸は水に溶かす必要はないため、固形で保存することができ、卵の中のとても小さなスペースに保存することが可能になりました。
卵から産まれて成体になっても、この代謝方法は変わりません。
そして爬虫類から進化した鳥類も、爬虫類と同じ排泄方法をとっています。

代謝物を尿酸まで変えることは、爬虫類にとって陸上で産卵すること以外にもう一つの性質を与えました。
それは、体の軽量化です。
尿酸は水に溶かす必要が無いため、余分な水分を除く分、体重を軽くすることが可能になりました。

そして爬虫類から進化した鳥類は、軽い身体という性質を活かして「飛ぶ」能力を得ることができました。
もちろん飛ぶためには、羽毛の構造の獲得や、骨の軽量化など様々な条件が必要ですが、尿酸への代謝方法の獲得も必須の条件だったと考えられます。

陸上環境への適応の為に硬い殻を作った爬虫類と鳥類。
そして彼らは尿酸を生成することでこのミッションを成功させました。

一方で私たちヒトを含む哺乳類は尿酸を生成することなく陸上環境へ適応することに成功しました。

哺乳類の代謝方法の秘策、それは「胎生」です。

ほとんどの哺乳類は、卵を産むことなくお腹の中で赤ちゃん(胎児)を育てます。
胎児の臓器は未熟なため、体内のアンモニアを尿素に変えることができません。
そのため胎児のアンモニアは、臍の緒から胎盤をとおして母親へ循環し、母親の臓器で尿素に変換され、体外へ排出されるのです。
物質の循環という視点における「閉じた系の卵生」から、「開かれた胎生」という驚くべき進化です。

自然観察園の足元に落ちていたムクドリの糞から、鳥類飛翔まで話がかなり膨らみましたね。

「おしっこ」の背景には「物質の化学的性質」や「生き物の進化の歴史」がありました。

鳥に糞を落とされたら、「あぁ、この白色が尿酸ね」と俯瞰してみてください。
そして、その怒りが少しでも減ることを願います(笑)

参考資料
Liu, Y. et al. Gekko japonicus genome reveals evolution of adhesive toe pads and tail regeneration. Nat. Commun. 6, 1–11 (2015).

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