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【自由に研究ラボ2023】子供たちが気になる試料を科学館に持ち込んで探究しました。

はじめに

「みらいーら 自由に研究ラボ」は子供たちが気になる材料を持ち込んで、電子顕微鏡、生物顕微鏡、実体顕微鏡、解剖セットなど、科学館の実験機器を使って自由に探究する企画です。

前身の「1倍から30,000倍まで!超拡大ラボ」から数えて今年で3年目。毎年新規の方が参加され、科学館職員との新しい出会いがあります。そして、初年度から皆勤賞の方もいらっしゃいます。たった1年で急成長する子供たちとの再会は、なんだか親戚のおじさんになった気分です。

ニワトリとウズラの卵を比べてみよう
(中身は美味しくいただきました♪)
電子顕微鏡で観察してみると…
おぉ!こうなってるんだ!

ここからは、当日観察したこと、気づいたこと、そしてそれらに対する科学館職員のコメントをご紹介します。

子供たちによる珠玉の17の記録をお楽しみください。


自由に研究ラボ 18作品

大好きな鳥の卵が守るもの

岡部 桃子
材料:スーパーで買って冷蔵庫で保存したニワトリとウズラの卵

◆ 気づいたこと
ニワトリでは小さな穴が開いている。ウズラではひび割れていて、ニワトリの半分くらい薄い。硬い殻は中身を守っている。穴やひび割れは卵が呼吸をするために必要だけど、そこからばい菌が入ってきたら今度は膜が守る。それでいて内側からひよこが出てくるときには壊れやすくなっている。くちばしがある鳥だから硬い殻があるのかな。守らなきゃいけないのに壊れやすくないといけない卵はこんなに複雑で凄すぎる。

◆ 担当職員のコメント
「卵の表面には穴がある」科学館業界では有名な話だけれど、ウズラはひび割れているなんて知らなかったよ!実物を観察することはとても大切だね。卵にはいろんなトレードオフがあって、桃子さんの「守らなきゃいけないのに壊れやすくないといけない」はとても的を射ているね。硬い殻を割るためにヒヨコの嘴の先には固い突起があるよ。カメやトカゲの赤ちゃんには突起はあるのかな?生き物の卵の硬さと殻を割る部位を調べるのも面白そうだね。


アリの正体

村松 幸樹
材料:クロヤマアリ

◆ 気づいたこと
クロヤマアリは表面がツルツルしていると思っていた。しかし、今回初めて電子顕微鏡を使って超ズームで観察したら、体全体に毛がたくさん生えていた。特に足が毛深かった。一番驚いたのは目だ。敵を見張るためのアンテナを備えた「複眼」と呼ばれる小さな目が集まって目の形になっていた。そしてお腹は毛の部分と線のような部分が交互につながって山脈のようだった。新しい発見がたくさんあり、アリの秘密を知ることができた。

◆ 担当職員のコメント
身近な生き物も、電子顕微鏡で拡大すると新たな発見がありますね。なぜ、アリの体には毛が生えているのでしょうか?足に毛が多いのはどうしてでしょうか?複眼を持つ昆虫はたくさんいますが、眼の個数や大きさはそれぞれ違います。
生き物の構造を調べていくと、その生き物の住処や暮らしがわかることがあります。観察して見えたアリの秘密を、さらに深く研究してみてください。


ヤドカリさん、貝殻の中はどうなっているの?

渥美 乃愛
材料:ヤドカリ、ストロー

◆ 気づいたこと
ストローを使うと、ヤドカリをキズつけずに貝殻から出すことができて驚きました。 デジタル実体顕微鏡で見てみると、体が貝殻の形にうずを巻いている様子や、小さな脚や細かい毛も見ることができて面白かったです。数えると、脚が10本、触覚は4本あって、ヤドカリは、カニやエビの仲間だと分かりました。また、体はぷにぷにしていて柔らかそうだったので、体を守るために貝殻に入っているんだなと思いました。

◆ 担当職員のコメント
「ヤドカリを元気なまま殻から出したい!」シンプルで魅力的なミッション。インターネットでは殻を火であぶるとか、失敗すると死なせてしまう方法が出てきたね。乃愛さんと発明したのはストローで殻の口をふさぐ方法。きっと殻がまだ続いてる?と勘違いして外に出てきてしまうんだね。作戦大成功!ヤドカリはカニ・エビの仲間ってことは昔は殻の外で暮らしていたのかな?なぜ殻の中に隠れるようになったんだろう?どんなきっかけがあったのか気になるね。


なぜ孵化しない?! ナナフシモドキの卵たち

岡田 春季
材料:ナナフシモドキの卵

◆ 気づいたこと
去年3匹のナナフシモドキが約750個の卵を産んだが、すべて孵化しなかった。不思議だったので、卵の中身を観察した。卵を割ると中身が乾燥していた。電子顕微鏡で見ると、足のような筋や頭のようなふくらみがあった。そのため、これは体の一部だが、途中で成長が止まってしまったのかもしれないと考えた。次は、自然に近い環境(半日陰、湿り気がある)を再現してナナフシモドキの孵化に挑戦したい。

◆ 担当職員のコメント
わずか2~3mmの卵を実態顕微鏡で拡大しながら殻を割るのはとても根気のいる作業だったね。春季さんのナナフシへの愛を感じました。今年の卵は孵化するといいね。ナナフシの卵は固い膜で覆われてまるで小石みたいだったね。この膜のおかげで小鳥に食べられても糞から無傷のまま排出されて孵化することが分かっているよ。飛ぶことができない不器用そうな昆虫だけれど、ちゃんと飛び道具を用意しているみたい。やっぱり生き物ってすごいね!


家族の髪の毛 ちがうこと、いっしょのこと

岡部 心咲
材料:私の髪の毛500倍、お姉ちゃんの毛500倍、お父さんの白髪500倍、リカちゃん人形の髪の毛500倍

◆ 気づいたこと
目で観察しても見えなかったキューティクルをはじめて見て知りました。キューティクルは私と父でははっきり見えましたが、前日にお風呂に入れなかった姉の髪の毛ではよく見えませんでした。リカちゃんにはありませんでした。父の白髪では黒い髪と同じように見えました。人それぞれ違うし、日によっても違うとわかりました。キューティクルはタケノコの皮のように向きが決まっていて、人の髪の毛は触る向きで感触が違うとわかりました。

◆ 担当職員のコメント
さりげなくリカちゃん人形が入っているのが面白いね!リカちゃんには無いキューティクルの形や、毛の太さ色など、髪の毛はいろいろな情報を教えてくれるんだ。まるで指紋のようだね。今回は家族の髪の毛を調べたけれど、親せき→お友達→外国人→イヌやネコの毛みたいに、自分の近くから遠のものまで調べてみると、毛のもっと大きな仕組みが見えてくるかも。その後であらためて自分の髪の毛を見てみると新しい発見があるかもしれないね。


ヌートリアの毛の役割

山下 颯梧
材料:ヌートリアの毛(保護毛、下毛)、自分の髪の毛、ハツカネズミの毛

◆ 気づいたこと
ヌートリアが川で泳ぐために毛にはどんな役割があるか観察した。その結果、保護毛は人間の毛に近くキューティクルの長さが短かった。人間の毛の役割である遮光性という点が共通していたため保護毛は遮光性が優れて水からの反射もある水辺で皮膚への影響を削減していたと考えた。また、下毛はネズミのように細かったことから毛を複雑にからめ温かい空気を蓄えて保温性を高めて水中でも活発に活動することを可能にしたと考えられる。

◆ 担当職員のコメント
同じ齧歯目のヌートリアとハツカネズミでも毛のキューティクルの形は全く違うんだ!ヌートリアは霊長目のヒトとそっくりなのは驚きだね。もっと色々な分類群の動物の毛を見てみたいね。きっとキューティクルの形には何種類かのパターンがあって、1つのパターンが複数の分類群にまたがっていそう。生活する環境によって臨機応変にキューティクルは変化するのかもしれないね。颯梧君が予想する遮光性のようにパターン毎に特異な性質があると面白いね。


鳥の羽の比較

山下 瑞喜
材料:鳥の羽(カラス、キジバト、ジュウイチ、ヒヨドリ)

◆ 気づいたこと
ぼくは3年生からカラスの研究を続けています。去年、夏休みに一日中カラスを追っかけていたら、頭がガンガンしてきて熱中症になってしまいました。カラスは真っ黒なのになぜ熱中症にならないのか不思議に思いました。カラスの羽に違いがあると考えたのでカラスの他に身近な鳥の羽を拾ってカラスの羽と比べました。しかし、他の鳥と違いがありませんでした。羽の形以外の特徴で熱さをしのいでいることが分かりました。

◆ 担当職員のコメント
残念ながらカラスの秘密は電子顕微鏡では分からなかったけれど、これも大切な結果だね。もしかしたら、カラスは暑がりじゃなくて寒がりなのかも。そしてカササギとかオナガみたいに真っ黒じゃないカラスもいるよね。世界地図でカラスの分布と体色の関係を調べてみると面白そうだなぁ。あと確かに黒色は熱くなりやすいけれど冷めやすさはどうだろう?もしかしたら黒色を効率よく使うカラスの姿が見えてくるかも?


電子顕微鏡が教えてくれた羽毛と毛の違い

渡邉 凛太朗
材料:羽毛(ダチョウ・ワシミミズク・オシドリ)、毛(自分の髪・犬・リスザル・ニホンザル・ロバ・ウサギ・モルモット・羊)

◆ 気づいたこと
哺乳類の多くの毛はキューティクルが横に見え、太さの違いを除けばよく似ていた。ウサギはキューティクルが縦だった。ワシミミズクには隣とつながるためのフックがあり、うちわのように多くの空気をかけるようになっていた。またフックは途中でなくなり突き抜けていた。羽音を減らす工夫だと思う。ダチョウの羽にはフックがなく1本の線でえのきを割いたようだった。哺乳類の毛は単純だったが鳥類の羽毛は精密な構造だった。

◆ 担当職員のコメント
ワシミミズクは小羽枝に2種類の毛が生えていて、機能的で芸術的だね。ダチョウは無骨な感じ。嵐があったり暑かったりなサバンナに棲んでいるから、大雑把な構造の方が厳しい環境に耐えられるのかも。恐竜好きな渡邉君、現在も生きている動物から恐竜のヒントを探す手法はとても面白いね!私も気になって調べてみたら、哺乳類の毛や鳥類の羽根の起源は爬虫類のウロコであると発生学的な研究で示唆されていたよ。これからも探求を深めてみてね。


目では見えない自然の生き物

足立 優或
材料:家の水そうの水、近所の田んぼの水、水道の水

◆ 気づいたこと
飼っている魚が落ち着いて生活できるように、じゃりをしいたり、水草を入れたり、水そうの中を自然のかんきょうに近付けました。目では見えなかったけど、けんびきょうで見たら、田んぼの水と同じように、水そうの水にも小さな生き物がいて、自然のかんきょうに近付けた事が分かってうれしかったです。水道の水に生き物がいたらどうしようとドキドキしたけど、何もいなくて良かったです。

◆ 担当職員のコメント
水道の水に何もいなくて安心しました。水道水にはカルキ(塩素)が入っていて、小さな生き物が生きられないようになっています。水そうの水はカルキ抜きをしたので、水草などにくっついて入ってきた生き物が増えたのですね。今回は水そうと田んぼの水から1種類ずつ、生き物が見つかりました。水を網でこしたりして、もっとたくさん調べると、田んぼと水そうの生き物の種類や数に違いがあるかもしれませんね。


我が家のぬか床にいる微生物

足立 萌香
材料:ぬか床、ヤクルト

◆ 気づいたこと
顕微鏡で、微生物がピクピク動いている姿を確認して、「ぬか床は生き物だ」と本に書いてあった事を実感した。自分が毎日手入れしているぬか床に、微生物がきちんといることが分かってうれしかった。

◆ 担当職員のコメント
微生物を自分の目で見て実感することができて良かったね。きっと今回観察できたのは、ぬか床に多く含まれる乳酸菌。乳酸菌はヨーグルト、チーズ、キムチ、味噌、飲料水など色んな食品に棲んでいるけれど、全部同じ種なのかな?食品によって形や動きに違いがあったら面白いね。これらの乳酸菌はもともとどこで何をしていて、食品の中で何をしているんだろう?乳酸菌の生態を研究すれば、もっと美味しくて身体に良い食品が生まれるかもしれないね。


コンポストのひみつ

山下 晏寿
材料:コンポストと庭の土

◆ 気づいたこと
うちでは、コンポストを始めました。生ゴミを土にかえるそうです。何でゴミが土にかわるのか不思議に思いました。コンポストと庭の土を見れば違いが分かると思いました。ツルグレン装置を自分で作って、採取した土を観察しました。コンポストにはハエと菌類とバクテリアが見えました。庭の土にはダンゴムシとトビムシが見えました。コンポストにダンゴムシなどがいなかったのは湯気が出るくらい熱くなるからだと思いました。

◆ 担当職員のコメント
土にはたくさんの生き物たちが棲んでいるんだね。コンポストにいた生き物たちはゴミを土にする力があるのかな?どんな生活をしていて、何を食べているのか気になるね。コンポストと庭の土で棲んでいる生き物が違って、それぞれ棲む場所の得意不得意があるんだね。コンポスト大好き!な生き物を見つけられたら、ゴミがあっという間に分解できちゃうかもしれないね。色んな場所の生き物を観察すると、もっとたくさんの出会いと発見がありそうだね。


ぼくの鼻の中には…。

龍口 蒼馬
材料:はなくそ

◆ 気づいたこと
鼻くそは、鼻水とホコリで出来てるから汚いっていうけどどんなホコリが入ってるのかどんな風に汚いのかと思ったので細かく見てみたいと思いました。電子顕微鏡で見たら巨大な生き物みたいにも見えたし、粘土で作った怪物にも見えました。いろんな角度から見たら細い線みたいのもあって鼻毛だと気がついた。鼻くそはぼくが思っていたほど汚くはなかったしむしろとても面白かった。

◆ 担当職員のコメント
科学館で働いて4年になるけれど、鼻くそを電子顕微鏡で見たのは初めての体験だったよ。思い切りが良いね!鼻くそは、鼻の中の粘液とゴミが混ざったもの。つまり怪物の手のような鼻くそは、表面の粘液でゴミが体の中に入らないようにキャッチしていたんだ。粘液は、他にもいろんな仕事をしていそうだね。鼻の役割を考えながら考えてみよう。ここの図にはないけれど、鼻毛にも髪の毛と同じようにキューティクルがあるのが分かって面白かったね。


1%乳酸菌水溶液を与えたときの植物への効果について

石田 愛里彩
材料:恵 megumi ガセリ菌SP株ヨーグルト ドリンクタイプ、ブロッコリースプラウト(水耕栽培:ガセリ菌1%水溶液)

◆ 気づいたこと
電子顕微鏡で観察した乳酸菌は容易に見えると考えていたが、実際は非常に難しくとても繊細であった。また、検体の水分保持にNano Suit水溶液の使用や、炭素素材の両面テープ使用により画像への影響軽減に工夫があった。乳酸菌と乳成分等の他成分との見分けが難しく、画像のみで乳酸菌であることの特定は困難のため推測での判断となるが、植物に取込まれているとの仮説の可能性を高める結果となった。特定はDNA検査等を用いる必要がある。

◆ 担当職員のコメント
植物に取り込まれた乳酸菌を見つけるのは難しかったけれど、ガセリ菌そのものの姿は確認できてよかったね。乳酸菌を植物に取り込ませて野菜の品質の向上を目指す石田さんのアイディアは、食糧・環境問題を解決する上でも素晴らしいと思います。すでに乳酸菌を活用した農業は実践されているようだけれど、それらは土壌環境の改善が主目的みたい。菌が植物へどんな影響を与えるのかは、まだまだ未知の領域。ぜひ探求を深めてください。


ヌートリアが食べていたもの

山下 颯梧
材料:ヌートリアの胃や腸から取り出したプラントオパール

◆ 気づいたこと
ヌートリアが何を食べていたか調べるため、胃と腸の内容物からプラントオパールを抽出した。プラントオパールとは、植物を鋳型として作られる植物ケイ酸体のことだ。去年はアルカリ溶液を使って有機物を除去した。しかし、それではプラントオパールが損傷してしまうことが分かった。そこで、今年は過酸化水素水を使って有機物を除去した。その結果、より画像が鮮明になりイネ、カヤツリグサ、竹類の3種を特定することができた。

◆ 担当職員のコメント
探求がより深まって、昨年は検出できなかった植物種が新たに追加されましたね。図鑑の著者の先生に質問した颯梧君のやる気、行動力はすごいです!颯梧君を中心に著者の先生や図鑑を紹介してくれた静岡大学、科学館の電子顕微鏡など、たくさんの人々が関わって1つの成果が出たことも素晴らしいですね。一人で突き詰めるのも良いけれど、様々な分野の人たちが協力するとことで、一人ではできない新発見や問題解決ができることがあるんだね。


トイレットペーパーの世界

大井 森
材料:キッチンペーパー、ティッシュ、トイレットペーパー、
ボール紙、感熱紙、コピー用紙、和紙、チラシ

◆ 気づいたこと
様々な紙を観察すると、トイレットペーパーがなぜ水に溶けるのかが見えてきました。トイレットペーパーは、他の紙と比べて繊維の太さや形が様々でぐちゃっとしている。この不揃いが水に溶けやすくしていると考えました。雑な作りに見えるのに計算されていてすごいと思いました。電子顕微鏡で見た姿から、水に溶ける時にくっ付いていたみんながバラバラになるのを想像して切なかったです。材料が何か想像するのは楽しかったです。

◆ 担当職員のコメント
キッチンペーパー・ティッシュペーパーは新品の繊維、トイレットペーパーはリサイクルした繊維から作られているみたいだね。繊維は大切な樹から作られるから再生紙が増えて欲しいけれど、どうすればいいだろう?大井君が考えた紙の性質が関係しているのかも。他にもお金がかかるとか、繊維が手に入りやすいかとか、いろんな課題が想像できるね。紙の作り方も調べてみると面白そうだね。


僕の作った再生紙

永井 優大
材料:再生紙(裁断した紙、洗濯のり、水)

◆ 気づいたこと
僕の作った再生紙を、100倍にすると変な物が見えました。それは髪の毛のような物に見えました。300倍にすると、くきのような物が密集していてからみ合っていました。
さらに6500倍にすると木のような物にインクか洗濯のりが付いているように見えました。
それは、再生紙を作る時に洗濯のりを入れたからだと思います。でも、僕にはゴミが付いているように見えました。紙の中には色々な小さな物が入っていました。

◆ 担当職員のコメント
紙は繊維が絡み合って出来ていることがよくわかりますね。
工場で作る再生紙は、古紙をドロドロにするときに薬品などを使ってインクやゴミを取り除くそうです。手作りの再生紙は元の紙についていた繊維以外のものがそのまま残っていそうですね。観察する場所によって繊維の量が多かったり、繊維ではない何かが集まった部分があったり、不均一なところも手作りの紙らしいなと思いました。


衣服の工夫で暑さを乗りきれ!

飯尾 明香里
材料:アクリル、コットン、ポリエステル

◆ 気づいたこと
アクリルは一本一本の繊維が太く、よく観てみると何本かに別れていた。一方ポリエステルは、繊維が細く、縦横共に隙間なく編み込まれていた。隙間がないことで、汗などの水分を吸収し、体温を下げるのではないかと考えた。このことから、ポリエステルがなぜスポーツ素材の服によく使われているのか分かった。

◆ 担当職員のコメント
アクリルは隙間がたくさんで空気がいっぱい。温かそうだね。ポリエステルは隙間がものすごく小さいとも言えそう。小さな隙間では毛細管現象っていう水が隙間に染みこむ力が働いて、明香里さんの考察のとおり水が素早く吸収されそうだね。コットンは縮れ麺みたい。浜松では江戸時代から綿花が育てられて、現在の産業の礎になったよ。空気の含み具合や隙間の大きさ工夫すると、もっと機能的な布が作れるかも。明香里さんはどんな布があると嬉しいかな?

最後にもう一つ研究をご紹介します。

夏休み期間中に「科学館でモニタリング調査をさせてください」と相談がありました。夏休みの自由研究では、味や感覚、身体の特徴などをモニタリングしたものがたびたびあります。その多くは身近な友達や家族を扱ったものが多く、それ故にサンプル数が少なかったり、対象が偏ったり逆にしぼりきれないことがしばしばです。

「なるほど…たくさんのサンプル数を稼ぐことができる場所は無いんだなぁ」子供たちのやる気から気づかされることが多くあります。来年度以降の自由に研究ラボでは、実験機器を貸出するだけではなく、モニタリングの場としても提供していければと検討してします。

吉見さんの研究はそのプロトタイプとしてご紹介します。

ペットボトルのフタの研究
~みんなのフタの閉め具合、調べてみた~

吉見 瑠莉
材料:ペットボトル、ボールペン、油性ペン(青・赤)、マスキングテープ、ハサミ、定規、握力計、アンケート用紙

気づいたこと
ペットボトルのフタの閉め具合の人のよる差を調査し、それを握力と性格で比較した。小中学生の男女50人に、未開封のボトル本体とフタに4か所に印付けしたペットボトル5本の閉めなおし・握力測定・5項目の性格についてのアンケートを実施した。握力とフタの閉め具合には相関はみられなかった(図2)が、調査した性格の中で「面倒くさがり」では、あてはまると答えた人に、フタの閉め具合の緩い人が多くみられる結果となった(図3, 4)。

◆ 担当職員のコメント
しばしばちゃんと蓋を締められていないことがあって驚きました。握力とずれ距離の関係も、大きく外れた値を考慮すると関係がありそうな気がします。それだけではなくて、アンケートで性格も調べたところが面白いですね。ペットボトルは物理的な物、つまり科学的な物だけれど、それを使う人間はより多様で、机上で予想した単純な法則だけでは説明できないことが多くあると思います。吉見さんの観察する姿勢は人間を理解することに繋がるかもしれませんね。

探求賞

ご紹介した18の観察記録のうち、特に優れた観察5件が選ばれ「探求賞」が贈られます(審査員:針山孝彦先生(浜松医科大学特命研究教授))。
10月28日(土)に表彰式および、受賞者による観察発表会が催される予定です。以下に探求賞受賞者をご紹介します。

岡部 桃子

大好きな鳥の卵が守るもの
材料:スーパーで買って冷蔵庫で保存したニワトリとウズラの卵

渥美 乃愛
ヤドカリさん、貝殻の中はどうなっているの?
材料:ヤドカリ、ストロー

山下 瑞喜
鳥の羽の比較
材料:鳥の羽(カラス、キジバト、ジュウイチ、ヒヨドリ)

石田 愛里彩
1%乳酸菌水溶液を与えたときの植物への効果について
材料:恵 megumi ガセリ菌SP株ヨーグルト ドリンクタイプ、ブロッコリースプラウト(水耕栽培:ガセリ菌1%水溶液)

山下 颯梧
ヌートリアが食べていたもの
材料:ヌートリアの胃や腸から取り出したプラントオパール

特別賞として吉見さんの研究が選ばれました。

【特別賞】
吉見 瑠莉

ペットボトルのフタの研究 ~みんなのフタの閉め具合、調べてみた~
材料:ペットボトル、ボールペン、油性ペン(青・赤)、マスキングテープ、ハサミ、定規、握力計、アンケート用紙

以下に、審査員の針山先生から参加者の皆さんへのメッセージをお伝えします。

講評「見たいと思って見ると、見えてくる」

 
「みらいーら自由に研究ラボ」に参加した全員のポスターを何度も何度も拝見しました。素晴らしいなと思いました。なぜ素晴らしいと思ったかって?それは、自分で見たいと思ったものを持ってきて観察して、自分で考えたことが、しっかり示されていたからです。
 
研究のはじまりは、自分で見たいな、知りたいなと思うことです。研究には、正解が書かれていません。学校のお勉強やクイズでは、年上の人や昔の人が考えて研究して創り上げた世界を学んでいるので正解があります。自分で全ての自然現象などを解明していくのには時間がかかりすぎるのでお勉強することも、とても大切です。でも、お勉強の中で教えてもらえる正解は、すでに古い正解かもしれません。もしかしたら違う正解があるかも。君たちの新鮮な目で実験してみたら、新しい発見を導き出せるかもしれないですね。勉強と研究を両立して生活できるといいなと思います。
 
見たいな知りたいなと思うと、目の前に現れた実験結果の中の不思議な姿を見ることができます。「見たいと思うと知ることができる」のです。研究には、年上の先輩達が作った「正解はない」ので自分の実験や観察する力が重要になってきて、とても大変です。でも、大変な反面、楽しくて仕方ありません。だって、自分の責任で、新しい発見ができるのですから。みなさんのポスターの中から、「楽しいぞ!」って言っている声が聞こえてきました。研究の楽しさを知ったみなさんは、もう研究者の仲間です。おめでとう!

研究者の仲間になるように、若き参加者達を導いてくださった浜松科学館みらいーらのスタッフの皆さんにも感謝です!

ポスターで示された作品、全員の研究が面白かったです。今回は探求賞に5名のポスター発表を選びました。選んだポスターには、身近な者に興味をもち、工夫して実験し、考察を深めたことがしっかり示されていました。一方で、どうしようかな、探求賞の仲間に加えたいなと思った作品が、とてもたくさんありました。きっと、もっともっと気づいていることがありそうだな、もっとやってみたいことがありそうだな、という息づかいが感じられました。それらが示されていたら探求賞だったと思います。でも、選ばれなかった人たちにも、選ばれた皆さんと同じように、研究者になるための素質が十分に備わっています!

研究は、見たいな・知りたいなと思ったことを自分自身でスタートして、たくさんの仲間や先生と意見の交換をして、みんなで創っていくものです。たった一人の力は小さいですが、仲間と一緒に進めると、いろんなことを調べていけます。研究を通して、考え方が深まると、お友達とも仲良く過ごせるようになります。お友達だけでなくたくさんの人たちとも仲良くなります。今回の研究を経験したみなさん、是非、世界中の人たちと研究を通して仲良しになって、世界の人たちと楽しくお話できるようになっていってください。

見たいと思って見続けると毎日が楽しく過ごせて、気づいてみると世界中にお友達が増えていますよ。

針山孝彦

おわりに

参加者の皆さん、参加者を支えてくれた保護者の皆さん、審査員として見守ってくださっている針山先生、そしてここまでお読みいただいた読者の皆さんに感謝申し上げます。どんなイベントも主催者だけでは成り立たないものですが、自由に研究ラボは特にその色が強く、人々の好奇心で成り立っていると言っても過言ではありません。

有難いことに参加されたご家族から良い経験になったというお声をいただくことがあります。それは、我々科学館職員にとっても同じです。同じ試料を持ち込まれたとしても、探求する目的、試料台へ載せる過程、子供たちの観察する視点などによって、全く同じ観察結果は一つとしてありません。科学館職員にとってとても良い勉強の場になっています。

受け入れる科学館職員もドキドキしています。イベント初年度は「参加者に満足してもらえるかな?」「上手く観察できなかったらどうしよう?」とネガティブなドキドキが強かったです。しかし最近は「今日の試料、あれは系統的には○○のグループだから進化的な視点も取り入ると面白そうだな」「あの参加者の子は○○に興味があったはずだから○○な提案もしてみよう」というようにポジティブなドキドキがメインになっています。

来年は果たしてどんな試料が持ち込まれるのでしょうか? どんな知的好奇心や科学的な知識が得られるのでしょうか? 楽しみで今からドキドキしています。

皆さまのご参加を心よりお待ちしております。

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